今月の特集2

 2015年も残すところあと10日。ミシマガジンでも「今年の一冊座談会」を掲載する時期がやってきました。ミシマ社メンバーが東京と京都をSkypeでつないで、今年読んで一番感動した本について語り合った様子を2日間でお届けします。

 みなさんは、今年一年、どんな本に出会いましたか? 一年の終わりに「今年の一冊はなんだろう...」なんて考えながら、読んでいただけたら嬉しいです。それでは、座談会の後半スタートです!
 

2015年 今年の一冊! 座談会

2015.12.22更新


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『それからはスープのことばかり考えて暮らした』吉田篤弘(中公文庫)

『それからはスープのことばかり考えて暮らした』吉田篤弘(中公文庫)

 僕は吉田篤弘さんの『それからはスープのことばかり考えて暮らした』を選びました。京都発の文庫のベストセラーを作ろう、という思いから生まれた、京都の書店員さんが選ぶ「水無月大賞」に今年この本が選ばれたんです。

 ひとり暮らし始めて、毎週末シチューとか、ポトフとか、ミネストローネとかつくってるんですけど、この本の影響が大きいかもしれないです......。登場人物が語る、「スープに主役を作っちゃいけない」とか、「名無しのスープがいい」とかいう言葉がすごく魅力的なんです。

 あと、この本読みながら、内田樹先生が『街場の教育論』などで書いている「人間の成熟とはなにか」みたいな話を思い出しました。ひとりの人間の中におばあさんさんがいて、おじさんがいて、少年もいて......と、いろいろな人が自分の中にどんどんふえていくことが成熟なんだ、というお話をされてますけど、まさにスープも同じだなあって思って。いろんなものが入っていて、でも喧嘩することなく、ぐつぐつ煮てるうちに溶け合った状態が一番美味しいですよね。小説ですからレシピなんか一切書いてないんですけど、レシピが書いてあるような料理本を読むより、スープつくりたくなりましたね。改めて「本のジャンルとはジャンルとはなんなのか」と考えさせられました。

アライいや、田渕くんはまず料理本をしっかり見つめて料理をしてみるということが大事やろ・・!

タブチおっしゃる通り...。まだまだ未熟者であります...。精進いたします...!


『はしっこに、馬といる』河田桟(カディブックス)

『はしっこに、馬といる』河田桟(カディブックス))

 僕の今年の一冊は、『はしっこに、馬といる』です。与那国島で馬と暮らしながら本づくりをされている河田桟さんの書かれた本です。
 数年前に『馬語手帖』という本を出されています。『馬語手帖』は、馬が何を喋っているのかっていうのを辞書みたいな本で、「ヒヒン」と「ヒヒヒン」の違いなどを解説してくれる素晴らしい本なんです。

 そしてこの第二弾の『はしっこに馬といる』は馬とどう仲良くなっていったかとか、これからどう暮らしていきたいかというのを書いています。馬って一見優しそうで、人間にも懐きやすいのかなと思ってましたが実はそんなことなくて、怖がったり、蹴られたり、一緒に暮らすにはたくさんのハードルがある。二人(一人と一匹)も徐々に距離を詰めて行って、今では背中に乗って散歩したり、仲良く暮らしているそうです。動物との距離の詰め方っていうのはものすごく時間がかかるんだけども、その時間の進み方がすごくいいなあと思って、読みました。
 僕もいずれは庭の亀たちと意思疎通できるようになって「庭に亀がいる」って本を出したいですね。嘘ですけど。

自由が丘とスカイプでつなぐ京都オフィス


『現場からオフィスまで、全社で展開する トヨタの自工程完結――リーダーになる人の仕事の進め方』佐々木眞一 (ダイヤモンド社)

『現場からオフィスまで、全社で展開する トヨタの自工程完結』(ダイヤモンド社)、そして・・・、『透明の棋士』(ミシマ社)

