今月の特集2

 「自分が食べる肉は自分で調達したい」。千松信也さんは、あるときこう思い立ち、猟師になりました。
 『みんなのミシマガジン×森田真生0号』のフェアを某書店さんで企む私たち(独立研究者の森田真生さん、代表のミシマ、新人タブチ)は、この言葉に影響を受け、思ったのです。
 「自分たちのフェア素材は自分たちで調達したい」と。
 そこで、無理を承知で千松さんにご協力を依頼すると、「うちの裏山でよかったら」、とまさかの快諾! こうして3月中旬、花粉吹き荒れる、京都の北の山へと私たちは向かいました。

(文:田渕洋二郎、写真:中谷利明)

けもの道を行く! 猟師と0号の共通点

2016.04.04更新





 まずは、ご自宅でごあいさつ。「......」無言。いえ、なにも気まずい空気が流れていたわけではありません。
 ご自宅といっても、そこはもう山の一部で、風邪を感じ、落ち葉の揺れる音を聴きながら自分たちもその場の一部になっていたのでした。やがてどちらからともなく声を発し始めると、自然と「肉」の話になっていました。

―― 「千松さんの肉は買えるんですか?」

千松「以前、自分で獲った肉を売っていたこともあるんですけれど、しんどくなってやめてしまったんです。たしかに自分で獲った肉を「千松ブランド」として売れば、それなりにお金は入るかもしれない。でも、それだと本当に食べてもらいたい仲間たちに届かなくて。いったい何のために猟をしてるのかわからなくなってしまったんです。あと、動物がお金に見えてくるというか、動物と素直に向き合えなくなって、猟自体がたのしめなくなっていきました。」

 そう思うようになった千松さんは、自分のとった肉を「商品」として扱うことをやめました。

 うかがいながら、『0号』が目指したものとよく似ていると感じました。たとえば、この本には、商品には欠かせないバーコードがついていません。顔の見える範囲で、手渡しするようにして届けたい。そんな思い出つくったのが『0号』なのです。

 猟師と出版。フィールドは違えど、すっかり意気投合し、フェアの素材を集めるべく、千松さんとけもの道へと入っていきました。


 3方を山に囲まれた京都盆地。3月半ばの京の山々は、春直前の空気を漂わせつつも、葉を落とした木々と、落ち葉で覆われています。一見すると、とくに見どころのない殺風景。そんな感想を抱くにちがいありません。しかし、千松さんは違いました。山へ入るやいなや、その道はけもの視点に変化したのです。すると、落ち葉溢れる空間に、「道」が見えてくるのです。たとえばこれ。


 中央にあるのが、鹿の足跡です。普通に歩いていたら気づかずに通りすぎてしまうようなところに、千松さんは動物の痕跡をみます。たしかに、それをたどっていくと、道なきところに道があるのです。
 糞や食痕、木の傷や泥跡。獲物が残すあらゆる痕跡が、彼らの行動をイメージするための手掛かりになります。

 また、千松さんは猟銃を持ちません。使うのは、「くくりわな」。獲物の脚をバネの力を使ってワイヤーで瞬時にくくって、生け獲りにします。
 でも、その「わな」っていったいどういうふうに仕掛けるのだろう...。
 千松さんが過去にわなを仕掛けた場所にたどりつき、こう話します。


 「鹿がこの木をまたぐためには、当然その手前に脚をつく。そこにわなを仕掛けるんです。こんなふうに動物がどう動くかを考えると、自ずとわなをおくべき場所も見えてきます」。


 よく目をこらせば、イノシシの牙の痕。何箇所か傷がついていますが、牙が立派で体格の良い雄が子孫を残せるのだそう。雌にアピールするために、雄は必死に高さを競っているかのようです。

イノシシが体をこすりつけた痕。


 写真ではわかりにくいかもしれませんが、体をこすった際に木についた、イノシシの毛がついています。ちなみに、イノシシの毛か鹿の毛かを見分けるには、曲げてみれば分かるそう。曲げたときにポキっと折れるのが鹿だといいます。あと、イノシシの毛は枝毛になっています。

 このような痕跡から、どんな大きさの、どんなけものがここを通ったか、そしていったいどんな性格なのか、ということまで推測する千松さん。彼の視線の先を追えば、さっきまで気づかなかった「けもの道」が、だんだんと見えてきます。

【森田真生×千松信也 書店のなかのけもの道】

場所:MARUZEN&ジュンク堂書店 梅田店 2階踊り場スペース
期間:5月9日(月)〜6月中旬


(つづきます)


  

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千松信也(せんまつ・しんや)

1974年兵庫生まれ、京都在住、猟師。
京都大学文学部在籍中の2001年に甲種狩猟免許(現わな・網猟免許)を取得した。伝統のくくりわな、無双網の技術を先輩猟師から引き継ぎ、運送業のかたわら猟を行っている。鉄砲は持っていない。著書に『ぼくは猟師になった』(新潮文庫)、『けもの道の歩き方』(リトルモア)。狩猟にまつわる講演等も行う。

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