今月の特集2

『THE BOOKS green』(ミシマ社)


 2015年3月、ミシマ社より『THE BOOKS green 365人の本屋さん中高生に心から推す「この一冊」』が刊行になりました。
 本離れ、活字離れと言いますが、世の中には面白い本がたくさんあって、その一冊でふとした瞬間に救われたり、立ち止まったり、背中を押してもらったりすることがある、あの喜びに触れてほしい。とくに、中高生に、面白い本と出会ってほしい!
 そんな思いで作った一冊です。
 もちろん中高生にはかぎりません。「おお、こんな本あったのか」と新しい本に出会えるときめきは、いくつになっても変わらないはず!

 そんな『THE BOOKS green』、1年365日の構成になっているので、いろんな形で本選びを楽しむことができます。今日の日付、自分の誕生日、好きなあの子の誕生日、自分が学校を卒業した日、そんないろんな日付から本を探すことも......。
 いろんな楽しみ方をしていただくべく、今回はメンバーそれぞれ自分の誕生日の日の本を読んで、座談会を行いました。新しい本に出会うワクワク感たっぷりに、全2回でお届けします!

『THE BOOKS green』の楽しみ方 自分の誕生日の本はなに? 前編

2015.06.19更新


5月15日生まれ
「対訳 ディキンソン詩集」エミリー・ディキンソン(岩波文庫)
選者:SUNNY BOY BOOKS 高橋和也さん

 著者であるディキンソンさんの命日が5月15日ということで、この日付に収録されています。アメリカでは著名な詩人のお一人であるディキンソンさんですが、お恥ずかしながら、お名前にうっすら聞き覚えがある程度で、読んだことはありませんでした。生前は作品が発表されることはほぼなく、死後、妹さんがディキンソンさんの詩を見つけて世に出されたことで有名になったそうです。

 ディキンソンさんは生涯家族を持つことなく実家に住み続け、56歳で亡くなるまでの間、後半生はほとんど家を出ることもなかったそうです。この詩集にはそういった、自己の内側に向かい続けた彼女の詩が収められているんですが、内側に向けて突き抜けたら、国境を超えて通じるような、広くて豊かな世界があるのだなと感じさせられました。

 自分の内面と人生で一番向き合うかもしれない中高生の時代に、この本をすすめられたら、自分はどう感じていたかなあと思います。「中高生に推すこの一冊」にこの本を選ばれた高橋さんに、「さすがだなぁ!」と思いました。

 あと英語の詩なので一度英語で音読してみたんですけど、すごく気分がよかったです。社会人になり英語に触れる機会が少なくなっていたんですが、わからない単語も意味を予想してから翻訳を読むと、あらたな発見もあって、面白かったです。

新居こういう本が、行ったらふつうに置いてある本屋さんって、すごくいいですよね!


6月4日生まれ
『闇屋になりそこねた哲学者』木田元(ちくま文庫)
選者:BOOKS 隆文堂 鈴木慎二さん

 戦前生まれの著者・木田元さんがどういう経緯で哲学者になり、その後どんな人生を歩んできたか、ということが書かれている自伝エッセイです。以前から高名な哲学者として存じ上げていたものの、ご著書も数冊か目を通した程度で、不勉強でした。けれどまずタイトルが衝撃的で! 「闇屋になりそこねた」と「哲学者」がどう結びつくねん、と(笑)。そんなことを考えながら読み始めたんですけど、これがすごく面白くて。

 木田さんはお父さんも素晴らしい方で、東北大学の卒業論文でカントの論文を書こうとした木田さんが「カントはちっとも面白くない」とぼやくんですね。するとお父さんに「お前は何回読んだんだ?」と尋ねられ、「むろん一回読んだだけ」と答えると「それじゃ、わからんだろう」と言われるんです。「新カント派の学者で東北大学に来ていたヘリゲルさんは72回読んだけれども、まだよくわからないのでいま73回目を読んでいると言っていたそうだ。それを聞いて、ぼくも三回読んだけれども、よくわからなかった。一回読んだくらいじゃ何もわからんだろう」と。深いなああと身に沁みましたね。

 すごく、なにか「勉強したいな」と思いました。私自身は哲学には全然詳しくないんですが、学ぶことに対する明るさというか、吸収することが心から楽しいということが全体を通して記されていて。鈴木さんのコメントにも「これを中高生の頃に読んでいたら何にも迷わなかったんじゃないだろうか」と書いていらしたんですけど、読んだときは100%はわからなくても、ずっと覚えているような本だろうなと思いました。


