今月の特集2


 2016年8月下旬、シリーズ「コーヒーと一冊」より、益田ミリさん著『脚本版 ほしいものはなんですか?』が発刊されました。そうです、あの傑作『ほしいものはなんですか?』を原作に、著者の益田ミリさんご自身が「脚本」を書き下ろされたのです。
 原作とはまた違う魅力に溢れた作品になり、ミリさんファンのみならず、原作(漫画版)を読んでいない方々にもぜひ読んでいただきたいおもしろさ!
 一方で、本好きの方々からは、当初、「脚本を出すんですか?」と不思議そうに訊かれたこともありました。
 ちょ、ちょっと待ってください! とそのたび、お伝えしてきました。
 というのも、物語の源流を辿っていけば、「脚本」に行き当たるのではないでしょうか。16世紀末、17世紀初頭、現在に至る物語の礎を築いたシェイクスピア作品しかり、近代文学を代表する作品・イプセン『人形の家』なども、すべて「脚本」です。三島由紀夫の『近代能楽集』もそうですよね。
 こういうふうに見ていくと、脚本が先にあって、小説やエッセイという表現があとにある、と言えるのではないでしょうか。

 というわけで、この秋、物語をもっともっと広く味わう目を養うためにも、「脚本」に触れてみては?
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初めて「脚本」に挑戦された益田ミリさんに、脚本を書いてみての思い、発見したこと、などについてうかがいました。全2回でお届けします。

(聞き手・構成:三島邦弘)

この秋、脚本を読みませんか?(1)益田ミリ――どうして脚本を書こうと思ったか?

2016.09.16更新


脚本を書くと、家が賑やかになりました。

――『脚本版 ほしいものはなんですか?』を手にされての第一印象はいかがでしたか?

益田 ほんとにシナリオみたい、と思って手にしました。今からクランクインするような。手触りや質感がほんものの脚本みたいなので。

――サイズ感もそうですよね。

益田 そう。これをたくさんの人が撮影現場で持って立っているイメージまで湧いてきました(笑)。

――演劇では、何稿も重ねながら最終稿があがってくると思うんですが、これが最終稿です! って存在感がありますよね。

益田 たしかに。実際、途中、何度か書き変えて、少しずつよくなっていったところもあったんで、ついに! という感じがします。

――脚本の編集は私も初めてだったんですが、ミリさんも初の脚本執筆ですよね。

益田 そうですね。最初、原稿用紙に書いていったのですが、100ページで一時間くらいのドラマになる、というのを聞いたことがあって、100ということを念頭において書いたんですね。

――手書きでいただけたことがまずは感動しました。目の前に脚本がある! と。

益田 手書きで原稿を書くのはほぼ初めてだったんですけど、シーンごとに原稿用紙を机や床に置いて書き進めてました。そうすると、目も楽しかったです。ふだん、漫画の原稿に向かっているときよりも、家のなかが賑やか、というかうるさかったです。

――えっ、うるさかったんですか?

益田 原稿用紙に書いたシーンを、ガサガサと入れ替えながら組み立てていると、セリフがちらっと目に飛び込んでくるんですね。あっちこっちからしゃべり声が聞こえてくるというか(笑)。

――それは、賑やかになりますね。


ドラマの脚本を書いて、応募したことが・・・

――ところで脚本に出会われたのは?

益田 初めて脚本を読んだのは、向田邦子さんの脚本集で、物語がいきいきと動いている、と感動したのをおぼえています。

――それ以来、書いてみたいという思いはあったのでしょうか?

益田 ドラマの脚本をやってみたいというのは、学生時代のぼんやりとした思いとしてはありました。会社員をやっていた20代半ばのころ、テレビ局の脚本大賞みたいなのに応募したこともあります。優勝したら賞金がもらえ、ドラマ化されるという。会社から帰ってコツコツ書いてました。

――ええ~、そうなんですか。

益田 でも、書き方とかでたらめなんです。枚数を揃えただけのものだったと思うんですが、でもとにかく書き上げて、穴開けて紐を通して送りましたね。もちろんはしにも棒にもかからないわけですが(笑)。

――けっこういいところまで残ってたんじゃないかと。

益田まさか(笑)。確か、広告代理店で働く女性のサクセスストーリーでした。雨の中のラブシーンもあり、みたいな。当時、流行っていたトレンディドラマの影響です。

――ああ、当時流行っていた!

