スポーツ紙バカ一代

第36回 神宮のスピードガンが、悩ましい

2010.09.13更新

アマチュア野球担当記者にとっては、夏の甲子園、都市対抗が終わっても、ハードな日々が続きます。運命のドラフト会議は10月28日。あと50日を切りました。平日は東都大学野球リーグ、週末は東京六大学野球リーグと、多い時は週に6日も神宮球場を訪れ、ドラフト1位候補となる「未来のスーパースター」を取材しています。

今年のドラフトでは特に、大学生投手が「豊作」といわれています。早実のエースとして06年夏の甲子園決勝で駒大苫小牧との引き分け再試合を制し「ハンカチ王子」と呼ばれた斎藤佑樹投手は、目玉候補。ロッテとヤクルトは1位指名を早くも明言しています。早大は最強守護神・大石達也や愛媛・済美高で04年センバツV投手に輝いた福井優也と3人の「ドラ1候補」を擁し、その進路が注目されています。

東都大学野球リーグでは中大の剛腕・澤村拓一投手が人気です。ビルドアップされた肉体から繰り出される伸びのあるストレートは、惚れ惚れします。人間性も豪快で、男らしく、気持ちのいい若者です。プロ入り後は、幅広い世代から人気者になることでしょう。

ところで、彼らの主戦場となる「学生野球のメッカ」神宮球場のスピードガンが、とんでもない事態になっています。球速が、あまりに高い数値で出るのです。ネット裏に陣取った12球団のスカウトが所有するスピードガンとの誤差は、5キロぐらいはカワイイもので、10キロの差が生じることも珍しくありません。

スカウトは球団にレポートを書く際、神宮の電光掲示板に表示された球速を書かないと言います。あくまで球団所有のガンで出た数値を記入するというのです。でないと、神宮以外の球場で出た球速との間に「ものさし」の違いが生じてしまう、と。

困ってしまうのは、我々報道陣です。投手がマウンドからボールを放ち、電光掲示板に球速が表示される。その数値が出たことは、やはり事実です。報道する価値が生じます。150キロという「大台」に乗ることは、日頃から苦しい鍛錬を積んでいるピッチャーにとって、大いなる目標でしょう。それは尊重しなくてはなりません。

でも、こうも考えます。体重計を買いに行って、10キロ重く表示される機器があったら、わたしはそれを買わない。今では中学生でさえ「神宮のスピードガン、出過ぎだよな」と笑う始末です。

前述の澤村投手は、神宮のスピードガンで150キロを超えるストレートをコンスタントに計測します。9月5日、自己最速タイとなる157キロを計測した際に、その感想を聞くと、こんな話をしてくれました。

「僕の仕事は、打者を打ち取ることですから。157キロが出たからって、勘違いしないようにしていきたい」

150キロ台の剛速球でも打たれるし、90キロ台のカーブでも打ち取れる。それが、野球というスポーツ。だから、緩急をつけた投球術が重要になる。むやみやたらと直球を投げ込むのではなく、大切なのは打者との「騙し合い」に勝つこと―。澤村投手の頭の良さ、ピッチャーとしての成熟ぶりが、言葉の端々から伝わってきます

でも。150キロを超えるストレートには、華がある。ロマンがある。もっともっと、強いボールを投げたい。もっともっと、速いボールを見たい。これもまた、絶対的な真理です。

「神宮、出過ぎだよ~」。スカウト所有のガンと見比べ、ボヤキながら、僕はこれからも1球1球、電光掲示板とにらめっこすることでしょう。ああ、神宮のスピードガンが、悩ましい。

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加藤弘士(かとう・ひろし)

1974年4月、茨城県水戸市生まれ。水戸一高ではプロレス研究会に所属。慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、97年に報知新聞社入社。広告局、出版局を経て、03年からアマ野球担当。05年にはアマ野球担当キャップ。06年は巨人番(投手担当)。07年からアマ野球キャップに復帰し、09年には楽天・野村番。10年はまたもやアマ野球キャップを務め、斎藤佑樹の大学ラストイヤーに密着。11年は日本ハムと西武の遊軍記者。好きな言葉は「そのうち何とかなるだろう」。カラオケの十八番は「夜空」(五木ひろし)。173センチ、61キロ。右投右打。

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