ある日の数学アナ

第5回 ニュースの現場で

2009.11.13更新

普段何気なく生活していると、本当に一つのことに専念、集中している瞬間は意外と少ないのではないか。

音楽を聴きながら本を読む。
歩きながら考え事をする。
怒られながら別のことを考える。
正直、最後の「怒られる...」はあまり頻繁にあったら困るけれど、
私の場合、小さいころに親に怒られている最中は別のことを考えれば耐えられるぞ!
と気づいた時はちょっとした発見だったような気がする。
とはいえ「ちょっとあなた、話聞いてるの?」なんて突込みが待っているのはお約束。
顔に出てしまっていたのは、幼さゆえなのかしら。

さてさて、この「ながら」。
私の記憶ではあまり推奨された覚えがない。

学生時代に受験勉強やテスト勉強をする時、音楽を聴きながら勉強するのが好きだった。
冷静に振り返れば、好きな音楽でも聴かなきゃ机と対峙なんて出来なかったのであり、結局はカンフル剤というか、いわばエンジンがかかるまでの導入剤のような役目を果たしていたのだ。
だからある程度集中し始めれば音楽はあまり聴こえなくなっていたし、何かを覚えようとする時には、もはや邪魔になり自ら消していたような気がする。

でも今の私の仕事ではこの「ながら」が非常に重要な意味を持っている。
なぜなら、画面に出ている間というのはほぼ「ながら」状態にあるからだ。

ニュースを読みながら時間を確認する。
原稿を読みながら、スタジオでの指示を確認する。
コメントしながら、次の進行をチェックする。
どれもこれも目の前のことだけ考えていると、咄嗟に頭が真っ白になってしまう可能性があるため、常に自分に保険をかけておく。
最初のころはそれに気づかず、本当に目の前のことだけを考えていて咄嗟に想定外の展開になってしまったときに慌てた覚えがある。
だからこの、常に半歩先を読む作業は、いかにリスクを減らすかという作業の一環でもある。

そんなわけで、ながら作業は私としては生命線でもあるし、むしろもっと日常生活でも積極的に活用したいくらいなのだ。

日ごろ、ニュースの現場では一瞬で判断する場面が多い。
それも何かをしながらの場面で、だ。

これは先日、本当に遭遇した話なのだが、以下のような原稿があった。
まずは読んでみて頂きたい。

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海上保安庁はきょうから25日までの間、
北朝鮮が海上で火器訓練をするとの無線放送を受信したと発表しました。
火器訓練をするのはピョンヤンから西の海域で長さ120キロ、幅86キロの範囲だということです。
これを受け、海上保安庁はさきほど航行警報を出しました。
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これは普段の自分のスピードであれば、大体25秒くらいかかる。
しかし放送上残された時間は、あと15秒しかない。

「このままでは、入らない」

内容を尊重しつつ、なおかつ残り時間に収めるために何をどう削るべきか。
前半を読み出した時点で残された時間を確認する。
よし、では後半の細かい情報は申し訳ないけれど削ろう。
そして最終的に放送したのが、以下。

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海上保安庁はきょうから25日までの間、
北朝鮮が海上で火器訓練をするとの無線放送を受信したと発表しました。
これを受け、海上保安庁はさきほど航行警報を出しました。
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本来は、どの場所で訓練するかだって大事な情報ではあるのだが、視聴者が不愉快にならないよう放送することも大事なので、仕方なく削ることにした。
もちろんサブと呼ばれる副調整室には全体の進行の責任者であるPD、プログラムディレクターが座っているのだが、こういった一瞬の判断は、最後の最後はキャスターに任されている。
なんせ実際にマイクを付けてしゃべっているのは、キャスターなのだ。
それらがうまく噛みあった時の快感は、癖になる。

さて、仕事の上ではものすごい効果を発揮する「ながら」だが、日常生活では、音楽を聴きながら本を読むレベルでさえその域に達するまで実践したりはしていない。
実に勿体無い。

というのも、ながらで次の一手や展開を読む時のアドレナリンの放出度合いたるや結構すごいものがあるのだ。
集中度合いだってただならぬものがある。

ああ、きっと、こういうことだ。
日ごろ、仕事の場を除いては、あそこまで頭の中をぐるぐるフル回転させるなんてしてないってことだ。

この際、かつてあまり推奨されなかった「ながら」に、敢えて日常生活でトライしてみるとしてみますか!

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倉野麻里(くらの・まり)

テレビ東京アナウンサー。理工学部数学科を卒業した後、放送局アナウンサーという一見、数学とは縁のない世界に飛び込む。仕事は十二分に充実しているものの、数学、数字には触れない日々。「モノタリナイカモ…」。離れてみてわかった数学への愛。いや、数学への一方的な愛!!数学への偏愛から見える日常のあれこれを語る。
KYOTO的の人気連載「くらまりの日々是数学」をタイトル改め、本誌で新連載。

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