益田素敵なマンションに住んで、オシャレなお店に行って、というトレンディドラマの世界に憧れてたんですね。東京の地名もわからないのに、東京を舞台にして、標準語のセリフにして書きました(笑)。


自分の漫画を自分で脚本にしたら面白いかも

――作家になられてからは、脚本欲はなくなったのでしょうか?

益田川柳でデビューしたんですけど、それからじょじょに漫画を描くようになったんですね。脚本に興味がなくなったわけではなかったんですけど、4コマ漫画という方法に出会ったので。物語を描く術を見つけて、ほっとした感覚はありました。
それが、3年前、私の原作(『すーちゃん』シリーズ)が映画になったとき、「私も自分の漫画を脚本にしてみたいな」と思ったんですね。自分の漫画だったら、脚本にするとき、これくらい飛躍してもいい、というところもわかりますし。そんなことができたら面白そうと。でも、ふわっと思っただけです。

――そしたら......

益田ミシマ社の「コーヒーと一冊」シリーズというのを見て。もう、めちゃくちゃ驚きました。出版業界、実験的なことをする余裕がない時代に、実験をやっているように見えたんです。特に、そう、『イナンナの冥界下り』! 喫茶店でいっきに読んだとき、雷に打たれたんです。紀元前3000年前の神話の現代語訳ですよ? 私も勇気を出してやりたいことをやってみよう、と思えました(笑)。

――そ、それはよかったです! たしかに、実験という意味では、脚本に挑戦いただいたこともそうですが、イラスト入りの脚本というのも珍しいですよね。

益田そう! 絵が入っている脚本って初めてみました。


©『脚本版 ほしいものはなんですか?』益田ミリ(ミシマ社)

児童童話集の挿絵のような感じで、楽しんでいただければ。絵の「休憩」が入ると、コーヒーブレイクっぽさもでるかなと。

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益田ミリさんの個展のご案内!

漫画キャラクター展 「あの森に集まろう」

【東京展】
日付:2016年9月19日(月)〜24日(土)
時間:11:30〜19:00(最終日17:00まで)
場所:ギャラリーハウスマヤ 〒107-0061 東京都港区北青山2-10-26
電話:03-3402-9849

【大阪展】
日付:2016年10月3日(月)〜12日(水)(※10月9日(日)・10日(月)は休廊日です。)
時間:12:00〜19:00(土曜・最終日17:00まで)
場所:ギャラリー・センティニアル 〒540-0021 大阪市中央区大手通り1-1-10
電話:06-6943-4060


「この夏、オリンピックの真っ最中に描きました!」(by益田ミリ)


  

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益田ミリ(ますだ・みり)

1969年大阪府生まれ。イラストレーター。

主な著書に『すーちゃん』『結婚しなくていいですか。すーちゃんの明日』『どうしても嫌いな人』『すーちゃんの恋』などのすーちゃんシリーズ、『週末、森で』『47都道府県女ひとりで行ってみよう』(以上、幻冬舎)、『オレの宇宙はまだまだ遠い』(講談社)、『夜空の下で』『泣き虫チエ子さん』(以上、集英社)、『おとな小学生』(ポプラ社)、『ほしいものはなんですか?』(ミシマ社)などがある。作を手掛けた絵本『はやくはやくっていわないで』(平澤一平・絵、ミシマ社)は、第58回産経児童出版文化賞を受賞。『だいじなだいじなぼくのはこ』(平澤一平・絵、ミシマ社)も大人気。2014年1月、ミシマ社より『みちこさん英語をやりなおす~am・is・areでつまずいたあなたへ』が発刊。

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