ある日の数学アナ

第28回 自分の声と向き合う

2011.10.21更新

前回の最後にあったような「結局は心の持ちようが大事なのです」
といった話を聞いた方はおそらく
「なんだ、どんなに努力したって結局技術ではどうしようもないんじゃない」
と思われるでしょう。
残念ながらそのご理解は多分、間違ってません。

ただ、ちょっと言葉足らずかもしれません。

『ある程度までは技術でなんとかなる。でも最後の最後は心の問題だ』

これが正確なところです、たぶん。
10年近く話すことを仕事にして働いてきて、
伝えるということについて考えてきた今の自分がたどりついた答え。
それが「心」です。

とはいえ、もし心をコントロールする方法があったら私も知りたい!です。
そのあたりを詳しく知ろうとするのであれば、そういった類の本は
既に世には沢山あるので、ここでは置いておきます。
専門外の私が語るようなことでもないですし。

ただひとつ言えることは心理状態と声は実によくリンクしているということ。
声を聴いただけでその心理状態は、ある程度まで想像できてしまいます。

そもそも、どうしてこのことに気づいたのかというと、
自分で自分の声に違和感を感じたことがきっかけです。

時は遡ること数年前・・・
アナウンサーとして仕事をし始めたばかりの頃、
自分の声がマイクに乗ると「なんか違うんだよなあ・・・」と感じることが多かった。
でも自分では何がどう違うのかよくわからなかった。

恐らく多くの皆さんが経験があると思いますが、
録音した自分の声を聞いた時、
「あれ、自分の声ってこんな声? 変な声だな」
と思われたことがあるでしょう。

昔は「それっ」「えいやっ」とRECボタンを押したりするなどして
テープ等に録音した記憶がありますが、
今や家庭用のビデオやデジカメでいつでもどこでも簡単に録れる時代。
他人に自分の声がどう聞こえているか、まったく聞いたことがないという人は
あまりいないでしょう。

でも、前述の私の感じた違いとはそういう類の違いではなく、
「本番前もこんな声だったかな?」
「こんな表現したかったんだっけ?」
といった違和感です。

なぜこんなことが起きてしまうのか??
と感じながらも、仕事はどんどん降ってくる。
フリーで仕事をしていらっしゃる方には本当に申し訳ないが、
新人の頃、先輩方の技を盗みながらソロソロ運転をしている時なんて
「これでいいんだろうか」と思わない仕事なんてないくらいの
超徐行運転なのだ。

そんな具合ながら仕事を続けるうち、どうやらマイクに声が乗るとか
乗らないといった、いわゆる物理的な違いではなさそうだ、
ということはわかった。

というのも「今日はそんなに気にならなかったな」ということが
少しずつ増えていったからだ。
そして数年経ってその違和感がどんどん減ってみて、
遅まきながらようやく気がついた。
自分の声に慣れたこともあると思う。
でもそれだけでは決してなく、少しずつ自信を持てるようになって
いったのだと思う。

自分に自信がないまま声を出すと、その自信のなさは絶対に声に現れてしまう。
具体的に言えば声はよれてしまうし、震えるとはいかないまでも、
か細くヒョロヒョロしてしまうものなのだ。
そしてその声を聞いて、さらに自分自信の緊張度を増してしまう。

よくあることなのだが、何かを表現しようとして
「いま躓いたかな? 躓いていないかな?
うーん、多分普通に聞いている分にはわからないはず」
というレベルの言葉のよれ具合になっていることは、
正直なことを言えばないとはいえない。

仕事をする上でいつも自分の満足のいくだけたっぷり時間をかけられるか
というと、決してそうではない。
心意気では芸術作品をつくるような完成度を目指していても(笑)
そんなに時間をかけることは許されず、
限られた時間でどこまで完成度の高いものをつくれるか、
というのが重要だ。
というわけで、プロとして世に出してもOK(そう言ってくれるので私もそう受け止めてます)
でも、自分のなかでは90点なんてことが起こりうるのだが、
そのような小さなミスは、心には多大なる影響を及ぼす。

というのも、そのまま話を続けていると、
その後の表現は絶対と言っていいほどうまくいかない。
どうしてもその前の失敗が頭をよぎってしまい、集中が途切れてしまう。
その場をなんとか乗り切ったとしても、後で自分が聞くと、
「そうだ、この時こんな感じでなんとか乗り切ったんだった」と
自分でもびっくりするくらいその心理状態が甦ってしまう。

とはいえ、なんだか声のことばかり考えていることによって
わからなくていいことまでわかるようになってしまった気もしています。

けれど、自分の声と向き合うというのは、
表現したいものがある場合、どうすればよいかを考えることができるので、
もちろんそこに後悔はないんですけどね。

ではまた来月お会いしましょう。

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倉野麻里(くらの・まり)

テレビ東京アナウンサー。理工学部数学科を卒業した後、放送局アナウンサーという一見、数学とは縁のない世界に飛び込む。仕事は十二分に充実しているものの、数学、数字には触れない日々。「モノタリナイカモ…」。離れてみてわかった数学への愛。いや、数学への一方的な愛!!数学への偏愛から見える日常のあれこれを語る。
KYOTO的の人気連載「くらまりの日々是数学」をタイトル改め、本誌で新連載。

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