今月の特集2

 2017年2月23日、下北沢のB&Bにて、ミシマガ史上もっともラディカルといっても過言ではない対談が行われました。

 ミシマガでもおなじみ、昨年11月に『女たちが、なにか、おかしい おせっかい宣言』が発売となった三砂ちづる先生と、『あわいの力 「心の時代」の次を生きる』『イナンナの冥界下り』をミシマ社から発刊されている安田登先生。

 お二人は、年齢も同じくらい。ともに、身体にかかわる活動をされており、熊本にご縁があったり、共通の知人もたくさん・・・にもかかわらず、この日が初対面。和装のお二人のゆったりとした雰囲気で始まった対談は開始早々に急速に深度を増し、その場にいた誰もが予想もしなかった展開へ。
 ここでしか味わえない世界を、どうぞお楽しみください。

(構成:角智春、星野友里、写真:池畑索季)

不安をかかえる女性たちへ 三砂ちづる×安田登(1)

2017.03.21更新


一夫一婦幻想を打ち砕く、「妾のすすめ」

三砂今日のタイトルは「不安を抱える女性たちへ」です。ちょっと身近なことから話しますと、実は私、夕べから頭の中が「妾のすすめ」でいっぱいなんです。

安田「妾のすすめ」ですか。すごいですね。

三砂『オニババ化する女たち―女性の身体性を取り戻す』(光文社新書、2004年)でも「妾のすすめ」ということを書いたのですが、私は、不倫をしている若い女の人を放っておけないんです。そういう女の子って本当に多いんですよ。

 入社してすぐの20代の若い女性が、上司である40代くらいの妻子ある男性をかっこいいと思って、付き合う。男性の「いつかは君と結婚する」みたいな言葉を信じて待っても、全然離婚しなくて、女性がハッと気が付いたときには、自分が40ぐらいになり、子どもが産めなくなっている。私が気になるのは、子どもを産みたい女性が生殖期を逸することなんです。子どもを産みたい人にはみんな、産んでもらいたい。男の人が「君だけが大切」とか言って、一夫一婦の幻想、恋愛幻想を振りまいているのも許せなくて。

 結婚はしていなくても、妾だと子どもが産めます。シングルマザーじゃないですからね。男性が女性に「お前は妾だ」と言って、ちゃんとマンションのひとつも買って(笑)、面倒を見る。妾という立場はステータスですから、女性も「私は妾だ」と生きていく。

安田なるほど。

三砂夕べ、歌舞伎座でやっている「猿若祭二月大歌舞伎」で、「梅ごよみ」という歌舞伎を観てきたんです。どういう話かというと、市川染五郎さん演じる、丹次郎という色男がいて、彼を江戸の深川芸者二人が取り合うんですね。羽織を踏みつけたりとか、下駄や三味線のばちで殴ったりとか、大立ち回りの喧嘩をするんです。でも、当の丹次郎のほうは、その芸者二人にもいいことを言いながら、結局、お蝶さんという別の娘と結婚しちゃう。それで最後、丹次郎とお蝶さんが仲良くしているのを見て、喧嘩していた芸者が二人で「もう、しらけちゃうわね」みたいに言う、という、結構明るい雰囲気の話なんです。

 公演のあと、芸者のひとりである仇吉さんを演じていた尾上菊之助さんが「実はあのあと芸者二人は妾になる、という話なんですよ」とおっしゃっていました。

 丹次郎は芸者二人とも非常に親密な関係を築いています。本当に惚れ込んでいるし、一緒に住んだりもしている。結婚する人がいたら、そうやって深く心を通わせた他の人と突然関係が無くなっちゃう、というのも変な話。人間ってそんなにスッパリ切れないですよね。あの物語は、一人は妻、二人は妾になって、後々その女三人が結構仲良くする、という話らしいんです。

 菊之助さん演じる仇吉さんがあまりに素敵だったのもあるんですけど、昨日から頭の中が妾のことでいっぱいで。『一番愛される妾になろう』という本が書きたい、とかね。「――もう、妻はいい。」みたいな。

安田(笑)

三砂構造としては、イスラームやアフリカの一夫多妻とほとんど同じ。私の友人で、アフリカ研究をしている人類学者の女性は、ある男性から第三夫人に求められて、「ええ、第三じゃ嫌だな」と思っていたら、彼の第一夫人が誘いに来たというんです。「旦那がいないときに遊べるし、楽しいからいらっしゃい」と。一夫多妻は人類史上よくあって、しかも、奥さん同士が結構仲良しです。

安田1980年代にチベットに行ったときに、あちらでは一夫多妻の逆の一妻多夫でした。奥さんのベッドルームに入れてもらったんですが、そこには旦那さんたちの写真がたくさん貼ってあって「みんな、いい男でしょ」って(笑)。


「昔の男女関係は不自由だった」は嘘?

安田僕の話をしますと、僕の家は4人兄弟だったんですが、実は、うちの父は交通事故で亡くなって、そのときに腹違いの子どもが13人出てきまして。

三砂へえ!

