今月の特集2

『となりのイスラム』内藤正典(ミシマ社)

 発刊して以来反響が広がりつづけ、多くの方から「読んでよかった!」の声をいただいている『となりのイスラム』。去る9月22日、刊行記念イベントを開催しました(@スタンダードブックストア心斎橋)。
 著者の内藤正典先生、そして聞き手に『遊牧夫婦』シリーズで世界を旅してきた近藤雄生さんをお招きしてのトークイベント。テーマは、「世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代」の暮らし方・生き方です。
 この時代だからこそイスラムについて知ってほしいこと、学ぶべきことはたくさん。
 お二方ならではの「となりのイスラム」トークを、3日間にわたってお届けします!

(構成:田渕洋二郎、構成補助:八木智大、写真:新居未希)

内藤正典×近藤雄生 「世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代」の暮らし方・生き方(1)

2016.10.19更新

テロへと突き動かす思想はネットの中に

近藤最近のテロのニュースを見ていても、イスラムそのものが悪のように報じられてしまうことが多いように感じるのですが、実際に現地に行ってみると、ほとんどの人はみな穏やかな人たちなんですよね。

内藤そうなんです。今は一言でくくって「過激」だと言われてしまうのですが、実際はそんなことはありません。また、「IS(イスラム国)」に行ってしまう若者にしても、彼らはべつに、子どもの頃から洗脳されたから過激な思想を持った、というわけではないんです。過激派の説教師に「アメリカに対してテロをしろ」なんて言われても、イスラム教徒はテロリストになりません。
 彼らをテロに突き動かしている思想は、実はインターネットの中にあります。いま、ネットには、シリアやパレスチナの子どもたちの遺体の写真があふれているのをご存じですか。

近藤そうなんですか。

内藤はい。国連総会も6年目になろうとしているのに、シリアの内戦を止められない。何万何十万という人たちがこれまで犠牲になってきました。アメリカはロシアに対して強烈に非難しているけれども、大国がそういうふうに言っている間に、薬も食べ物も足らずに亡くなっていく子どもたちがどれだけいたか。いまはSNSに、そういうお子さんたちのむごい姿がたくさんあるんですよ。過激になってしまう人たちはそっちを見ている。本来守らなくてはいけない女性やお母さんや子どもたちの、無数のむごたらしい遺体を見てるわけです。それはもう、普通の人でも激怒するでしょう。

近藤本当にそうですね。

内藤それがおそらく、ISのいう思想と一部だぶって、テロという形になる。下地にあるのは、いまの世界で「何の罪もないイスラム教徒をどれだけ犠牲にしたか」ということです。そこから出発しないといけない。イスラムには過激な教えがあり、暴力的だからこういうことになったんだ、という話では解決しません。 

近藤なるほど。

内藤次々と起こるテロについては大きく伝えますが、ならば、フランスがマリに突然戦闘機を送って空爆したとか、イスラエルがガザに対してどれだけの攻撃をして、インフラや学校までも破壊したか、アメリカがイラクに出て何をしたか、そもそも大義はあったか、など全部考えると、イスラム教徒が過激だから今の状態になったという説明はできないです。

近藤これらの国が起こしている戦争のことは、誰もテロとは言わないですね。

内藤そうなんですよ。被害を受けているイスラム教徒側から見ると、こういうものは全部「国家テロ」です。有志連合軍だろうが何だろうが、つつましく夕べの食卓を囲っているときに、一瞬にして家族が吹き飛んでしまう。そんな理不尽な死を迎えることを、「これは有志連合のテロとの戦いだから諦めろ」と言うのですか? それは無理です。それをやっておきながら、今まで「テロとの戦い」という名目でそれを通してきてしまったというのが、国際社会であり国連の場でもあるんです。それが限界に達してしまっているということを、我々は真剣に考えなくてはいけない。

内藤先生


スンニ派とシーア派の違いを1分で理解する!

