今月の特集2

『THE BOOKS green』(ミシマ社)


 2015年3月、ミシマ社より『THE BOOKS green 365人の本屋さん中高生に心から推す「この一冊」』が刊行になりました。
 本離れ、活字離れと言いますが、世の中には面白い本がたくさんあって、その一冊でふとした瞬間に救われたり、立ち止まったり、背中を押してもらったりすることがある、あの喜びに触れてほしい。とくに、中高生に、面白い本と出会ってほしい!
 そんな思いで作った一冊です。
 もちろん中高生にはかぎりません。「おお、こんな本あったのか」と新しい本に出会えるときめきは、いくつになっても変わらないはず!

 そんな『THE BOOKS green』、1年365日の構成になっているので、いろんな形で本選びを楽しむことができます。今日の日付、自分の誕生日、好きなあの子の誕生日、自分が学校を卒業した日、そんないろんな日付から本を探すことも......。
 いろんな楽しみ方をしていただくべく、今回はメンバーそれぞれ自分の誕生日の日の本を読んで、座談会を行いました。新しい本に出会うワクワク感たっぷりにお届けします。
 きょうは7月生まれ以降の後半です!

『THE BOOKS green』の楽しみ方 自分の誕生日の本はなに? 後編

2015.06.22更新

前半はこちらhttp://www.mishimaga.com/special02/073.html

7月20日生まれ 『ボクの音楽武者修行』小澤征爾(新潮文庫)
選者:ON READING 黒田杏子さん

 これ、すごくいい本ですよね。いやー、ほんとに素晴らしい本だなと思って。若き日の小澤さんの瑞瑞しい人となりに触れ、いちいち感激しながら一気読みしました。

 小澤征爾さん、今でこそ世界的な指揮者ですが、当然、若者だったころは、まだ何者でもないわけで。でも、高校のときに指揮者になりたいと思い、学校を入りなおした。24歳のとき、「外国の音楽をやるためには、その音楽の生まれた土、そこに住んでいる人間、をじかに知りたい。」と思い立って、ヨーロッパに行くことを決める。まさに音楽の「武者修行」といった体で。けれど当時、小澤家は裕福ではなかったようで、「しかし一番頭を痛めたのはなんといってもお金のことだった」なんて書いてある。でも小澤さんはとてものびのびとした方で、やりたいことがあると、それを成し遂げるためのアイデアをパッと思いついて実行できる、ここ一番の行動力を持ち合わせているんですね。それは、ヨーロッパに行ってからも発揮されます。いろいろなエピソードが、読んでいてとても楽しかった。小澤さんはつねに音楽とともにあって、それがまっすぐだから、とってもいいんですよ。

「行きたいけど僕にはお金がないからできない・・・」みたいな、条件が整わないことを理由に言い訳じみた話をする人っていますよね。いや、ときに僕自身もそうかもしれません。でも、小澤さんは決してそうは考えない。自分が好きなこと――小澤さんの場合は音楽ですけれど、それを真ん中に据えることができさえすれば、あとはもう、腹を決めてどんどんやったらいいんだと、そういうことなんだろうなと思いました。小澤さんが発揮するここ一番でのすごい集中力、その源泉は、これにある気がしました。

 あと印象的なのは、小澤さんの優しさ。ヨーロッパに向かう船や、その後の道中でひんぱんに家族や友人へ手紙を書いているんです。それが本文中に掲載されていて、家族に対する優しさが垣間見える。小沢征爾という人に会ってみたくなりました。
 とにかくこの本の持つ清清しさに魅了されました。扉の写真も素敵で、引き込まれました。できれば中高生のうちに出会っておきたかったよなあ。でも、いつ読んでも遅くはないのかも。これ、みんなも読んだらいいですよ。そしたら、前向きな日々を過ごせるんじゃないかな。
 ぼく、7月20日に生まれてよかったです。いま、この本に出会えたことに幸せを感じています。



7月22日生まれ 『青春デンデケデケデケ』芦原すなお(河出文庫)
選者:くまざわ書店那覇店 有村奈津子さん

 ベンチャーズの「Pipeline」という曲の「デンデケデケデケ......」というイントロをラジオで聞いた、香川の田舎に住んでいる主人公が、「これがロックや!」と衝撃を受けてバンドを組んで......というお話です。
 高校に入ってから友だちを誘ってバンドを組んで、お金がないから友達のつてでバイトをして、ギターを買って、夏休みに合宿をやってみたりとか、知人のよくわからないパーティでデビューして失敗したりだとか......選書してくださった有村さんが「読んで笑ってひとつの青春を疑似体験しました」と書かれているように、青春のあの空気がバンバン出てきます。

 終盤、学園祭でライブをするシーンがあるんですね。高校を卒業するし、もうみんなでライブをするのもこれも実質最後だろう、と。そのあたりを読んでると胸がグゥーッと痛くなる感じがして、彼らのクラスメイトになったような気持ちになります。男の子なら主人公に自分を投影するかもしれないし、女の子も追体験できる。

