今月の特集2

左)『佐藤純子のひとり飯な日々』佐藤ジュンコ(ミシマ社)/右)『ぼのぼの』いがらしみきお(バンブーコミックス)

 

 ときは7月3日(金)。場所は仙台、SENDAI KOFFEE。その夜、夢のようなご対談、名づけて<Friday Night Fever>が開催されました。
 いがらしみきおさんの大人気ロングセラーコミック『ぼのぼの』の第40刊発売と、ミシマ社の新シリーズ<コーヒーと一冊>から佐藤ジュンコさんの『佐藤純子のひとり飯な日々』の発刊とを記念して行われたこのイベントには、定員の50名を超えるみなさまからお申し込みいただき、立ち見も出るほど。
 お二人の妄想と現実入り交じる、ほのぼのトークの模様の一部を、みなさまにお届けしたいと思います。どうぞお楽しみください!

(構成:星野友里、構成補助:大沼真理奈、写真:池畑索季)

いがらしみきおさん×佐藤ジュンコさん <Friday Night Fever(2)>

2015.08.18更新

「私を止めたら大変なことになるわよ」っていう顔

―― 今回発刊記念になったお二人それぞれの新刊と、合わせて読むならコレという1冊を、お二人にそれぞれ選んできていただいています。そのご紹介をお願いします。

『今日を歩く』いがらしみきお(IKKI COMIX)

ジュンコじゃあ私から。私が選んできたのは、『今日を歩く』 (IKKI COMIX)という本で、これはいがらしみきおさんの、今年3月に出た本です。タイトルの通り、お散歩の話なんです。「いがらしさん、よくこういうところに目がいくなあ」とか、「あっ、このかんじ、わかる!」って思う瞬間があったりして。いつもすれ違う人に「テクルさん」って勝手に名前を付けて解説している章があって。

いがらし毎朝散歩するんですけども、必ず同じコース歩きます。ですから、おんなじ人に会う確率が相当高いわけですね。で、そうすると、初めて会った時が小学生で、その子が中学生になって、それから高校になるともう散歩でも会わなくなって、いつのまにかもう姿が見えなくなる。そういうこともいろいろあります。それで、さっき言ったテクルさん。

ジュンコテクルさんが、ゆるやかに、いがらしさんを迂回して歩いてて(笑)。車道にはみ出てまで迂回するんですよね。テクルさん、すごく気になるなぁ...。

いがらしテクルさんは今でも会います。やっぱり一言も話したことなくて。なんか話しかけられないような感じするんだよね。いつも怒ったような顔してるし、笑ったの見たことなかったんだけど。散歩のときじゃなくて、プライベートでスーパーで、お友だちがいて、立ち話してたのね。それ見て、「テクルさんにも友だちがいるんだなぁ」と思ったし、足元にスーパーで買った食料品とか置いてて。それを持ってまた家まで歩いて帰るのかと思ったの。

ジュンコすごく大変な雨の日にも、バスに乗らないでテクルさんは歩いていて、その時の顔がすごかったっていうのが...。

いがらしすごいよ。鉄人っぽいもん。

ジュンコ「私を止めたら大変なことになるわよ」っていう顔をしてた、って。

いがらしそうそう、もう地球が爆発するわよっていうくらい(笑)。とても止められない。声なんかかけられないですよ。


そのときの自分の世界を、スキャンして歩いている

ジュンコいがらしさんは、けっこう妄想をするんだなぁって。

いがらし『今日を歩く』というのは、とりあえずわかりやすいギャグというか、くすぐりというか、そういうのはやらないことにした。で、あとは何をするかというと、ホントに病理的というか、ちょと生ぬるい感じのしかけというか、ホントありえないんだけども、自分の中ではこういうふうになってるんですと、そういうところを描こうと思ったんですね。

 なんというか、散歩って、そもそも「私の散歩は」ですけども、そのときの自分の世界をなんかこう、スキャンして歩いているような感じがして。それで、本当はそんなことありえないのに、この人には病気がちの子どもがいて、病気とはこういう病気で...、そういうことを妄想というよりも、う~ん、普通ですね(笑)。普通にそういうこと考えて歩いてるから、だから、やっぱり散歩というものに自分が向いてるんだと思いますね。

ジュンコ散歩からこんなに掘り下げて、いろんなお話が出てくるんですよね。散歩の時間にその道に見えるものだけじゃない。それがすごくたのしい。

いがらしジュンコちゃん、あんまり散歩したりしないの?

