スポーツ紙バカ一代

第16回 ヘッドスライディングは、是か否か

2009.11.09更新

日本シリーズは巨人が4勝2敗で日本ハムを下し、7年ぶり21度目の日本一に輝きました。1球たりも見逃すことのできない、リーグ首位同士による白熱した攻防。巨人も日本ハムも、強かった。わたしもプライベートで、東京ドームでの第5戦を三塁側スタンドから観戦してきました。代打・大道の同点タイムリー、9回には亀井の同点弾、阿部のサヨナラアーチが飛び出す劇的な展開。しびれました。

一点、気になった場面もありました。巨人の攻撃、6回先頭の2番・松本の当たりはショートゴロ。俊足を飛ばし、一塁へ向かいます。ヘッドスライディングで突っ込みますが、間一髪アウト。何とか食らいついて、セーフになってやろう。塁に出て、かき回してやろう。結果はアウトでしたが、そんなガッツあふれるプレーに、万雷の拍手が響き渡りました。

そこで、あらためて素朴な疑問が沸いてきました。

「セーフになるためには、ヘッドスライディングをするより、走り抜けた方が、速いんじゃないのかな?」

これはわたしにとって、野球担当記者になって以来の謎でした。これまで春夏通算11度に渡って、甲子園大会の取材をしてきましたが、最後の打者のほとんどが一塁を駆け抜けることなく、ヘッドスライディングでゲームセットの瞬間を迎えます。でも、仲間と1秒でも長く夢の舞台で野球がやりたいのなら、セーフになる確率が少しでも長くなる方法--駆け抜けた方がいいのではないでしょうか?

野球に精通した様々な方に、この疑問をぶつけてみました。もっとも明快な回答を示してくれたのは、巨人番時代に担当した桑田真澄さんです。桑田さんは少年野球チームの会長を務めるなど、後進の育成にも心血を注いでいます。

「僕はヘッドスライディングは反対なんですよね。首とか、けがをする確率が非常に高い。何人ものプロ野球選手が、ヘッドスライディングで肩を脱臼し、持病になっている。大人ならいいんですが、小中高は成長期。だから僕のチームでは、ヘッドスライディングは禁止にしています」

「でも『そう考えるのは僕だけかなあ』と思ったんで、福本豊さんに聞きに行ったんです。世界の盗塁王の福本さんが『桑田、エエこと言うなあ。オレも言ってるんだよ。ヘッドスライディングはしちゃいけないって』と答えてくれた」

「福本さんやイチロー君がヘッドスライディングをしているのを、見たことないでしょ。安易に『根性だ』『ガッツだ』とヘッドスライディングさせてほしくないんですよね。子供たちがけがをして、野球を断念することになったら、本末転倒だからね」

桑田さんらしい、理にかなった答えです。その一方、このお方の意見はどうでしょうか。楽天の前監督、野村克也さん。日本シリーズを3度制覇した名将にも、ヘッドスライディングに対する見解を、聞いたことがあります。回答はこのようなものでした。

「走り抜けた方が、速い。それは分かっているよ。でもな、何とかしてセーフになりたいと頭からベースに突っ込む。その心意気は、買ってやりたいんだよな」

データ重視の「ID野球」でお馴染みの知将ですが、野球観の根底には、気迫や気合いを重んじる部分も多々、見受けられました。野球はメンタル面が勝敗を分けるスポーツでもある。冒頭の松本のプレーも結果的に、巨人を逆転に導いた着火剤の働きをしたと、言えるかもしれません。

ヘッドスライディングは、是か否か。あなたは、どう思いますか?

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加藤弘士(かとう・ひろし)

1974年4月、茨城県水戸市生まれ。水戸一高ではプロレス研究会に所属。慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、97年に報知新聞社入社。広告局、出版局を経て、03年からアマ野球担当。05年にはアマ野球担当キャップ。06年は巨人番(投手担当)。07年からアマ野球キャップに復帰し、09年には楽天・野村番。10年はまたもやアマ野球キャップを務め、斎藤佑樹の大学ラストイヤーに密着。11年は日本ハムと西武の遊軍記者。好きな言葉は「そのうち何とかなるだろう」。カラオケの十八番は「夜空」(五木ひろし)。173センチ、61キロ。右投右打。

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