 今年、「何度も読み返した本」ってなにかなあといろいろ考えたのですが、頭に浮かぶのは将棋の本ばかり。「どんだけ将棋のこと愛してるんだボクは」って思ったんですけれども。
 で、将棋以外で何度も読んだのは、このビジネス書だったんです。この本には、「仕事の品質を上げるためには、どのように取り組むとよいのか」ということが書かれています。トヨタでの取り組みの事例が、そこでの考えかたが紹介されています。

 自分が問題解決に迫られたときや、何となく惰性で動いているなと感じたときに、この本をざざっと読むと、業務を見直すきっかけやアイデアがいろいろ湧くんですよね。本に答えそのものは書かれていないですよ。でも、どう考えたらいいかは書かれているので、自分の業務に当てはめて応用が効くというか。まあしかし、どれだけいいアイデアが立てられても、結局は、それを実行できるかどうかが全てですよね。ところが本書にはそのこともしっかり指摘されています。著者が現場で考え、実行し、それを繰り返してきたことが、読んでいてちゃんと感じられました。さすがは改善のトヨタ。

 それにしてもこの本、読みやすいんですよ。何度も読み返すくらいなので、読みやすい。なんだろうと思って、ふと奥付を見たら、編集協力に上阪徹さんの名が。弊社で『書いて生きていく プロ文章論』を書いてくださったあの上阪さんです。やっぱり上阪さんすごいなあと思いました。

『透明の棋士』北野新太(ミシマ社)

 という感じなのですが、でも、「今年の一冊」といえばやっぱり、ボクはこの本が外せないので言わせてください。『透明の棋士』! 今年を振り返れば、これしかないと。自社本ですみません。
 私は35歳から本格的に将棋を習いはじめて、こんなにハマるとは思ってなかったのですが、もう本当に将棋が大好きになって。けれどもそれから4年後の自分が、まさか将棋の本の営業をするようになるなんて! 夢みたいで、感激しましたね。「本の近くにいるといいことがある」っていうのは私の自作・座右の銘なのですが、やっぱりいいことがあるもんだなあと、しみじみしてしまいました。
 まあ、脈絡ないようでいて実は、私のなかではここに紹介した2冊は密接に関係してるんですよ。「仕事が上手くなると将棋も上手くなる。将棋が上手くなると仕事も上手くなる。」という関係性にあるので。これホントですよ。皆さんも将棋やったら絶対いいと思うんですけれど。まあせめて、この2冊だけは読んでみてください。


『みんな彗星を見ていた』星野博美(文藝春秋)

『みんな彗星を見ていた』星野博美(文藝春秋)

 私の今年の一冊は、星野博美さんの『みんな彗星を見ていた』です。文藝春秋から、今年の10月に出ました。某M社から「100ページ前後」というコンセプトのシリーズ出ていて、その読み切る楽しさというのもあると思うんですけど、これはなんと450ページ以上あるんですね。でも、450ページある本を読み切るという喜びを感じた一冊でした。本を読むということの至福が詰まっています。星野さんの筆の力が本当にすごくて、「終わらないでほしい」「この世界にずっといたい」と思いながら読んでいました。

 この本では、400年前に日本に来たキリシタンの宣教師とそれに触れた日本人たちのことが丹念に取材されて追われています。私は世界史の授業は95パーセントくらい寝てしまっていたのですが、こんなふうに自分のこととして興味を持てていたら、もっと面白く学べたのに、と思った一冊です。

 あと、この時代にはリュートという、マンドリンを大きくしたみたいな楽器がすごく流行っていたそうで、その話を書くうちに星野さんがどんどん惹かれていって、しまいにはmyリュートを作ってしまわれるというエピソードが出てきます。それが羨ましすぎて、私も実家にあったアコースティックギターを自分の家に持ってきてしまった、というくらい影響力のある本なので、皆さんにもぜひ味わっていただきたいと思います。



 いかがでしたでしょうか?
 ちなみに、メンバーが「読みたい!」と思った本に投票して決まる「座談会大賞」は、星野の紹介した『みんな彗星を見ていた』になりました。 
 みなさんも気になった本ありましたら、ぜひお手にとってくださいませ!


  

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