今月の特集2

 今年の3月、ノンフィクションライター・井上理津子さんの『関西かくし味』(ミシマ社)が発刊になりました。世の中に山ほどあるグルメ本......とはひと味もふた味も違い、味だけでなく、そのお店の人、生き方までをぐるっと綴っている一冊。うまくて安いは当たり前、関西の「ええ人・ええ味」をぎゅっと詰め込んでいます。
 本書の刊行を記念して、ただいま『京都ぎらい』(朝日新書)が大ヒット中の井上章一さんと、京都にて対談イベントを開催しました(井上章一さんの『アダルトピアノ』『名古屋と金シャチ』は代表・ミシマの編集なのです!)。
 ふたりの「井上」が語る、京都、そして関西とは? 全3回でお届けします。

井上理津子×井上章一 京都ぎらい?の関西案内(1)

2016.06.06更新

『京都ぎらい』は京都讃歌?

章一こんなね、街中のつどいに招いていただけるのはものすごくアウェー感があって、ちょっと縮こまっております。

理津子私も井上章一さんの御本はずっと読ませていただいていましたが、直接お会いするのは実は今日が初めてで、緊張しています。
 あの、『京都ぎらい』のタイトルはどなたがお付けになったか存じあげませんが、きらいだきらいだと言いながら京都賛歌を書いてる、というように読んじゃったところがあるんです。

章一ええ、そうかもしれません。「『京都ぎらい』とどなたがお付けになったか知りません」とおっしゃりながら、「どうせあなたが決めたんやろ」って、思ったはりますよね?

理津子バレましたか(笑)。あと最初に火がついたのが大阪からだった、ということを日経新聞の著者インタビューで知ったんですが、そうなんですか?

章一大阪には、「京都はきらいだ」と思っている人がけっこう多いからでしょうか。......京都はお嫌いですか?

理津子いや、こんなローカルなところでは、言いたくても言えないです!  いやいや、むずかしいむずかしい......。

章一それだけで十分わかります(笑)。


京都のいけず

理津子私、若い頃は関西で、文字通り這いつくばるような情報誌の仕事をやっていたんですね。清水寺に取材に行ったらもうその15分後には次のところへ行かなきゃならないとか、一日10軒取材するとか無茶苦茶なことを日々。そんなとき、京都では少々意地悪を受けたなあという印象がいまも拭えずでして。

章一たとえばどんなですか?

理津子当時の京都の人は「〜どす」って話してらしたことが多かったんです。それがすごくいいなと思って、そこを活かして書きたいなと記事を書く。けれど、あとから「わたしあんなこと言うてまへん」「『どす』なんて言葉の使い方はしてまへん」みたいなお言葉をいただいたりすることも多かったり。

章一活字で書かれるとややあくどく見えてしまうかもしれないね。会話のなかでは問題なくてもね。

理津子うーん、難しいですよね、そのあたりってすごく。先生の『京都ぎらい』のなかでは、地の文でも京都弁というものがもうきれいにやわらかく、やらしいほどに上手に書かれていますよね。こんなふうに書けません、なかなか。


「京都のやらしさ」もすぐ馴染む?

章一僕はピアノをやっているんですが、ときどき近所の人が「上手ですね」と褒めてくれはるんですよ。ここでね、「いいえ、とんでもありません」と答えているようではだめなんです。

理津子えっ。じゃあ......「先生、ピアノ上手ですねえ」。

章一「やかましくてごめんなさい」。気ぃ遣わないとあかんでしょう?(笑)

理津子やかましくてごめんなさい、かあ。なるほど。なんややらしいなあと思ってしまいますけども。

章一でもこれもね、京都の街中で暮らしたら、みんな馴染むんですよ。宇治住まいの私ですら、そうしていますから。みんなそういうやり取りをしてはると思いますよ。

理津子京都で言うと、20〜30年前は取材もどうぞと気軽に言ってくれていたお寺も、このところはだめですね。まず出版社のハンコをついた企画書を出せ、というふうになってきました。会社みたいになってきたと言いますか。さらに加えて、その媒体の発行部数×ウン百円、というふうに取材料を取ったりするお寺さんが増えてきていますね。

章一なるほど。京都の寺社仏閣は、本当にこういうことに熱心ですよねえ。諸外国とくらべても近代化されてると思います。

(つづきます)

  

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井上理津子(いのうえ・りつこ)
1955年奈良市生まれ。タウン誌記者を経て、フリーに。長く暮らした大阪から2010年に東京に引っ越すも、たびたび帰阪している。著書に『大阪 下町酒場列伝』『旅情酒場をゆく』(以上、ちくま文庫)、『新版 大阪名物』『関西名物』(ともに共著、創元社)、『遊廓の産院から』(河出文庫)、『さいごの色街 飛田』(筑摩書房/新潮文庫)、『葬送の仕事師たち』(新潮社)、『親を送る』(集英社インターナショナル)など。最新刊『関西かくし味』(ミシマ社)が今年3月に発刊された。


井上章一(いのうえ・しょういち)
1955年、京都府生まれ。京都大学工学部建築学科卒、同大学院修士課程修了。京都大学人文科学研究所助手ののち現在、国際日本文化研究センター教授。専門の建築史・意匠論のほか、日本文化について、あるいは美人論、関西文化論などひろい分野にわたる発言で知られる。著書に『霊柩車の誕生』(朝日新聞社)、『つくられた桂離宮神話』(講談社学術文庫、サントリー学芸賞)、『アダルト・ピアノ』(PHP新書)など多数。最新作『京都ぎらい』(朝日新書)が「新書大賞2016」第1位に。

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