今月の特集2

『善き書店員』(ミシマ社)

堀部篤史さん「これからますます立体的に残るものが重要になってくると思うんです。本屋がどんどん潰れていくようになってきて考えるようになりました。本を単純に消費しているだけではダメだ。文脈を考える一方でこの業界の厳しい教育は受けていないこともあって店長になっても外部からのしきたり・構造がおかしいと感じるようになった・・・」(善き書店員より)


佐藤ジュンコさん「書店員に関していわれていることと言うとかわいそうだ、なんて言われますが私は結構楽しんでやっていますよ。ひょっとしたら利益にならないことばかりしているかもだけどやっぱり人と会うのって楽しいですよ。お腹いっぱいにならないけど、胸いっぱいになったと思いますので」(善き書店員より)。


 恵文社一乗寺店の店長を経て独立し、2015年11月に誠光社をオープンした堀部篤史さんと、書店員からイラストレーターの道へと進まれた佐藤ジュンコさん
 2人の共通点は2013年11月に刊行された『善き書店員』(木村俊介・著)でインタビューされていることです。インタビュー当時とは環境は違えど、本と関わり続けている2人。今回は佐藤ジュンコさんがインタビュアーとなって、誠光社について、街の本屋さんの未来について、堀部さんに尋ねました。
 そんな誠光社での初イベントの様子を今日から2日間でお届けします!

(構成:田渕洋二郎 写真:中谷利明)

善き書店員たちの人生案内 堀部篤史×佐藤ジュンコ(1)

2016.01.24更新





誠光社、オープンまで

堀部今回がこの誠光社での初めてでのイベントなんです。ちょっと今日は定員オーバーかなという気もしますね......。すみません......。改善を繰り返しながら、こじんまりとしながらも好きな人に来てもらえるようなイベントをできたらいいなと思っています。

ジュンコ堀部さん開店おめでとうございます。誠光社さんは開店前に、ウェブの方で本を売ってらっしゃいましたよね?

堀部そうですね。通信販売は9月15日からやっていました。独立して1カ月で通販を立ち上げて、予告編みたいにしました。どういうものを扱うかお客さんがご覧になられて、実店舗をみて、ネットで見たものを手にとってみることができるみたいな仕掛けになっています。

ジュンコオープンしますって呟かれてからお店ができるまで、ドキュメントをtwitterでみているような気分でした。

堀部「オープンします」って先に言ってしまったんです。そうしたらもう後戻りできないというか、意外と実現できるものなんですよね。

ジュンコオープンの日を決めて店の内装を決めながら、書籍の内容の決定、発注も同時に行ったのですか?

堀部はい。オープン2日前の23日に、発注した本が入っているダンボールを開けました。25日までの間に偏りがあるとか冊数を増やすとか調整を行ったんですけど、ほんとにギリギリでしたね。

ジュンコ実際に本棚に詰めてみてどうでしたか? 足りないと多いとか

堀部ぴったりでした。

ジュンコわあ。さすが。かなり綿密に計算して注文したのですか?

堀部専門的な話ですが、出版取次というものがあって、一般的にはそこを通さないと新刊書って届かないようになっているんですね。そして例えば「食べ物の本」というくくりで、取次がいろんな出版社の本を選んで配本してくれたりする。でもうちは、出版社と直取引をしているので、自分で本を発注する。そうすると、ちくまさんのリスト、河出さんのリストというふうに考えていくので、たとえばちくまさんの中には食べ物も旅も小説もあるわけです。だから、一社ごとにバランス良く、性格を見ながら本棚をディスプレイしていく。ぶっつけ本番だったのですが、なんとかうまくできました。

ジュンコ出版社のリストだけを見て棚の実際の分量を量っていくのはすごく難しそうだと思います。すごい...。


損得ではない価値観で


ジュンコそうすると、堀部さんやり方は雑貨屋さんなどと近いのですかね?

堀部基本的にはそうです。小売ですね。でも、本の場合は一点物が多いのが特徴的ですよね。雑貨なら10個の商品を色違いで300個とか。考えられるバリエーションは1000に満たない。それを直接、同じメーカーだったりに、100、200仕入れる。でも本は違いますよね。同じ出版社のものでもタイトルが違うものを違う商品として考えたら、商品点数が1000以上になる。その数千点を雑貨屋みたいに商品構成しようとしているのが今回ですね。

ジュンコ自分の中の、こういう本は入れる、これは入れない、という線引きは明確な基準があったんですか?

