スポーツ紙バカ一代

第46回 プロ野球開幕。雄星よ、思い切りブン投げろ

2011.04.11更新

まだわずかにニキビが残る十代の若者は、力を込めて言った。

「今までは自分の目標や、自分の夢、自分の欲求を満たすために、野球をやってきたと思うんです。でも、今年は違う。人のために野球をやりたい」

思わずグッときて、メモをとる手が止まった。「人のために」。そうだよな。確かにオレもそうだ。どうして仕事をするのか。答えは決して自分の生活のためだけじゃない。誰かがどこかで喜んでくれる。楽しんでくれる。あるいは、異論を唱えてくれる。それがうれしくて毎日、悩んだりキツイ思いをしながら、原稿を書いているんだもんな-。

声の主は西武の2年目左腕・菊池雄星投手。花巻東高校では甲子園のスターとして、みちのくに感動をもたらした。実家は岩手県盛岡市。津波に襲われた三陸沖には子どもの頃、家族で遊びに行ったり、野球の合宿や遠征でたびたび出かけた。思い出は、たくさんある。強い余震が襲った4月7日の深夜、所沢の寮も揺れた。盛岡にはすぐに電話したが、つながらない。一夜明け、ようやく家族の声を聞くことができた。雄星はこう続ける。

「自分は、岩手はもちろん、東北地方の方々に育ててもらったという気持ちがある。でも実際、今は野球しかできない」

それでいいのだと思う。誰もができることを、やるしかない。野球選手は1球に魂を込める。スポーツ記者は懸命に取材し、人間ドラマを描く。出版人は心を揺さぶる一冊を世に放つ。ロックンローラーは腰を振って、シャウトする。公務員は全体に奉仕する。教師の皆さんは、どうか子ども達に、生きる上で夢を描かせるような話をしてあげて下さい。

4月12日、未曾有の国難のなかで、プロ野球が開幕する。ルーキーイヤーをケガで棒に振った雄星は今季、開幕1軍スタートが決まった。若い力が希望を持って、新しい舞台に立つ季節。さあ雄星よ、思いっきりブン投げろ。失敗したら、出直せばいいんだ。

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加藤弘士(かとう・ひろし)

1974年4月、茨城県水戸市生まれ。水戸一高ではプロレス研究会に所属。慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、97年に報知新聞社入社。広告局、出版局を経て、03年からアマ野球担当。05年にはアマ野球担当キャップ。06年は巨人番(投手担当)。07年からアマ野球キャップに復帰し、09年には楽天・野村番。10年はまたもやアマ野球キャップを務め、斎藤佑樹の大学ラストイヤーに密着。11年は日本ハムと西武の遊軍記者。好きな言葉は「そのうち何とかなるだろう」。カラオケの十八番は「夜空」(五木ひろし)。173センチ、61キロ。右投右打。

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