ある日の数学アナ

第17回 事実は小説より・・・

2010.11.19更新

事実は小説よりもずっと・・・
ということを改めて感じさせられた出来事があった。

それは、今年の野球シーズンを締めくくる日本シリーズ。
テレビの前、もしくは球場で手に汗握っていた方も少なくないのでは? とはいえ、これをお読みになっている頃には皆さんすでに興奮もすっかり収まり、「ああ、そんなこともあったねー」なんて感じかもしれない。でも私としては久々に興奮、感動したので、今回はこの話題にお付き合い下さい。

2002年に入社して以来、スポーツニュースに携わっていたこともあったけれど、ほぼ一貫して報道、経済ニュース畑で仕事をしてきた。
だからちょっと意外に思われるかもしれないが、実は中高時代はイチロー選手が大好きで、球場に足を運んでは背面キャッチを見るたびに感動している日本のプロ野球にやや前のめりな女子高生だった。(他にも傾倒したものはいっぱいあります)

ところがここ数年でアメリカへと活躍の舞台を移す日本人メジャーリーガーがたくさん誕生するようになった。その皮切りとも言われた野茂選手も好きな選手のひとりだ。
もちろん同じ日本人として、そんな彼らの存在をとても誇りに思うし、活躍を拝聴するたびに「異国で素晴らしい!」との思いを新にしていたが、正直に言うと、国内のプロ野球への興味が少しずつ薄まりつつあるのも同時に感じていた。

仮に名プレーヤーが海外へと移籍したとしても、素晴らしいプレーヤーは次から次へと誕生するし野球そのものが好きであれば関係ないはずだ、という声が聞こえてくるようだが、好きな選手が日々自然に接するニュースなどで見られなくなってしまっては、まあある程度仕方がないというか、わりと自然なことだといっても許されるんじゃないか。

もちろん「今日の日本人メジャーリーガーの活躍」と称して、スポーツニュースのなかで取り上げられてはいたけれど、それまでよりもぐんと身近度は落ちてしまうし、どことなく自分のなかにしっくり来ない部分があって、そこまで意識的に見ることができなかった。
なんといってもこの間まで、ふらっと球場に行けばその姿を見ることができたのに、海を渡って異国に行ってしまい、そう簡単には姿を見られなくなってしまった。その事実が想像以上に自分にインパクトを与えたんだと思う。

「あの選手のあのプレー」とか「あの選手のバットの構え方って独特だよね」なんて具合に、印象に残るものというのは不思議なくらい強烈に脳内にイメージが出来上がっている。それはなぜかというと、やっぱりテレビなどで繰り返し見たりすることでより深く脳みその記憶装置に刻み込まれているからだ。一度見ただけで深く心に刻み込まれることもあるけれどたいていの場合は違う。仮に今そう思っているシーンがあったとしても大抵は後づけの映像にかなりの部分を頼っている場合が多い。

これは何も野球に限ったことではなくて、サッカーでも同じだ。「ドーハの悲劇」だってもちろんものすごい悲劇だからこそ何度もテレビでも放送されるわけだけど、やっぱり何度も何度も放送されるからこそ脳裏に焼きつくのであり、その結果いつまでも皆に語り継がれるわけだ。

情報が溢れている昨今では、各々が気ままに興味のあることに邁進するのが当たり前で
かつてのように日本中が何かひとつのことに夢中になれることが少なくなってしまった。シーズン中の野球中継はかつてのような視聴率をたたき出すことはなくなってしまっていたし、きっと今回の日本シリーズだって対戦カードを見た時点ではそれほど期待はしていなかった人が多かったんじゃないか。

でも今回の日本シリーズは視聴率の数字こそ20%で、年末の紅白歌合戦やオリンピック、サッカーの日本代表戦などと比べれば劣っているけれど、見ているものをこれほどドキドキさせる展開もないくらい魅力的な試合の連続だった。まさにシーソーゲーム!

CS(クライマックスシリーズ)制度が始まってからは、今回のようなシーズン3位のチームが日本一になる可能性を孕んでいるとして、その意義に異を唱える声も少なからずあった。事実、私自身も何のためにシーズンを戦ったのかわからないじゃないと思っていた。でも今回の試合を見ていたら、「そんなこと思ってごめんなさい!」と言いたい。そのくらい緊迫した試合の連続だったのは皆さんご存知の通りだ。
史上初の下剋上だなんて言われているけれど「自分たちには失うものがないので」と謙虚な態度を崩さず戦い続けた選手たちに心からのお疲れさまを、そして感動をありがとうございましたと伝えたい。

ここで今回のような試合展開について、ちょっと考えたい。
そもそも、日本シリーズでは、先に4勝した方が日本一になる。
まず4連勝して「はい、おしまい」というパターン。
これは双方の勝つ確率が仮に1/2だったとしても4乗しなくちゃならないし、かなり低いのがわかる。実際は実力プラス読み切れないファンの声援とかいろんな要素があるし、ますます読みにくい。

実際は、双方のチームが勝っては負け、勝っては負けを繰り返して6戦目でまさかの引き分け、7戦目に突入するという珍しい展開だった。5戦目までの段階でロッテは3勝2敗。2回はどこで負けてもよいのでパターンとしては10通りもある。1、2試合目で負けてその後3連勝とか1、4試合目で負ける以外2、3、5試合目で勝つ、とかかなりのパターンが存在する。6戦目、実際は史上まれに見る長丁場の末に引き分けに終わったけれど、もし中日が勝っていたとすると、どこで3敗してもよいことになるわけで、勝ち負けの並ベ方は20通りに増える。

これだけ勝ち方にパターンが存在するのだから、双方それほど焦ることもないし、落ち着いて3つ勝ちをまず取ればあとは最後に一勝するだけなんだけど、どこまで試合ができるかもわからない上に、プレッシャーがかかるとそうも言ってられないのでしょう。しかも6戦目で延長15回な上に引き分けという珍しい事態に出くわした中日の疲労感というのは相当なものだったと思う。まさに一生かかっても数字には表れて来ない部分ですね。後から見ればトータル○試合行われたので、そのうちの4つ勝てばよい、というのと最短では4日かもしれないけれど、5日かも、いや、6日かもというのとではまったく違う。

最初は試合展開が面白い、ハラハラする、事実は小説よりもなんだかんだと言っておきながら、一方で勝ちパターンは何通りだ、確率は云々なんて、そんな冷静に見ていたのかお前は、興ざめだ、という声が聞こえてきそうな気がする。だから念のために言っておくと、そんなこと考えながら見ていたわけではもちろんない。
終わってみて冷静になって考えてみたら、どっちが勝つにしたって、勝ちパターンにはかなり色々あったんだし、それほど1試合1試合にハラハラしながら見なくてもよかったんじゃないかと誰よりも「自分が」突っ込みたくなってしまったのだ!

ではまた来月お会いしましょう!

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倉野麻里(くらの・まり)

テレビ東京アナウンサー。理工学部数学科を卒業した後、放送局アナウンサーという一見、数学とは縁のない世界に飛び込む。仕事は十二分に充実しているものの、数学、数字には触れない日々。「モノタリナイカモ…」。離れてみてわかった数学への愛。いや、数学への一方的な愛!!数学への偏愛から見える日常のあれこれを語る。
KYOTO的の人気連載「くらまりの日々是数学」をタイトル改め、本誌で新連載。

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