ある日の数学アナ

第8回 ハイブリッド型のススメ

2010.02.12更新

前回は「最も効率的なルールについての話」だったのだが、 その後、かなりワクワクするような面白いニュースに遭遇したので 今回もその話の続き。
いや~、話って意外なところで繋がるものだ。

先日、次のような内容が科学雑誌サイエンスに発表された。

『粘菌と呼ばれるアメーバ状に自由に広がることの出来る単細胞生物を 駅の配置に似せてエサを置いた板の上で泳がせてみた。
すると実際の鉄道網そっくりのネットワークを形成した。
粘菌のつくるネットワークは効率性や障害に対する強さの面で優れ、 交通や物流、通信などの分野に応用できる可能性がある』

単細胞、たんさいぼう、タンサイボウ・・・子どもにとっては悪口の常套句だ。 にもかかわらず、私たちはたんさいぼうについてまだ知らないところがあり、 さらには彼らから学ぶべきものがあったとは!
これにはなんとも驚いた。ちょっと単細胞生物を甘く見すぎていたかもしれない。

彼らは進化の過程でたまたま細胞が一つのままここまで来ただけで、 何億年もの時間を生き延びている事実は、やはり賞賛に値する。 きっと単細胞でいることが最も効率がよかったからなのだろう。

ふと疑問に思ったのだが、効率的であることと強さはどちらが先に来るのだろうか。
いくら効率的だからといって、機能的なネットワークを築けるだけでは何億年もの時間を 飛び越えることは不可能だろうし、かといって強いだけではそこまで理に適った動きも 出来ないはずだ。

私は生物学者ではないのであくまでも推測でしかないのだが、 きっとどちらか一つがより優れていた、ということではないのだ。
同時に二つの要素を兼ね備えていたからこそ、どんな環境にも対応でき、 しなやかに、したたかに生き延びてくることができたのだ。

昨今ではハイブリッド車が次世代をリードするようになっている。
いや、むしろハイブリッドは当たり前になりつつある。
ハイブリッドは動力源を二つ持っていて状況に応じて使い分けが出来るのが強みだ。
単細胞が効率的かつ強さを兼ね備えているのと同じように、 どちらか一方だけでない、二つの能力を兼ね備えているというのはやっぱり悪くないのかもしれない。

よく「何か一つ、武器を持て!」 と言われる。
誰にも負けない、これは得意だというものがあると強い、などといった具合に。

これは本当にその通りだと思うし、正解だ。
実際そういう人を目の当たりにすると、そういう人は多分、どこに行っても重宝がられる。
だけどよくよく考えると、これって結構シビアな要求だ。
誰にも負けないものを見つけるなんて、そうそうできない。

でも何も一番を目指さなくていいんだ、と言われるとちょっと気持ちが楽になる。
どちらか一つだけだと弱くても、両方を兼ね備えた時に本領を発揮するのであればやっぱりそれはそれで重宝がられるし、多分そういう人材はあまり景気がよくない今こそ 求められているはずだ、とも思う。

とはいっても何事に対しても努力する気持ちだけは忘れてはいけないと思うけれど、 なんだか単細胞に勇気付けられてしまったなあ。
タンサイボウよ、ありがとう!

ではまた。

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倉野麻里(くらの・まり)

テレビ東京アナウンサー。理工学部数学科を卒業した後、放送局アナウンサーという一見、数学とは縁のない世界に飛び込む。仕事は十二分に充実しているものの、数学、数字には触れない日々。「モノタリナイカモ…」。離れてみてわかった数学への愛。いや、数学への一方的な愛!!数学への偏愛から見える日常のあれこれを語る。
KYOTO的の人気連載「くらまりの日々是数学」をタイトル改め、本誌で新連載。

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