堀部それは恵文社の時からずっとやっていたことなので一緒なんですよ。ただ置ける量が10分の1になるわけだし、言い方は悪いですが無理して売れるものを入れなくていいし、棚をつくる上で優先度の高い物を好きなように仕入れることができる。以前は本をそんなに読まない人が来ても買ってもらえるように、雑貨的な本もけっこう置いていたんです。でも今は規模と経費を小さくしたので、少ないお客さんでも本が好きな方だけで成立するんです。

 大通りに面していないし路地裏だけど、この雰囲気が好きで店のテイストに共感してもらえる人にお客さんを絞る。だから、商品構成に関してもワガママだし、その点、敷居は高めだけど、その敷居があっても成り立つんです。経費が少ないですし。ここにいる皆さんにじっくり本を選んで、雑貨もついでに買ってもらってという感じでも成り立つような、内訳・計算になっています。

ジュンコ『善き書店員』のなかで堀部さんが話されていたことで印象的だったのは、「美しい」という言葉なんです。清潔という意味ではなく、しつらえとか、店の佇まいとかトータルでの店の雰囲気だとお話しされていたと思うんですけど、恵文社さんの空間とはまた違う美しさが誠光社さんにあると感じました。

堀部ありがとうございます。美しいという言葉を使ったのは合理性とか損得へのカウンターとして使ったんだと思います。損得に勝てる価値観っていうのは、美しいという数値化できない基準でしかないんですよ。今は本の業界は、定価での販売が保たれているのでどこで買っても同じかもしれません。あるいはアマゾンが便利かもしれない。そういうものに対抗する手段っていうのは文化的な価値観を提示するしかないんですよね。文化的とはすごく抽象的ですが、数値化できないものを基盤にもつのが基本姿勢です。


3回飲んで、スタートライン。


ジュンコこういうイベントや展示をやる際には、堀部さんから声をかけるんですか?

堀部そうですね。でも本当に仲良くなってからですね。初対面で声をかけるのは滅多にないです。

ジュンコでは、恵文社のときからもともと関係性があった方に依頼することが多いですか...?

堀部はい。でも今まで繋がりのなかった方でも3回くらい飲んだら、それでもうお願いできるかなと。

ジュンコ3回飲んだら頼まれるんですね(笑)。このこけしの展示の方もそうですか...?


堀部こけしの展示をお願いしているのは軸原さんっていう岡山のデザイナーで、彼とは20回くらい飲みましたよ(笑)。こけしや、民藝周辺のあらゆるものをハードコアに研究し尽くしていて、こけしを見て泣けるほどなんです。彼の仕事を信頼しているからやってくださいと依頼しました。

ジュンコオリジナルのこけしもあるんですよね?



堀部あります。こけし業界もやはり後継者問題があって、若い人がなかなかいないんです。でもこのこけしは、おそらくこけし業界では最年少の23歳の女性が作った。弟子入りして賞をもらったくらい実力もあります。そういうことも考えて軸原くんは彼女のつくったこけしにスポットを当てたんだと思います。作品のまわりにある物語を伝えることによって、作り手さんにも関心がいくような流れができたら面白いですよね。

(つづきます)

 

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堀部篤史(ほりべ・あつし)
1977年京都市生まれ。立命館大学文学部 卒業。1996年より恵文社一乗寺店スタッフとして勤務。2004年に店長就任。2015 年8月に独立し同年11月に京都河原町丸太町に「誠光社」をオープン。著書に『本を開いて、あの頃へ』 (mille books)、『街を変える小さな店』(京阪神エルマガジン社)などがある。

佐藤ジュンコ(さとう・じゅんこ)
イラストレーター。1978年福島生まれ、福島育ち、仙台暮らし。ひとり飯18年目。2014年4月に書店員を卒業。フリーペーパー「月刊佐藤純子」不定期刊 行、友人知人に押し配り中。2012年『仙台文庫別冊月刊佐藤純子』発売(残念ながら現在、出版社品切)。2015年5月『佐藤ジュンコのひ とり飯な日々』(ミシマ社)発売。月刊誌『PHPスペシャル』にて「つれづれBOOK WORM」、ウェブマガジン<みんなのミシマガジン>にて「女のひとり飯」連載中。

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