 一番好きなシーンをちょっと引用します。
 夏休みに川辺で合宿をするんですけど、みんなでカレーを作ったりして、夜はテントの中ラジオをつけると名曲が流れてきてみんなでうっとりしながらそれを聴くんですね。明かりはロウソクなんですが、ロウソクもだんだん溶けてきて......
「全員テントに入って横になる。もちろん寝心地がいいわけではないが、ぼくはとても安らかな気分だった。富士男と岡下は申し合わせたように毛糸の腹巻を持参していた。この世には悪意というものはないのだ。あったとしてもほんの少しのもので、善意の方がずっと多い――などと、ぼくはふと、そんなたわけたことをぼーっとした頭で考えているうちに、優しい祖谷(いや)の闇に包まれていつしか深い眠りに落ちた。」

 高校生のときに、毎日ドキドキしたり不安になったり、すごく揺れ動いていた気持ちがスゥーッと入ってくる、そんな小説です。映画にもなっていて、とてもいい映画だそうなので、観てみようと思います。



9月23日生まれ 『狂喜の読み屋』都甲幸治(共和国)
選者:B&B 寺島さやかさん

 この本はまず帯が面白いんですよ。「帯なんてはぎとって早く読め!」って書いてあって、それなら帯つけるなよってまず思う(笑)あと「都甲幸治は裸で叫んでいる」とか「ことばの海に素っ裸で飛び込め!」とかどんだけ裸アピールするのかと(笑)。
 本は、「どうしても時給百円までいかなかった」という一行からはじまります。タイトルにもなっている「読み屋」というのは、海外の本を原文で読んで、出版社に翻訳したらどうかと紹介をする仕事です。その仕事の相場が一冊一万円ほどだそうなんですが、一冊を丁寧に読むとなるとどうしても1カ月くらいかかることもあるらしいんですね。そうなると結果として時給百円にも満たないことになってしまう。
 でもそのときの修行時代があったからこそ、最終的にこういった一冊の本が書けるようになるんですよね。だから消費者的なマインドで時給いくらだからどうとかという話ではないんだな、ということをまず冒頭で再確認させられました。
 本自体は、アメリカ文学者である都甲さんの書評集・ブックガイドなんですが、教科書に載っているアメリカ文学史には出てこないような作家さんがたくさん紹介されていて、新しい出会いばかりですごく新鮮でした。実は海外の本以外にも、なんとミシマ社刊の『いま、地方でいきるということ』(西村佳哲・著)を紹介してくださっていたりもします!
 出版元である共和国は、2014年にできたばかりの出版社で、藤原辰史さんの『食べること考えること』も出されています。これもいい本ですね~。これからもどんな本を作っていかれるのかが楽しみです!



10月5日生まれ 『バッテリー』あさのあつこ(角川文庫)
選者:リブロつくば店 小川義幸さん

 全部で6巻あるシリーズものなんですが、私はいま3巻を読んでいる途中です。これがすっごく面白くて! 夢中で読み進めています。
 主人公・巧は、春から中学生になる12歳の男の子。中学の入学にあわせて、家族で両親のふるさとに戻ってきます。そしてこの巧くん、野球のピッチングがめちゃくちゃ上手で、それに対してこっちが恥ずかしくなるくらい自信をもっているんです。同じクラスにいたらちょっとムカつくくらいなんだけれど、腕はやっぱりすごくて。

 べつにスポ根ものでも、冒険譚でもないんですけど、今まで自分だけを信じてきた巧くん、いろんな人と出会っていくなかでどんどん揺さぶられて、ぶつかっていきます。これが本当にぶつかりまくるんです(笑)。わたしはもう大人だから、「あ〜〜、そんなこと言っちゃうんだあ」とか読んでいて思うんだけれど、巧くんの気持ちもわかるし、親や周りの先生たちが言うこともわからんでもないんですよね。
 読んでいて「お前はそれでいいのか?」と言われている気分になりました。巧くんは、本当に面倒臭いことも引き起こすんだけれど、自分の頭で考えて「おかしい」と思ったことを無視しない。そういうところが胸に響きました。

 あと、選書いただいた小山さんが「親にもすすめてる」と書かれていて、それはすごくいいなあと思いました。親の言い分もたくさんあるんだけれど、子どもからすると「なんでわかってくれないんだよ!バカ!!!」という感じで、親からすると「なんだ偉そうに!!」というかんじで、みんなぶつかりあって......マグマ!!!という感じの本です(笑)。

新居これ、まさに私、小・中学生のときに刊行されて、夢中で読みました。児童文学なんだけれど、そんな枠はとうに超えてしまっている。素晴らしいですよね!! もう一度読みたいな〜〜。


・・・

星野こうして話すだけでも、どんどん読みたい本が増えていくね。

渡辺いやあ〜、本当、選書いただいているものどれもいい本ばかりで!

平田学校の先生たちが、たとえば授業で使ったりとかしてもすごく面白そうですね。

長谷川そんな授業、受けたい......!

新居『THE BOOKS green』は「中高生に〜」と書いていますが、私たち大人が読んでも心にしみるものばかりですね。これを機にたくさん本を読みたいと思います!

鳥居おー!


  

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

バックナンバー