今月の特集2


先週12月16日(土)、今年のミシマ社最後の一冊『等身の棋士』が満を持して発売となりました。藤井聡太四段の歴代最多連勝記録、加藤一二三九段の引退と人気、そして羽生善治永世七冠の誕生、国民栄誉賞検討......2017年はこれまでにないほど、日本中が将棋に沸き、注目した1年でした。

著者の北野新太さんは、ミシマガジン「いささか私的すぎる取材後記」にて、たびたび将棋の記事を寄稿くださり、その記事には多くのファンが。2年半前に発刊されたシリーズコーヒーと一冊『透明の棋士』は4刷まで増刷を重ね、次作を待ちわびる多くの声にお応えして、このたび新著『等身の棋士』が完成しました。

これまで、ミシマガにご本人が登場されることはほとんどありませんでしたが、今回は、初の単行本を書き終えたばかりの北野さんにインタビュー。言葉への感覚、ノンフィクションについて考えていること、そして将棋への熱い熱い想いを、語っていただきました。2日間連続で、どうぞ!

【聞き手、構成、写真:星野友里、構成補助:野崎敬乃】

『等身の棋士』発刊記念 北野新太さんインタビュー ~歴史的な瞬間に立ち会っていることを伝えたい(2)

2017.12.19更新

初恋の『透明の棋士』から、生身に一歩踏み込んだ『等身の棋士』

―― 今年は、藤井聡太四段とか加藤一二三九段が大ブームになりました。フィーバーの渦中にいて、どんなことを思っていたんですか?

北野それはそれはすごい、すさまじい日々だったわけですけど、連勝の記録のすごさとか、キャラクターの面白さみたいなものだけでこんなに日本中の人が沸く国民行事みたいになるかなって考えたときに、それだけではないんじゃないかと思うんです。そこにはたぶん、勝負に生きる人とか、自分たちとは全然違う世界に生きている人々の特殊性への羨望みたいなものもあるんじゃないかなという気もして。だから今、そういう人たちの将棋とか棋士に対する思いは、もっと広がる可能性がまだ開けている気がするんです。

―― 今回の『等身の棋士』というタイトルは、その可能性にもつながっている気がしますが、タイトルに込めた思いをうかがえたら。


北野お恥ずかしい表現で言えば、出会って恋をした、初恋のような感情を表したのが前著『透明の棋士』なんです。今もたぶん、恋に落ちているような思いは変わらないんですけど、今回は、そういう対象になる人々の生身の姿というか、時には、僕らとも同じような思いを抱えたり、苦悩を抱えたりするんだな、という部分に一歩踏み込んでみた部分はあるような気がします。

―― そうですね。

北野あと言葉としては「等身の」というのは、実はそのままではあんまり意味が無い言葉なんです。「等身大」ならポピュラーですけど。僕は、ある単語から一部分を切り取って使うのが好きなんです。本書でも、普通なら「快進撃」と書くところを「進撃」にしたりもしました。

―― 校正の方からは確認の鉛筆が入っていましたね。

北野でも快進撃より進撃のほうが快く進撃している感じがしませんか? なぜかと考えると「快進撃」は紋切り型だから、どうしても読んだ時の印象が薄くなる。

―― ちょっと手垢が付いてしまっている。

北野だから国語学者に言わせたら、このタイトルは赤字ですね、って言われる可能性もあるかもしれないですけど、まあいいじゃないですか、許してくださいっていう感じですね。


現場にいた人が感じたものを、そのまま「こうだ」と書きたい

北野前著の『透明の棋士』と大きく変わっているところとして、今回は棋士の肉声がたくさん入っている、という点があると思います。その言葉ひとつひとつが彼らの等身というか、彼らの在りのままの姿であると思いながら書きました。前著もそうなんですけど、こういう思いを吐露しながら書いたようなスタイルの本だと「誇張しちゃってさ」とか「神格化しないで」という読まれ方もすると思うんですけど、正直言って、誇張しようとか、10のものを50とか100として強く伝えようという気持ちは一切ないです。本来あるものをそのまま伝えようとしたから「等身」ということになったのかもしれないです。

 さっきのノンフィクション論にもつながりますけど、ものすごく魅力的な人がいたり、ものすごく劇的なことが起きていても、あえて抑えて書く、みたいなことが今までのノンフィクションにはあったと思うんですけど、その劇的性とか魅力とか、現場にいた人が感じたものっていうのを、そのまま「こうだ」っていうふうに書きたいなと思ったんです。
 だから「等身」というのは文字通りに等しいサイズ、そのままなんです。僕が飛躍させたとかデコレートしたものではなくて、本当にこのままだからすごいんですよ。将棋という世界や棋士というものは。

