今月の特集2

 2017年も残すところあと7日。
 今年はどんな一年でしたか?

 ミシマ社では毎年、「今年の一冊」をメンバーが選ぶ「今年の一冊座談会」おこなっています。(去年の記事はこちら
 今年も、ミシマ社メンバーが東京と京都をSkypeでつないで、今年読んで一番「これは!」と思った本について語り合った様子をお届けします。今日は2回目を掲載です。(前半はこちらをどうぞ

 みなさんは、今年一年、どんな本に出会いましたか?
 一年の終わりに「今年の一冊はなんだろう...」なんて考えながら、読んでいただけたら嬉しいです。

2017年 今年の一冊! 座談会(2)

2017.12.25更新

『JAPANESE TIP』辰巳雄基

『JAPANESE TIP』辰巳雄基

 去年の11月に、辰巳くんという男の子がミシマ社の本屋さんに急に来たんですね。「僕、箸袋を集めてるんです」とかいって。彼は定食屋さんやレストランでご飯を食べた後に、箸袋をチップ代わりに置いていく、というプロジェクトをやっていると。
 それもただ置いていくんじゃなくてちょっと綺麗に折ったり、メッセージを書いたりして。日本人はお金とかでチップを置いていくのは苦手だったりするし、かつ手先が器用だし。自分が飲食店でバイトしていた経験から、そういうのがあると嬉しいんじゃないかな、と始めたそうです。
 まだ若くて、20代半ばの子で、はじめ聞いたときは「えっ、何言ってんのかな?」っていう感じだったんです。でもこの間ついに47都道府県を全部車で回って、そこで集まった箸袋の展覧会を東京でやるにまでなったんですよ。

ワタナベ「ジャパニーズチップ」と名付けてるんですよね。

トリイそうそう。その全国からダンボールにいっぱいに集められた「ジャパニーズチップ」を展示したんですね。で、その展覧会の図録のような形で作った本がこれです。箸袋がずらっと載っている。協力してくれたお店の方に、取り組みをしてみてどうだったか、というインタビューも入っていたりします。
 本自体は個人が作っているのでながめるのが面白いという感じなんですけど、辰巳くんの行動力というか、なんなんだアイツ、というのが今年一番でしたね。


『高架線』滝口悠生(講談社)

『高架線』滝口悠生(講談社)

 去年は町田康さんの『ギケイキ』を選びましたが、今年も小説でいきたいと思います。『高架線』
のことについてはSUMUFUMULABの連載に書いたのでこれを読んでいただくということでお願いできればと思うんですが......

一同ええー!(笑)

ミシマ本屋さんと私」にも滝口さんが出てくださって話されていたように、滝口さんはほかの作品(ex.『死んでいない者』)もそうだけれど、語り手が誰かいまいちよくわからないというか、気づけば変わっていっている。
 でもそれって、たとえばみんなでお昼ご飯を食べていても、話し手って次々に変わりますよね。だけれど小説というスタイルをとったときに、誰が語り手かというのを明確にするというか、ある種演劇をベースにしているところがあると思う、シェイクスピアとか。

 安田登さんがよくおっしゃっているように、日本の古代的な物語の語り口は、語り手がいまいちよくわからないんです。主体がどんどん変わっていく。近代は、自我と他者が分かれていることをベースにしていて、日本の小説もそれをベースにしているから、なかなかそのスタイルから抜け出せない。そこのスタイルを抜け出す動きはいろいろあると思うけれど、滝口さんはそれを古代日本から引っ張ってきたように、パアーっと人称が変わるというか。それをいまの西洋文学の枠組みのなかでやっている、ということがすごく面白いなと。
 小説においてストーリーが何かというところも大きいけれど、文体の枠組みをまったく違うものにしていったら出てくるものも変わってくる。それを意識的にやられている方じゃないかなと思いました。
 今年一番の発見というか、今後の作品がますます楽しみな作家さんです。


『スンギ少年のダイエット日記』加瀬健太郎(リトルモア)

『スンギ少年のダイエット日記』加瀬健太郎(リトルモア)

 今年のBOOKS MARKETで、リトルモアの営業さんに「隠れた名作です!」と教えてもらい、出会った一冊です。
 発刊されたのは2008年と少し前なんですが、すぐに引き込まれてしまいました。「スンギ少年って...誰やねん」という感じですよね? これ、著者であり写真家である加瀬さんがイギリスに滞在されていたときに、近所の子どもたちに慕われていて、その一人であるスンギくんに「俺ダイエットするから、手伝ってよ」と言われて、付き添いのようになりながらただただ写真を撮ってるという本なんです。
 スンギくんの表情がすごくいきいきしていて、心がほぐれるというか......不思議と元気になってくる感じがあって。こういう表情を撮れる加瀬さんは本当に素敵だなと思いました。
 本棚に面陳して置いていると、家にいるときにホッとする感じがあって。もう、スンギくんはモナリザ級のほほえみなんですよ。アットホームであったかい一冊です。

ハセガワスンギくんはちょっとずつ痩せていってるんですか?

