今月の特集2

『善き書店員』(ミシマ社)

堀部篤史さん「これからますます立体的に残るものが重要になってくると思うんです。本屋がどんどん潰れていくようになってきて考えるようになりました。本を単純に消費しているだけではダメだ。文脈を考える一方でこの業界の厳しい教育は受けていないこともあって店長になっても外部からのしきたり・構造がおかしいと感じるようになった・・・」(善き書店員より)


佐藤ジュンコさん「書店員に関していわれていることと言うとかわいそうだ、なんて言われますが私は結構楽しんでやっていますよ。ひょっとしたら利益にならないことばかりしているかもだけどやっぱり人と会うのって楽しいですよ。お腹いっぱいにならないけど、胸いっぱいになったと思いますので」(善き書店員より)。


 恵文社一乗寺店の店長を経て独立し、2015年11月に誠光社をオープンした堀部篤史さんと、書店員からイラストレーターの道へと進まれたジュンコさん
 2人の共通点は2013年11月に刊行された『善き書店員』(木村俊介・著)でインタビューされていることです。インタビュー当時とは環境は違えど、本と関わり続けている2人。今回は佐藤ジュンコさんがインタビュアーとなって、誠光社について、街の本屋さんの未来について、堀部さんに尋ねました。
 そんな誠光社での初イベントの様子をお届けします!

(構成:田渕洋二郎 写真:中谷利明)

善き書店員たちの人生案内 堀部篤史×佐藤ジュンコ(2)

2016.01.25更新


イベントは人数じゃない

堀部こうやって作り手さんとも親しくなっていったら、もう損か得かの話ではないですよね。イベントをやってその場は儲からなくても、それによって友達にフィードバックがあったり、何か新しいものができるっていうのは美しいと思うんです。そしてやっとそういうことをできる場所をやっと手に入れた気がします。僕も会社員だったらもっと有名なこけしの作り手に頼んでいたかもしれないですけど、今は面白いものが作れたり、それで食べていける設計ができたんです。

ジュンコおお!

堀部あと軸原さんとはこれから、メインストリームの民芸からこぼれたものを掬おうっていう「アウト・オブ・民芸」という講座を全5、6回でやろうと思っているんです。これも極端な話、人数は5人くらいでもいいって言ってるんですよ。それが好きだからやる。そしてアーカイブにして本にすることをここではできるから。それで面白かったねっていう方が僕にとってストレスがないんですよね。


狂い咲きフライデーナイト

ジュンコ恵文社のコテージでのイベントをまとめた本も出てましたよね?

堀部そうですね。レンタル料とかもある程度とらないといけないので、そうするとだんだんイベントに偏りがでてきて、やっぱりマーケット系が多くなります。でもなかにはちょっとごつっとしたカルチャー系とかアカデミックなものを、バランスよく配したいと思っていました。
 なかでもいちばんお客さんが入らないサブカルチャーを自分でやろう、ということで、第4水曜日の夜にこの「ビッグ・ウェンズデー」というイベントをしたんです。シビアな曜日設定ですよね、平日の夜だし、市内で働いている人でも7時にはなかなか来れないと思うんですけど。それでも全20回くらいは開催しました。お客さんがもう常連で、打ち上げも一緒に行って、その数もだんだん増えて行くみたいな流れがありましたね。

ジュンコなるほど。そして「コテージのビッグ・ウェンズデー」の本は、連続してた講座のうちでも特に盛り上がったものを選んだ1冊なんですよね?

堀部そうなんです。1冊目はミズモトアキラさんという方とやった回だけで作っています。内容は、タモリと伊丹十三と村上春樹、その3本をものすごく加筆して収録しています。ビッグ・ウェンズデーも、落ち着いたら名前を変えて再出発したいなと思ってるんですよ。名前は、「狂い咲きフライデーナイト」にもう決めてるんです。

ジュンコ狂い咲きフライデーナイト......(笑)。

堀部タモリさんの曲にあるんですよね、狂い咲きフライデーナイト。実は桑田佳祐が作詞作曲していて、そこからとっています。


小さいパイで、できること

ジュンコそれにしても、こういう小さい本屋さんで出版もしているのはすごいですよね。

堀部ありがとうございます。これからは出版のありかたが小さくなっていくと思うんです。本の売り上げが下がっているっていうのは悲しいことかもしれないですけど、情報を仕入れるとき、それに代わる選択肢がたくさんありますからね。インターネットでも情報は仕入れられるし、いろんな形で情報や学習に触れることができる。そのときに本の持つパイというのは小さくなるかもしれないけど、その少ないパイなりに、10万部のマーケティングじゃなくて、3000部や5000部完売したら、ちゃんとその組織が成り立つ設定を作ろう、と。それは小売店もそうだし、出版社もそうであれば、十分に回るんじゃないかということを実験しているわけです。

ジュンコ自分でつくった本は堀部さんが他のお店に営業もなさるのですか...?