―― 棋士たち自身の等身と、筆者や読者と棋士たちが等身であるというのと、筆者の書いている文章と棋士たちのすごさが等身であるということ......三重くらいの等身ですね。


モーツァルトのライブを最前列で見ているようなもの

北野本書の中で、羽生善治さんが目の前で汗をかいている、という話も書きましたけど、これ、考えてみるとものすごいことなんです。30年も前にトップに立った人が未だ戦っていて、永世七冠をかけるような真剣勝負の場にいることのすごさがあって、で、自分がその場に居合わせる幸福みたいなものがものすごくあるんです。

 モーツァルトがそのへんのライブハウスかなんかのコンサートをしていて「これが僕の新しい曲です」って言ってメロディーを奏でているのを最前列で見ているようなものなんですよ。また大げさな、と言われると思うんですけど、意外と大げさすぎることもないとも思っていて。
 将棋の今のルールや制度みたいなものが原型的に始まったのが400年くらいなんです。モーツァルトが生きていたのは200何十年か前ですよね。将棋の400年間の歴史の中で、羽生さんくらいに、その時代において屹立した人、長きにわたって活躍した人、後世に影響を与えた人っておそらくいないんです。
 そういう人がまだ現役でいて、それを目の前で見られるってことはモーツァルトの新曲を聴くようなものなんですよね。で、この曲にどんな気持ちを込めたのか、とかを尋ねることができてしまう。たぶん羽生さんならば、丁寧に語ってくれる。だから書ける。書けば「へえ、羽生さんはそんなことを考えていたのか」って興味を持って読む人もいるはずで。その、ものすごさのようなものが伝わればいいなと思います。

―― 皆さんに知ってほしいですよね。今すごいことが起きているって。

北野起きてるんです。特に2017年は、加藤九段がいて、藤井四段がいて、羽生さんがまだトップでいてっていうことが奇跡的に重なった、輝ける時なんですよね。

 それこそ、本書にも書いたことですけど、マリリン・モンローとジョー・ディマジオが結婚して離婚した1953年に加藤先生は学ランを着て実戦を指しているんです。その人が64年後の今年、まだ現役で、目の前にいる若い棋士を「俺のほうが強いんだ」と倒そうとしていて、その数日前には、14歳の藤井さんが新記録を懸けて戦っている、という、これを歴史と言わずしてなんと言おうか、なんですよね。

―― 読者の皆さんにも、ぜひその歴史を堪能していただけたらと思います。

北野僕がその役割の一端を担うべきなのかどうなのかとかは、実は今もわからないままです。僕は将棋界における取材歴も浅いですし、棋力も圧倒的に低い。将棋の取材をしながら芸能の取材までしているような人間です。だから「将棋界ってこんな世界です、棋士ってこんな人たちです」と書く資格があるかどうかはわからないんですけど、勇気を持って一手を指さないと前には進めません。だから、新聞記者なんぞがトークショーをやる、みたいなこともぜひあたたかい目でお許しいただけたら幸いであります。

―― ありがとうございました(笑)。




『等身の棋士』の発刊記念イベント、棋士をゲストにお迎えして、東京と大阪で開催します!

『等身の棋士』刊行記念 北野新太 × 今泉健司四段(日本将棋連盟関西所属棋士)

日程:2017年12月27日(水)19:30~
場所:スタンダードブックストア 心斎橋 BFカフェ
料金:1,500円(1ドリンク付)
予約方法:
1.お電話(06-6484-2239)
2.ご来店(スタンダードブックストア心斎橋BFレジカウンターへお越しください)
3.メール
メール本文に【予約イベント名】【お名前】【電話番号】【人数】を入力して、info@standardbookstore.com へお送りください。


北野新太記者 × 中村太地王座 トークショー 棋士として生きるということ
『等身の棋士』(ミシマ社)刊行記念

日程:2017年12月28日(木)19:00~
場所:八重洲ブックセンター本店 8F ギャラリー
料金:500円(税込) 当日会場にてお支払いください。  
予約方法:1階カウンターにて参加整理券をお渡しいたします。また、お電話によるご予約も承ります。(電話番号:03-3281-8201)


 

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