イケハタいや、まったく痩せてないですね。むしろ太ってるかな?というくらいの。むっちゃ食べてる(笑)。

ハセガワ(ページを見ながら)わ〜〜、スンギくんいい笑顔、かわいい〜(笑)。


『星の子』今村夏子(朝日新聞出版)

『星の子』今村夏子(朝日新聞出版)

 私もこれは今年いちばんの衝撃といいますか、それくらいに「今村夏子さん......まじで、スゲェ」と思って胸がわっとなりました。久しぶりに「読み終わりたくない!」という感じを抱いたし、電車のなかで最後のほう読んでたんですけど、電車から降りたあとも駅のホームで立ちながら最後まで読んだという小説でして。

 主人公は中学生の女の子なんですけど、小さなときに身体が弱くて。そこから両親が「あやしい宗教」にハマってしまい、親戚のなかでも街のなかでも浮いた存在になっていって...という、流れをいうとそういう話です。
 一冊を通して主人公の視点のみで描かれていて、客観的な視点は一切ない。わからないことが多すぎるんです。「ここどうなったの?」とか、「ここのこれは、どういうことなの?」とか、放置されることもたくさんあって。一人の視点から見た、言われた、こういうことが起こった、ということが淡々とつづられていくんですが、それが不思議と心地よい部分もある。
 実際に自分に見えていることはごくひと握りだし、人が信じているものを自分も信じられるのかとか、わぁっと胸に去来することがたくさんありました。
 淡々と読みやすいんですけど、そこはかとなく不気味で、ものすごい文章を書かれる方だな...と。今後もこの方が書かれるものは全部読みたい! と強く思いましたね。

ホシノデッチのスガくんも、すごい良かったって言ってたよね。

アライそうなんですよ、スガくんと二人で今村夏子トークしてましたもん、胸熱すぎて......。


 『四人の交差点』トンミ・キンヌネン(新潮クレストブックス)

 『四人の交差点』トンミ・キンヌネン(新潮クレストブックス)

 私は今年は、外国文学を選びました。これがそれこそ、今年いちばんの衝撃で。本著は1973年生まれのフィンランド人男性作家のデビュー作なのですが、フィンランドのベストセラーランキングで13週連続1位となったそうです。親子三代、100年に渡る、重厚な物語です。
 フィンランドというと、「綺麗で福祉が充実していて、デザインがおしゃれで」というイメージがありますけど、この本ではフィンランドの歴史に光が当たるんですね。戦争の影がまだ近い記憶として人々のなかに残っていたり、知らなかったフィンランドの側面も描かれています。

 そして何よりも場面場面の描写力が尋常ではなくすごくて、ぜひとも読んでほしい場面が2つあるんです。1つが、主人公の女性が、自転車を買いに行って乗る練習をする、という場面。劇的な事件が起こるわけではないんですけど、謎のすごみというか、迫力があって。もう1箇所は、その女性が年をとって、身体が不自由になって絶え間ない痛みに襲われ、性格的にも偏屈になって...という状況で、食べることに執着して、体を引きずりながらパンケーキをつくって、よだれと涙を流しながら貪り食う、という場面......これが、頭に焼き付いてしまうくらいすごいんです。全部読めない人はこの2シーンだけでも読んでほしい(笑)。
家族の秘密をめぐる100年の物語をじっくり読む幸せもあるんですけど、場面の描写が全体的にすごい一冊でした。ぜひ読んでみてください!

ワタナベ......「すごい」を何回言ってんねーん!(笑)

ハセガワいやぁ、ホシノさんの話を聞くと毎回読みたくなる。

ワタナベ本当にすごいものを見たり読んだりしたときは言葉が貧困になりがちなホシノさんの姿をみて、「あ、これは本当にすごいんだな」と思ったりしますね。

ホシノ(笑)。


* * *

 さて、みなさんの「今年の一冊」はどうでしたか?
 また2018年も、素敵な「この一冊!」に出会えますように!

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