ある日の数学アナ

第31回 「ほどほど」ではダメなとき

2012.02.15更新

想像していたのをはるかに上回る積雪に全国各地が悩まされた
1月となりました。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。

東京生まれ(正確には横浜だけど)東京育ちの私にとって
雪はあくまで見慣れない、ちょっと心を浮き立たせる存在だ。
でも今年は特に、そんな悠長なことを言っていられる場合ではない。
毎日の雪かきがどれだけ骨の折れる重労働かを想像するだけで気が遠くなる。
また豪雪地帯では多くの被害が発生し、雪は綺麗な姿を見せてくれるだけではなく
害にもなる厄介な存在なのだと思い知らされる。

特にご老人にとっては、あの膨大な雪の量は自分ひとりでどうにかなるレベル
ではなく、「ホントにすみません・・・」などと申し訳なさそうに
ボランティアにお願いしていたりする。
「何もおばあさんが悪いわけではないよ!」と丁重にお願いする
その姿を見るたびに、思わず体にぐっと手に力を込めてしまう。
力を込めたところで東京にいる私には直接何もできない。
そこがなんとももどかしい。

シーズンが始まる前に暖冬だという予報が出ていたりすると、
スキー場の支配人が「雪が少なくなると客足が心配だ」などと言うことがある。
しかしこれほどの雪ともなると、むしろスキー場だって整備が大変だろう。
何事もほどほど、が一番なのだ、結局のところ。

ほどほど、といえば、頭ではわかっていても何事も「ほどほど」で
止められないのが人間で
「ああ、あの一杯でやめておけばよかった」
「あの一口で止めておけばよかった」
などと後悔後に立たずということが多々ある。

でも私の信条は、どちらかというと
「やらないで後悔するより、やって後悔せよ」だ。
だからといって、例えば飲みすぎた、食べ過ぎたと威張れるようなものでも
ないのだが・・・

どうしようかな、トライしようかな、やめようかなと躊躇することは
沢山あるが、とにかくダメ元でやってみる。
もちろんそうすることで失ってしまうものもあるのだとは思うが、
結局はそれをただの失敗に終わらせるか、新たな教訓とできるかは
自分次第なのだ。
何事も経験だととらえるように努めていればどんなことだって
失敗ではなくなるはず、と信じている。

元からそういうタイプの人間だったことは間違いないが、
ナレーション仕事をしていると、強くそう思うようになった。
というのも、
「どうやら、人間は経験がついてくるとなかなか思い切った冒険をしなくなるものだ」
ということを実感してしまったのだ。
恐ろしいことに。

いつも通りに、おおよそ先方が求められる型通りに仕事していれば、
まず大きなクレームが来ることは少ない。
そりゃそうだ。
いつもの仕事ぶりに何らかの形でOKを頂いているからこその仕事だから。
だから大前提として基本の技術は既に備えているというのは言わずもがな、だ。

ところがそうやっていつも通りに何となく自分で限界をつくって仕事をしていると
日々小さくまとまってしまう。
「もう少し頑張れば新しい境地に達することができるかもしれない・・・
うーん、でも時間との戦いもあるしそこまで自分のエゴを通すわけにもいかないし」
などという葛藤がありつつも、「OKです~」
という声が聞こえるとホッとしてしまう自分もいる。

この時点で、自分で自分を殻のなかに閉じ込めていることになる。
次にその殻を破って成長するのはとても難しいし、実に骨が折れる。
経験に裏打ちされるものはあってしかるべきで、それを壊し続けるのが
すべてとは思わないし、その必要はないが、
やはりどこかで挑戦はし続けていないとダメなものなのだ。

そう思って、なるべく自分でテーマをつくって今日はこうしてみよう、
少しいつもと変えてみようとなるべく日々トライをするようにしている。
すると慣れ親しんだ作業とて決して同じものはなく、
自分の声の調子、ブレスの吸い方、気分・・・とにかく何から何まで
まったく昨日と同じなんてことはないのだ。

考えてみれば当たり前か、機械じゃなくて人間なのだから。
そう考えると、吉野家、すき家、松屋・・・牛丼店は数あれど、
あの「早い、安い、うまい」をキープするクオリティに改めて思いを馳せてしまうのであった。

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倉野麻里(くらの・まり)

テレビ東京アナウンサー。理工学部数学科を卒業した後、放送局アナウンサーという一見、数学とは縁のない世界に飛び込む。仕事は十二分に充実しているものの、数学、数字には触れない日々。「モノタリナイカモ…」。離れてみてわかった数学への愛。いや、数学への一方的な愛!!数学への偏愛から見える日常のあれこれを語る。
KYOTO的の人気連載「くらまりの日々是数学」をタイトル改め、本誌で新連載。

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