スポーツ紙バカ一代

第22回 「斎藤君、ご無沙汰してます」

2009.12.28更新

瞳の輝きは「王子」のままでした。「キラキラ」。わたしが漫画家だったら、そんな擬態語を記したいところでしょうか。1年ぶりに取材した早大・斎藤佑樹投手のことです。06年夏の甲子園を沸かせた「ハンカチ王子」も、早いもので来年は大学の最上級生となります。ドラフトの目玉としても注目を集めることでしょう。

「斎藤君、ご無沙汰してます。体、大きくなったねえ。アマチュア野球、また担当することになったんで、よろしくね」

「はい」

21歳の笑顔は、まぶしすぎます。スターと呼ばれるプロ野球選手を過去、何人も取材してきましたが、斎藤投手の醸し出す空気はまた、独特のものです。学生服姿の凜としたたたずまいは美しく、清廉とした空気を漂わせています。

大学1、2年生のころ、斎藤投手のピッチングを毎試合のように見てきましたが、とても不思議なピッチャーでした。身長は175センチと大柄なわけではない。150キロを超える剛速球もないのに、試合が終わってみれば勝ち投手になっている。

巨人番だったころに担当した桑田真澄さんの言葉を思い出します。「ピッチングはね、投手と打者の騙し合いなんだよ」。斎藤投手も打者の心理を察知する能力に優れている。一言で言えば、クレバー。頭がいい。さらには打線の爆発を呼び込むなど、「勝ち運」に恵まれている。東京六大学野球リーグの3年間で、25勝は現役最多勝。大きなケガをしない頑丈な肉体も魅力的です。

マスコミはどうしても3年前の夏の甲子園で延長15回引き分け再試合の激闘を投げ合った楽天・田中将大投手の現状と比較したがります。でも、これはあまり意味のないことのように思えます。

マー君はプロフェッショナルです。昨年の北京五輪や今年のWBCでは日本代表として日本ハム・ダルビッシュや西武・涌井ら超一流とふれあい、さらに高い意識で野球へと取り組んでいます。今季は15勝6敗1セーブの成績を残しました。来季年俸は推定で1億8000万円。24時間、野球へと没頭できる環境が備わっています。

一方、斎藤投手は大学生です。出席を義務づけられた授業もあれば、試験もあります。ただ、そこで過ごす時間は彼の人生にとって、決して無駄ではないはずです。自らの立場に置き換えてみても、学生時代を「あれは貴重なひとときだった」と感じるのは、卒業後ずいぶんと月日が流れてからのことではないでしょうか。

早大・應武篤良監督が、笑いながらこんな話をしてくれました。「マー君はすごい年俸をもらっているんでしょ。斎藤は毎日、学食で350円の昼ご飯を食べているんだよ」

田中と斎藤。運命のライバルを徹底比較するのは、斎藤がプロ入りして、マー君と同じ土俵に上がってからでも遅くはない気がします。ともに21歳。青春真っ盛りでしょう。野球の神様に選ばれたふたりの2010年が、さらに飛躍の年になることを願うばかりです。

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加藤弘士(かとう・ひろし)

1974年4月、茨城県水戸市生まれ。水戸一高ではプロレス研究会に所属。慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、97年に報知新聞社入社。広告局、出版局を経て、03年からアマ野球担当。05年にはアマ野球担当キャップ。06年は巨人番(投手担当)。07年からアマ野球キャップに復帰し、09年には楽天・野村番。10年はまたもやアマ野球キャップを務め、斎藤佑樹の大学ラストイヤーに密着。11年は日本ハムと西武の遊軍記者。好きな言葉は「そのうち何とかなるだろう」。カラオケの十八番は「夜空」(五木ひろし)。173センチ、61キロ。右投右打。

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