6月5日生まれ
『高円寺純情商店街』ねじめ正一(新潮文庫)
選者:宮脇書店湯田店 河村静江さん

 乾物屋の息子である中学生・正一少年の視点から、商店街の日常風景を描いた小説で、昭和30年代の下町情緒漂う作品です。詩人のねじめ正一さんの処女小説で、平成元年に単行本化、その年の直木賞を受賞しています。ぼくが生まれたのも平成元年なので、なんだか運命的なものを感じてしまいます。
 この本は描写が本当にリアルで、目の前で見ているような描写がたくさんあるんです。とくに印象的なのが、正一少年が家の手伝いで、スライスした鰹節をさらに細かくして粉鰹にする際の、鰹を振るいにかける描写です。

 「そのふるいに、削り機の受け箱に溜まったふわふわの花かつををわしづかみにして入れ、右手の指を広げてサッサッサッサッとこすっていく。ちょうどシャンプーで頭を洗う要領で、手の平を使わずに手首の力をゆるめ、指先だけでサッサッサッサッとやるのがコツだ。サッサッサッサッと指の腹でこする手応えを確かめながら、退屈しないように円を描いてサッサッサッサッとこすったり、斜めにサッサッサッサッとこすったり、タテ横にサッサッサッサッとこすっているうちにかつをの脂が指先にもくっついてきて、こするたびに指先が脂ですべりがよくなり、つやつや光りだし、それでもサッサッサッサッとこすっていると指紋がなくなってしまうのではないかと思えるほど指先がつるつるぴかぴかになってきて、サッサッサッサッとこする......」

新居何回言うねん!

一同はははははは(笑)!!

池畑ぼくもそうだったんですが、いまはマンション暮らしが多くて、近所の人とお互いの家事を手伝ったりすることってほとんどないと思うんですね。でもそういうご近所さんや他人とのつきあいのなかで、人は大人になっていくんだと感じる作品でした。きっといまの子どもたちにも、反面教師になってくれる大人がもっと必要なんでしょうね。ちなみに、高円寺には本当に「高円寺純情商店街」という商店街があるので、ぜひ行ってみてください。


6月17日生まれ
『星やどりの声』朝井リョウ(角川文庫)
選者:フタバ図書GIGA本通店 前田奏絵さん

 朝井リョウさんの小説はほとんど読んだことがなかったんですが、デビュー作の『桐島、部活やめるってよ』が映画化されたときに、恵文社一乗寺店の堀部店長に「映画面白いよ」と勧められて、まずは映画から入りました。

 この『星やどりの声』は6人兄弟の家族が舞台で、一番上が社会人のお姉ちゃん、大学生のお兄ちゃん、次男が高校生、中学生の双子姉妹、小学生の末っ子がいて、お母さんが仕事をしていて、お父さんはいないという家族構成。それぞれの目線からお父さんがいないことや、家族のことを見ていくというお話です。
 ぼくは兄弟3人の真ん中なんですが、鳥居兄弟はそこまで仲良くなかったので作中での兄弟の会話とかを読んでいて「ああ、こういう家族もあるのか」「兄弟でこんなに会話するんだなぁ」と思いましたね。

平田ええっ!

渡辺なんというか、切ない発言が出ましたね......。

鳥居『桐島、部活やめるってよ』と『星やどりの声』に共通しているのは、いろんな性格の登場人物が出て来て、いろんな目線で物をみること。どんな人でも登場人物の中の誰かに共感できる。自分と作中人物を重ね合わせて読むと楽しいです。全然違う立場の人間がどんな風に考えているのかがなんとなくわかるのもおもしろいですね。例えば高校生の頃、クラスの女子とか何考えてるかわからなかったけど、小説を通して「なるほど」とおもったり。
 『星やどりの声』の中で僕が近いものを感じたのは、6人兄弟の末っ子。お兄ちゃんたちとは年が離れていて、年が近いのは双子のお姉ちゃんなので、他の兄弟とちょっと距離があるんですね。その距離感みたいなものはわかる気がしました。
 これを中高生の頃に読んでも「ああ、そうだよなぁ」としか思わないかもしれないんですけれど、おっさんになってから読むと「ああ、そうだよなぁ」と思えるんじゃないでしょうか。

新居......言ってること変わってへん!

鳥居それが良さだと思います!


<つづきます>


  

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