スポーツ紙バカ一代

第8回 ヒーローインタビューで「今週の一冊」を

2009.09.02更新

「お前、野球選手とは普段、どんな話をしてんの?」

久々に会った旧友から、こんな質問をされました。思春期の頃から骨の髄まで文化系男子であるわたしが、フィジカルエリートの野球選手と日頃、どのようにコミュニケーションをとっているのか、想像ができないという。なかなか、鋭い指摘です。

確かにスポーツ新聞の記者は、自らもアスリートだった人が多い。甲子園に出場した元高校球児や、東京六大学の選手として神宮の杜で青春を燃やしたような方々が、周囲には大勢います。一方で、わたしは根っからのサブカル野郎。高級外車を乗り回し、ギャンブルでは大金を注ぎ込んで大勝負するような野球界のカルチャーとは、対極の文化圏に生息しています。

だからでしょうか。野球界の中で「仲間」を見つけると、うれしくなります。巨人担当を務めていた頃、よく話をしていた木佐貫洋投手には、そんな薫りを感じました。言わずと知れた03年のセ・リーグ新人王。力強い速球と切れ味鋭いフォークボールが武器の本格派右腕です。遠征での移動中、空港の搭乗口ではハードカバーの書籍を携え、熱心に読み込んでいる光景を何度も見ました。

あれは3年前の06年秋、宮崎で行われた秋季キャンプでの出来事でした。その日は練習休みで、選手は終日自由行動。わたしはネタ収集のため、朝から選手宿舎のロビーに陣取り、買い物などで行き来する選手へと話を聞いたりしていました。エレベーターから、木佐貫投手が降りてきた。市内へと外出するのでしょうか。

「加藤さん、ちょっと乗せて行って欲しいところがあるんですけど」

「ごめん。オレ、ペーパードライバーなんだよ。車の運転、できないんだ。で、どこに行くの?」

「ちょっと映画館へと思って」

「何を見に?」

「『夜のピクニック』という映画なんですけど、小説読んだら、不覚にも感動してしまいましてね。ぜひ映画も、と」

オー、キサやん! 『夜ピク』はオレの母校である水戸一高の行事「歩く会」をテーマに、OGの恩田陸さんが綿密な同行取材を経て、書き上げた作品なんだよ。小説、良かったよねえ。去年の本屋大賞を受賞しちゃったもん。本屋大賞のノミネート作に、ハズレなしだ。映画でヒロインを演じる多部美華子ちゃん、あの「目力」は、何なのかねえ。こう、「カワイイッ」って感じじゃないんだけど、結果的にその世界に引き込まれて行っちゃうみたいな。まー、オレの高校時代は男ばっかりでプロレスとロックの話しかしてねえから、あんな淡い思い出なんてねえけどな。でも、胸がキュンときちゃうよ。キサやんがあの小説を楽しんでくれたなんて、うれしいなあ-。

わたしは一方的にまくしたてながら、タクシーで映画館へと赴く木佐貫投手を見送りました。「楽しんできてね~」。

木佐貫投手が自己最多の12勝を挙げるのは、その翌年のことです。今季は思うような結果が出せてませんが、2軍から必死にはい上がろうとしています。目を見張るような球筋を生み出す投手としての才能はもちろん、野球へと打ち込む真摯な姿勢には感心するばかりです。

こんな文武両道の投手こそ、伝統ある読売巨人軍のエースにふさわしいでしょう。剛速球でセ界の強打者を封じ込め、勝ちまくり、ヒーローインタビューでは「今週の一冊」を紹介するピッチャーがいたら、素晴らしいと思いませんか。

読書家の木佐貫投手に、ぜひとも熱き声援を。
またキサやんと、本の話がしたくなってきたなあ。

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加藤弘士(かとう・ひろし)

1974年4月、茨城県水戸市生まれ。水戸一高ではプロレス研究会に所属。慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、97年に報知新聞社入社。広告局、出版局を経て、03年からアマ野球担当。05年にはアマ野球担当キャップ。06年は巨人番(投手担当)。07年からアマ野球キャップに復帰し、09年には楽天・野村番。10年はまたもやアマ野球キャップを務め、斎藤佑樹の大学ラストイヤーに密着。11年は日本ハムと西武の遊軍記者。好きな言葉は「そのうち何とかなるだろう」。カラオケの十八番は「夜空」(五木ひろし)。173センチ、61キロ。右投右打。

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