堀部しますよ。まず電話で挨拶、連絡をして、注文書をPDFで添付したメールを送って、よかったら注文してくださいという形にしています。受け入れる側の経験があるので、なるべく負担にならないようにしていて。やっぱり持っていったら断りにくいですし、負荷があるじゃないですか。だからできるだけたくさん情報を提示して、相手が注文にアクセスしやすいようにする、それをいちばん心がけています。

ジュンコ優しいですね......。出版もこれから続けていくんですか?

堀部そうですね。無理しない程度にやっていきたいですね。コンテンツはこうして我々が作っていってるものですし......。1万部も厳しいかもしれないけど、初版3000部くらいであれば、うちみたいな店が100くらいあって、そこに10冊ずつとか降ろしてもらったら、1000部なんてすぐにはけるんですよね。

ジュンコお店をいい半径で回していけるかですよね。

堀部組織を小さくすると、「こういう人が、こういう本を買ってくれた」だとかがわかるのが嬉しいですよね。フィードバックもやりやすい。だから、身の丈にあうように自分も小さくしていけばいいと思うんです。

ジュンコ本もイベントも、いま具体的にやりたいな、と考えているアイディアって何かありますか?

堀部藤野可織さんやいしいしんじさんをはじめ、京都におられる作家さんといろいろやっていきたいですね。たとえばいしいさんなら、ホホホ座の山下さんに聞き手になってもらったりして。2人の関係だからこそ聞きせる言葉もあると思うんですよね。
 また、インタビューする作家さんは全部ばらばらでも、質問はみんな同じにして、読書遍歴なんかを聞きたいと思っています。子どものころに近くにどんな本屋さんがあって、親の影響がどうだったか、どんな本が近くにあったのかなど、フォーマットだけ作って人を変えていく。それをまとめてパッケージにしていくことなどをしたいと考えています。





ノウハウ全部教えます。

ジュンコ誠光社さんをみていて、堀部さんが奥様とのんびりやられている感じがすごくいいなあと思いました。私も仙台でのんびりやりたいなあ。

堀部ぜひ、やってくださいよ。今回全部ノウハウは公開してるんですよ。うちのHPに直取引をさせていただいているお店を乗せているんですが、もし始めるんだったら、「あのHPみたんですけど」、と言うといいと思いますよ。
 そうやって同じような考えの本屋さんが増えてきているなあという感覚を出版社に持ってもらえれば、「じゃあ直取引部門のデスクを一つ作ろう」という動きにもなるじゃないですか。そうしたら仕入れもずっと楽になります。実際、そういう店で本が売れていったら無視できなくなりますよ。全国でそういう動きが出てきたら面白いと思いますね。


ジュンコおお!いいですね。

堀部僕も「ミシマ社の本屋さん」をみてそう思ったんです。本棚をみたら河出とか晶文社の本も置いている。どうやって仕入れているのかを聞いてみたら、直取引でやっているらしくて。そうやって前例があればいくらでも言えるんですよ。最終的には売り上げをたてて、出版社さんに戻せればいいので。

ジュンコ他になにかアドバイスはありますか...?

堀部お金とか数字にとらわれすぎないことですかね。結局は相対的なものですから。例えば、1000万売り上げても組織が大きければ儲かってるとは言えないかもしれないですし。100万円の売上げでも一人だったら儲かってるとも言えてしまう。
 だからこれからもし、本屋とか喫茶店とかをやるんだったら、他人のスタンダードに巻き込まれないことが大切だと思います。周りを気にしていたらきりがないわけです。自分が好きを信じてやる、そうすれば、自然と共感してくれる方も出てくるはずです。


 

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堀部篤史(ほりべ・あつし)
1977年京都市生まれ。立命館大学文学部 卒業。1996年より恵文社一乗寺店スタッフとして勤務。2004年に店長就任。2015 年8月に独立し同年11月に京都河原町丸太町に「誠光社」をオープン。著書に『本を開いて、あの頃へ』 (mille books)、『街を変える小さな店』(京阪神エルマガジン社)などがある。

佐藤ジュンコ(さとう・じゅんこ)
イラストレーター。1978年福島生まれ、福島育ち、仙台暮らし。ひとり飯18年目。2014年4月に書店員を卒業。フリーペーパー「月刊佐藤純子」不定期刊 行、友人知人に押し配り中。2012年『仙台文庫別冊月刊佐藤純子』発売(残念ながら現在、出版社品切)。2015年5月『佐藤ジュンコのひ とり飯な日々』(ミシマ社)発売。月刊誌『PHPスペシャル』にて「つれづれBOOK WORM」、ウェブマガジン<みんなのミシマガジン>にて「女のひとり飯」連載中。

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