安田交通事故による突然死ですから、これは母が把握している人数ということなので実数はよくわからない(笑)。ところが、うちの祖父がさらにすごくてですね、もう何がなんだからわからないくらいにすごい。うちの母は祖父の娘ですが、母とすごく仲が良くて、僕も一緒に旅行をしたりするおばさんがいるんですが、この二人も腹違いの姉妹なんです。祖父は誰とも結婚しなかった人でした。

三砂みんな恋人ということですか?

安田ええ。だから、祖父の姓である魚躬(うおのみ)を継いだ人は誰もいないんですよ。高校時代に僕が継ごうなんて話もあったのですが、母から三文判がないからダメだと言われて(笑)。ですからみんな私生児ということです。

 さっき話した父も、うちの母と結婚したのは、僕が高校に入るときに書類を出さなきゃいけないから、という都合でやっと正式に結婚をした。だから、うちは子どものころ姓が二つあって、混乱しましたね。一緒に住んでいた「親戚の」お兄さんたちも、実は腹違いの兄弟でしたし。そのうちひとりのお兄さんはギターを教えてくれたりしたのですが、指が何本かなくて、恰好いいなあと思ったりして(笑)。

三砂さすがの成育歴ですね(笑)。私が興味のあるのは、おじいちゃんなりお父さんなりをめぐる、女たちのありようです。

安田それが、仲良いんですよ。

三砂仲良いんでしょう、みんな。女性たちの関係は、シスターフッドなんですよね。

安田そうなんです。昔、うちの親父が四国あたりから電話を掛けてきて、「電車代が無くなって帰って来れないんだけど」と。そうしたら、うちの母親と例の腹違いのおばさんが一緒にお金持って行ったことがあります。

三砂へえー。すごいなあ。

 私の母は7人兄弟で、1人は亡くなったので6人で育ちました。男が2人で、女が4人です。で、そのうち母以外の3人はみんな、名前に「枝」が付いているんですが、うちの母だけ「美津子」というんです。おばたちはみんな背が小さくて、情が深い性格です。でもうちの母だけ、ちょっと美人で胸が大きくて、性格も違う。全然、情が深くない。どっちかというときつい性格(笑)。「うちの母だけ違うな」と私もずっと思っていたんです。そうしたら、母が80歳を過ぎ、おばたちも80代後半・90代になったときに、おばの一人が、「ちづるちゃん、私らはずっと思っちょったけど、あんたのお母さんは、うちのお父さんの子じゃない、ということもあるんじゃないかね」と言うわけですよ。80を過ぎて(笑)。

 母が生まれた頃、うちの祖父は博多で手広く商売をしていて、その関係でいろんな若い男の人が家に出入りしていたらしい。おばは、「おじいちゃんは博多の芸者とか相手にすごく遊んでいたし、おばあちゃんは気の強い人だったから、おじいちゃんに対抗して、それなりの行動に出たのでは?」と。その後、博多の商売をたたみ、家族で山口県に帰るのですが、そういえば母は、幼い頃、自分だけ祖母に連れられて何度か九州に行って、いろいろ立派なお土産をもらって帰ってきた、とか言っていたのを私も聞いていましたからね。私の母だけ祖母から溺愛されていたみたいですし。あながち、おば達のつくり話とか、思いつき、というわけじゃないかもしれないですよね。うちの母だけ、祖母の「思いを寄せた人の子どもだった」などという話かもしれない、と思うと、ロマンチックに聞こえる。今となっては。
 前の世代がすごく真面目に生きていたとか、昔は不自由なだけだったとか、そんなことはないのかもしれないですね。

安田そうですね。うちの家の周辺には「おばあちゃん」がいっぱいいたんですよ。○○ばあちゃんと呼ばれていた人はみんな、おじいちゃんの子どもを産んでいる人だったんですね。

三砂戸籍制度をコケにしている態度ですね(笑)。素晴らしい。
 いまは、そういうお妾さんのこととかをどう思いますか。

安田いろんなマスコミでの扱われ方によって、悪いイメージがとても強いですよね。いま、妻と妾が仲良くできるかというと・・・。

三砂いまは、本妻が妾の存在を許さないんだろうなと思いますよね。旦那が他の女をつくることを生理的に許せないという感じなのかな。

 でもやっぱり、結婚しても、好きな人とかできるわけじゃないですか。そのたびに結婚・離婚をくり返すと、家庭をスクラップ&ビルドしないといけないでしょう? それは子どもにとっても不幸だし、だから、妾がいいのではないかな。まあ、経済力がある男の人しかできませんけどね。

 私はやっぱり、男と女はもっと愛し合うべきだ、と思っています。異性を好きじゃない人は男と男でもいいし、女と女でもいいです。でも、そういう人たちがセクシャルマイノリティでありうるためにも、マジョリティがしっかりしていないと。男と女がセクシャルな暮らしをしていないと、セクシャルマイノリティが、「セクシャルに生きている」という意味で、社会から浮いてしまう。そうするとみんなが楽しくない。だから、マジョリティである男と女が愛し合うためにはどうしたらいいのかを考えると、やはりひとつは、「妾のすすめ」かもしれない、と思う。一夫一婦制だけにこだわっていても、なかなか幸せになれないのかもしれません。

(つづきます)

  

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