今月の特集2

 2016年8月下旬、シリーズ「コーヒーと一冊」より、益田ミリさん著『脚本版 ほしいものはなんですか?』が発刊されました。そうです、あの傑作『ほしいものはなんですか?』を原作に、著者の益田ミリさんご自身が「脚本」を書き下ろされたのです。
 原作とはまた違う魅力に溢れた作品になり、ミリさんファンのみならず、原作(漫画版)を読んでいない方々にもぜひ読んでいただきたいおもしろさ!
 一方で、本好きの方々からは、当初、「脚本を出すんですか?」と不思議そうに訊かれたこともありました。
 ちょ、ちょっと待ってください! とそのたび、お伝えしてきました。
 というのも、物語の源流を辿っていけば、「脚本」に行き当たるのではないでしょうか。16世紀末、17世紀初頭、現在に至る物語の礎を築いたシェイクスピア作品しかり、近代文学を代表する作品・イプセン『人形の家』なども、すべて「脚本」です。三島由紀夫の『近代能楽集』もそうですよね。
 こういうふうに見ていくと、脚本が先にあって、小説やエッセイという表現があとにある、と言えるのではないでしょうか。

 というわけで、この秋、物語をもっともっと広く味わう目を養うためにも、「脚本」に触れてみては?
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初めて「脚本」に挑戦された益田ミリさんに、脚本を書いてみての思い、発見したこと、などについてうかがいました。全2回でお届けします。

(聞き手・構成:三島邦弘)

この秋、脚本を読みませんか?(2)益田ミリ――脚本を書いてみて発見したこと

2016.09.17更新

原作と、こんなふうに変えました。

――原作『ほしいものはなんですか?』とは、どんなところを変えようと思われたのですか?

益田 漫画のほうは、二人の女性と少女の物語でした。脚本のほうは、恋愛の要素も入れたいなと思いました。ほのかな、片思いのような。それで、漫画には出てこない農業大学の研究者の男性を登場させました。大学が三鷹、吉祥寺のほうにある設定にして。執筆時は、吉祥寺をひとりでよく散歩したりしましたね。

――そうですか。今回、漫画版とちがって、具体的な地名がいっぱい出てきますよね。井の頭公園、品川、谷中、大手町、新宿、代々木公園駅......。

益田 そうですね。漫画を描くときは地名って入れてないんです。より自分の街のように感じていただければいいなと思って。
 脚本は、時間、時空の入れ替えが当初、慣れなかったです。わたしの漫画のばあい、たんたんと先に進み、「週末、森で」では少し回想も入りましたが、基本的に過去のシーンに戻ることはありません。脚本では子供時代の回想も入れたりして、平坦になりがちなのを、防ぐようにしました。


©『脚本版 ほしいものはなんですか?』益田ミリ(ミシマ社)

――そう言われてみれば、漫画版では、過去の回想ってないですね。

益田 ええ。あとは、場面の切り替えですね。漫画ではよく「夜空」を入れて場面展開するんですけど、映像だと、そればっかりだと味気ないかなと思って。



©『ほしいものはなんですか?』益田ミリ(ミシマ社)

映画をよく観るようにして、勉強しました。こんな思いっきり、場面を切り替えてもいいんだ、とか。『恋人たち』は4回観に行きました。素晴らしい映画でした。脚本も読んでみたいです。


――『恋人たち』、おもしろかったですよねぇ。いろんな映画をご覧になって研究され、今回の脚本に生かしたことはありますか。

益田 うーん、そうですね。セリフの言い回しは声に出してみて考えました。たとえば、主人公のひとりタエとその友人の中村くんが、食事した別れ際に言うセリフ。「思ったこと、声に出しても、少し違う気がすんのな」。久しぶりに人と会って話をしたという設定なんですけど、書きながら声に出してみたら、泣きそうになってしまった。漫画を描いているときには、声に出してみることはないんですが、やはり脚本なので、人間が話しているイメージが、よりリアルに浮かんできました。好きなシーンです。


夜空を歩くシーンを

――この「脚本版」のどのシーンをもっとも映像で見てみたいですか?

益田 主人公が夜道を歩くシーン。まずはそれを観たいですね。どんな夜空なんだろう、どんなふうに歩くのかな、って。
それと、漫画版にはない、英会話教室のシーンですかね。

――2ページくらい英語のページがありますものね。うまく話せない英語だからこそ、普段言えないことを思わず吐き出すシーン。ここは名シーンですよね。


©『脚本版 ほしいものはなんですか?』益田ミリ(ミシマ社)

益田 言えないもどかしさってありますよね。それは日本語でもあると思います。私ももう20年、東京にいますけど、言いたいことを言えてない感覚はあります。言いたいことというより、細かいニュアンス? 大阪弁で話したほうが、あと2ミリくらい、うまく伝えられたんだろうな、とさみしく感じるときはあります。上京してきた人は、そんな感覚がみんなあるんだと思います。そういうところからも、このシーンが出てきたのかな。

――なるほど~。いやぁ、ますます、映像で観たくなりました。

益田 まずは脳内で楽しんでいただいて。その後、読み合わせとかしてほしいですね(笑)。映像化ももちろん観てみたいです!

――学芸会、その他でぜひ!


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益田ミリさんの個展のご案内!

漫画キャラクター展「あの森に集まろう」

【東京展】
日付:2016年9月19日(月)〜24日(土)
時間:11:30〜19:00(最終日17:00まで)
場所:ギャラリーハウスマヤ 〒107-0061 東京都港区北青山2-10-26
電話:03-3402-9849

個展会場にて、益田ミリさん「セリフ集」を限定発売!

【大阪展】
日付:2016年10月3日(月)〜12日(水)(※10月9日(日)・10日(月)は休廊日です。)
時間:12:00〜19:00(土曜・最終日17:00まで)
場所:ギャラリー・センティニアル 〒540-0021 大阪市中央区大手通り1-1-10
電話:06-6943-4060


  

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益田ミリ(ますだ・みり)

1969年大阪府生まれ。イラストレーター。

主な著書に『すーちゃん』『結婚しなくていいですか。すーちゃんの明日』『どうしても嫌いな人』『すーちゃんの恋』などのすーちゃんシリーズ、『週末、森で』『47都道府県女ひとりで行ってみよう』(以上、幻冬舎)、『オレの宇宙はまだまだ遠い』(講談社)、『夜空の下で』『泣き虫チエ子さん』(以上、集英社)、『おとな小学生』(ポプラ社)、『ほしいものはなんですか?』(ミシマ社)などがある。作を手掛けた絵本『はやくはやくっていわないで』(平澤一平・絵、ミシマ社)は、第58回産経児童出版文化賞を受賞。『だいじなだいじなぼくのはこ』(平澤一平・絵、ミシマ社)も大人気。2014年1月、ミシマ社より『みちこさん英語をやりなおす~am・is・areでつまずいたあなたへ』が発刊。

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