近藤『となりのイスラム』を読ませていただいて、今までなんとなく体感としては感じていたものの、初めて「シーア派」と「スンニ派」の違いがはっきりわかりました。

内藤ありがとうございます。そういえば先日ミヤネ屋に呼ばれたときに、シーア派とスンニ派の違いを1分で説明しろと言われまして(笑)。すごく簡単に説明しますと、預言者ムハンマドの4代目の後継者に、娘婿のアリーさんという人がいました。そしてあるとき、そのアリーさんラブの集団、つまりアリーさんのフォロワーができたんです。フォロワーをアラビア語で「シーア」というんですが、そのアリーを讃える集団が「シーア派」となるんです。それ以外の大勢が「スンニ派」になる。だから、シーア派のほうが先にできるんですね。こんな雑なことをいうと、イスラム学者に怒られますが。

近藤(笑)。
 
内藤割合的には、スンニ派が9割でシーア派が1割です。シーア派は、アリーさんの12代目までの後継者を大事にするので、12イマーム派とも呼ばれます。そして、12代目が5歳でお隠れになるんです。シーア派では、後継者がお隠れの間は、現世の徳の高いイスラム学者が統治していいということになっています。だから今は実際にイランだけ、ハーメネイーという宗教指導者がトップになっていて、現職のロウハニ大統領よりも偉いんですよ。

近藤スンニ派にはそのような取り決めはあるんですか?

内藤ないんです。だからスンニ派はリーダー不在なんですね。リーダーがいてほしいというスンニ派の人たちはたくさんいるのですが、それを最もゆがんだ形で実現したのがISです。彼らはカリフ(*)を立てたと宣言しました。別段カリフを立てること自体は何も悪いことではなく、困っている人の往来を邪魔しているから国境をなくしてしまえとISが言っていることも、間違っているわけではないと思うのですが、そのために自分たちの気に入らない人間をぜんぶ背教者、異教徒、裏切り者と宣告して片っ端から殺していくという深刻な病理を伴っているんです。

(*)カリフ・・・イスラム国家の指導者、最高権威者

近藤そうですね。

内藤ISは、その病の部分と、もともと広くイスラム教徒が願っていたカリフの復活を、悪いことにくっつけてしまったんです。なぜみながカリフを望んでいるかというと、どの国をとっても、イスラムの道徳に従ってまっとうに統治している国がないからという背景もあるんですけどね。


   

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内藤正典(ないとう・まさのり)

1956年東京都生まれ。東京大学教養学部教養学科科学史・科学哲学分科卒業。博士(社会学)。専門は多文化共生論、現代イスラム地域研究。一橋大学教授を経て、現在、同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授。著書に『イスラム――癒しの知恵』『イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北』(以上、集英社新書)、『ヨーロッパとイスラーム』(岩波新書)、『トルコ 中東情勢のカギをにぎる国』(集英社)など多数。


近藤雄生(こんどう・ゆうき)

東京大学工学部卒業、同大学院修了後、旅をしながら文章を書いていこうと決意 して、2003年、結婚直後に妻とともに日本をたつ。オーストラリアでのイルカボ ランティア(2003-04)に始まり、東南アジア縦断(2004)、中国雲南省で中国語の 勉強(2005)、上海で腰をすえたライター活動(2006-07)、その後、ユーラシアを 横断してヨーロッパ、アフリカへ(2007-08)。旅と定住を年単位で繰り返しなが ら、各国からルポルタージュ・写真を週刊誌・月刊誌に発表。2008年秋に帰国 し、現在は京都市に在住。著書に『遊牧夫婦』『中国でお尻を手術。』『終わり なき旅の終わり』(以上『遊牧夫婦』シリーズ、ミシマ社刊)、『旅に出よう』 (岩波ジュニア新書)。ノンフィクション、サイエンス、エッセイ、紀行文な ど、さまざまな分野の文章を執筆中。京都造形芸術大学・大谷大学 非常勤講師。

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