ジュンコもう散歩もしないし運動もしないし、家の中で絵を描いたり連絡したりで終わっちゃう日が増えて...最近ブクブク太ってきて...。もう腹筋とかも何もできないし、歩くの、いいかなぁー。

いがらしあんなにおいしそうにビール飲むんだもんね。それはしょうがないですよ(笑)

ジュンコあの、ビール腹ってこう...小さいころに、「ザ・ビール腹」な人を見かけて、「あ、ビール!樽だ樽だ!」なんて思ってたけど、近頃「あれ?私にも小さな樽が...」って思うようになりました(笑)


いがらしだけど、この人がビール飲むところを見ると、ちょっとビックリしますよ。ホントにね、とてもおいしいジュースをトンと置かれた子どもみたいにして「ゴクゴク」って。手を付けられない。声を掛けられないの。ホントかわいんですよ。

ジュンコありがとうございます。あとでまた飲みます(笑)。


才能と才能とが、ぶつかり合って本当に弾けている

『写訳 春と修羅』宮沢賢治、齋藤陽道(ナナロク社)

いがらしじゃあ私の本いいですか? これは「写訳」と書いてあります。「写真」で訳す。つまり、これは何を訳すのかというと、宮沢賢治の「春と修羅」。この詩集の一部の詩に重ねて、自分が撮った写真をいわゆるコラボレーションっていうんですか。そういう物語を一冊つくった本なんです。で、写真を撮った齋藤陽道さんは、全ろうの方で。耳が聞こえないんです。話もしないんですけど、耳が聞こえないでそれで写真を撮った。

 私、この本をジュンコちゃんにいただいたんですね。で、全然前情報なしに、この本を見ましたら、あの~、けっこうぶっ飛びました。なぜぶっ飛んだのかというと、私、この前まで『アイ』というマンガを描いてたんですけど、『アイ』でずっと悩んでいたのが、目の見えなかった人が初めて光を感じて世の中を見た時に、どういう映像で見えるのかなぁというのをずっと考えてたんですね。それでずーっと考えてたことが、なんか齋藤さんの写真にもう写ってた。

 何の写真なのかわかんないんですけど、一目で光が...その光が...何の写真というよりも、ぼーっとしてる。何をとった写真というふうな説明も必要がない。このカタチのない陰影というか、そういうのに少なからずショックを受けましたね。

 で、この前またジュンコちゃんとの間柄で、齋藤さんと晩ご飯を食べる機会がありまして。で、その席上で、これ告知になっちゃうかもしれないですけど...、この齋藤さんという全ろうの方と、私は難聴のほうですので、全ろう対難聴ということで、トークショーをやると。どういうふうにをやるかというと、これはたぶんチャットになると思います。「チャットーク」というか...そういう形で何ができるんだろう...聞いた私も全然わかんないんですけど、そういうことを8月の22日にします。

ジュンコ楽しみです。

いがらし齋藤さんの詩は...写真です。詩を書くというのを写真に撮ってしまっている。ですから、確かに宮沢賢治の詩を訳している。写真で。私から見ると、むしろ齋藤さんの写真を、宮沢賢治が、詩で訳している。そういうイメージがあるんです。ですから、なんというんだろう、コラボレーションというよりも、才能と才能というか、そういうものが、ぶつかり合って本当に弾けている。なんか、ちょっとウルっときます。そういうシーンがあります。

 人の死について宮沢賢治が書いた詩がある。詩と死でちょっとわかりにくいですけども。人の死について書いたポエム、齋藤さんがかぶせた写真と、ものすごいギャップがあるんですけども、それがすごく、世界に奥行きを与えているところがあって。なんていうんだろう...齋藤さんの才能に少し嫉妬しました。で、まぁ告知になっちゃいますけど、今言ったような感じで齋藤さんとトークショーやる予定ですので、もしお時間ある方はぜひいらっしゃっていただきたいと思います。よろしくお願いします。

ジュンコお二人のトークイベントは、仙台で開催する予定なので、詳しく決まったら、またお知らせします。

※イベントの詳細はこちらをご覧ください。

    

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いがらしみきお
1955年宮城県生まれ。5歳の時、神の啓示により漫画家になろうと決意、24歳でデビュー。『ネ暗トピア』などで圧倒的支持を得る。『ぼのぼの』は大ヒットとなり、映画化、TVアニメ化される。ほのぼのとした絵柄に、不条理のギャグ、そこに生と死についてさえ問いかけるような鋭い洞察がにじみ出る、独特の作風を持つ。ホラー系の絵柄の作品も手がける多才・天才ぶり。神の啓示はホンモノであった。

佐藤ジュンコ(さとう・じゅんこ)
1978年福島生まれ。福島育ち、仙台暮らし。ひとり飯18年目。イラストレーター。
2014年4月に書店員を卒業。フリーペーパー「月刊佐藤純子」不定期発行、友人知人に押し配り。2012年『仙台文庫別冊佐藤純子』発売。残念ながら現在、出版社品切。宮城県内の見所を紹介する「マッチ箱マガジン」シリーズ(佐々木印刷所)では、松島編・白石編・仙台時間21~24時編を担当。

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