今月の特集2

 昨日に引き続いての京北町レポート。
 2日目の今日は実際に京北に移住された太田みどりさんのレポートです!
 今回の合宿では、滝行、禅寺案内から宿のことまで、大変お世話になりました。

 移住された経緯や、その後暮らしについて。移住してからでないと分からない
 本当のことを書いていただきました!

合宿のすすめ 〜京北町レポート〜 太田みどりさん編

2015.08.06更新

移住するまで

 数年前、何かに心が向くまで真剣にダラダラしてみようと唐突に思い立って、それまで勤めていた会社を辞めた。先の事は考えず、とりあえず貯金が底をつくまでぽぉーっとしてみようと心に決めて、フランスからスペインにかけて900キロからなる巡礼路を歩いてみたり、10日間の沈黙の瞑想コースに参加してみたり、長野で開催される原始感覚美術祭という不思議なお祭りでボランティアをしたり、それからあとの大半は当時暮らしていた東京の築100年の美しい古民家で日がな一日ぼんやりして、1年間を過ごした。1年経っても取り立てて何かをしてみようという気はおきなかったのだけれど、なんとなく田舎に暮らしてみたいなぁという想いが小さく膨らみはじめていた。ちょうど貯金を使い果たす頃、知り合いから「京都の山奥にある京北という地域で暮らしてみないか」という誘いがあり、いくらか悩んだあと流れに乗ってみることにした。

 移住の話があるまで京北なんて地名は聞いたこともなかった。初めてここを訪れた日にみた杉の山は薄暗くて、きりりと美しく手入れされた山と、放置されてうっそうと枝が茂る山とがランダムに混じり合って、山を眺めていると「自然」というよりは「人」を感じて、少し息苦しくなった。

美しく枝打ちされた杉林


 「ここで暮らしていけるかな」という不安を感じながら、おずおずと田舎暮らしが始まった。一昨年の10月に移住して、翌年の3月までは地元のNPOでお世話になった。その5ヶ月の間に、色んな人を紹介してもらった。京北で出会う人々は、都会にはいない、初めて出会うような人がたくさんいた。特に衝撃が大きかったのは、山を守る木こりさんたち。京北は全面積の93%が森林で、平安京の時代から林業が栄え、長く都を支えてきた。町には全国で唯一、地元の材だけを扱う材木市場があって、月に3回開催される競り市では良質な材を求めて全国から人々があつまる。

月に3度行われる競り市



 これまでに何度か、山に入れてもらえる機会があった。木こりの山は、もちろん登山用に整備されてはいないので、とても険しい。地下足袋で飄々と歩いていく木こりのあとを、へっぴり腰でついていく。「10分でつくわ」と言われた場所に、1時間もかけてようやく到達する。一度、同行していた男性(木こりではない)が、足を滑らせて斜面を滑落したことがあったのだけど、木こりは眉毛ひとつ動かさず「じきに止まるわ」と言うだけだった。毎日、危険と隣り合わせで仕事をする彼らにとっては、小さな怪我は怪我ではないのだ。

 大きな木が切り倒されている光景は、初めて見る人にとってはショッキングなものかもしれない。けれど、植林の山は人間の手入れを必要とし、適切な伐採がなされなくなった木々は重量を増し、すぐに地滑りを起こす。木を切り倒した後は、再び杉や檜の苗木を植えるか、何もしないでいると10年ほどで雑木の山になるそうだ。

架線(木を運び出す線)を張るのも木こりの仕事。木を切り出す前に、
線を張るため重たいロープを背負って一直線に山を歩かなくてはならない。



森での時間

 木を植えてから出荷するまでには最低でも70年はかかる。樹齢70年の木なら70年以上、樹齢100年の木なら100年以上、木材として第二の人生(樹生?)を生きることができる。

チェーンソーと斧を使って木を切り倒す。木が倒れると、ふわっといい匂いがする。



 木こりは100年、200年先のことを想って仕事をするけれど、田舎に住む人々は、木こりに限らず、遥かな未来や、遠い過去を見わたす目をもっているように感じる。小さな集落に点在するお屋敷のなかには、200年以上も前に建てられたものも多く存在する。そういう家には決まって立派な仏壇があって、家族は200年分のご先祖様と共に生活する。古い家に足を踏み入れると、そこに漂う長い長い歴史と家を見守る者たちの気配を感じずにはいられない。よく「田舎は閉塞感がある」とか「保守的だ」とか言うけれど、近所の人たちだけでなく、沢山のご先祖様の目も感じながら生活しているのだから無理もない。

 ずっと都会で暮らして来た私にとって、直接的な物言いを避ける田舎のコミュニケーションはすりガラス越しに会話しているようで、なかなか難しい。「東京から来ました」と言うと、宇宙人でも見るような目で見られることもある。でも中には「なんか一緒にできんか」と声をかけてくる物好き(?)な人たちもいて、そういった縁で少しずつ、田舎で仕事を作っていくことができた。なかでも、京北に大きな茅葺き屋を所有する方のところには、一緒に協力し合って外国人旅行客を呼び込み、農家民泊や田舎の体験ワークショップなどを提供している。

茅葺きの屋根の下で、ヨガのワークショップ。インドネシアのヒップな若者たちと。



 これまで様々な国から延べ700名程度のお客さんが来訪したけれど、山がお客さんを選別するよいフィルターになるのか、一度も困ったお客さんには遭遇したことはなく、むしろずっと大事にしたいような出会いがたくさんあった。

中国と韓国から来たお客さまと、お茶体験。



よそものとして

 こちらに来て、もうすぐ2年が経とうとしている。今になって思えば、憧れいっぱいに田舎暮らしが始まったのではなくてよかったなと思う。2年間で一度も夢を打ち砕かれたり、がっかりするようなことはなかったし、むしろ京北の好きなところが一つずつ、増えていく。整然と立ち並ぶ杉の森を見ても、息苦しさを感じることはなくなった。かわりに鮮やかな技で山を守る木こりたちのことを誇らしく思うようになった。季節が目の前で、毎日ゆっくりとすすんでいくのを眺めて「今日が一番美しい日だ」と思う。この地に200年以上ものルーツをもつ人たちに囲まれて、私はきっといつまで経っても「よそ者」であり続けるだろうけれど、よそ者として京北の土を軽やかに歩いていきたい。

毎年、春先におちる鹿の角。

夏は色んな緑に囲まれる。

空気が赤く染まる秋。夜に哀しげに鳴く鹿の声も、深い紅色。

冬の滝は、心が震えるほど綺麗。



 8月と9月、京北の木こりたちが中心となったイベントが京都市内と京北で開催されます。木こりたちの仕事に触れに、是非遊びに来てください。


京都京北・森林の収穫祭
8月30日 @梅小路公園

京都京北・木こり技能大会
9月13日 @京北 合併記念の森

詳細はホームページで


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