ある日の数学アナ

第33回 アナウンサーの技術(前編)

2012.04.20更新

4月は毎年巡ってくるというのに、なぜか新しいことを始めたくなるから不思議だ。
そして、もう今年も1/4が終わってしまったんだなあなどと思う。

今年は今までには一度も手をつけたことのない「あること」に
チャレンジしてみよう、などと思っている。
とはいえ、今まさに思い立ったくらいのところにいるのでもう少し
その面白味がわかってきたらまた報告しようかと。
・・・ちゃんと報告できるようにしなくちゃ。

さてさて。
いつもながら私事なのだが、今年の4月で勤続10年を迎えた。
いよいよ11年目に突入というわけだ。
見回してみると後輩の数はかなりのものになっているし、
仕事も一応は一通り経験した(と思う)ので、経験としてはまずまずのものが
積みあがっているはずだ。

そういえば入社した当初、外にロケ、もしくは取材に行くことが多いので
一体どのくらいの回数になるのだろう、
それらすべてを数えあげようとしたことがあった。
ところが少し経つと、その回数が尋常ではないほど多く、
とてもではないけれど数えられるような数ではない
ということに気がつき、いつしか数えることを止めてしまった。
あのまま数え続けていたらいったいどのくらいの数を弾き出していたのだろう・・・
とちょっと残念に思ったこともある。
ただ、大事なのは数ではない、どれだけのものが自分のなかに蓄積されているかだ。
残念がる必要はないのだ、と思うようにしている。

しかし、どんなに多くの経験を積んだとしてもそれらは目に見えない。
だからこそ、働き始めて自信のない日々には「回数」という「目に見えるもの」に
頼りたくなってしまったのかもしれない。
経験をある程度の形にして目にすることができれば、多少は自信に繋がるだろう。
資格なども恐らくその類のひとつだ。
やみくもに努力するよりも、通行手形のようなものがあれば
多少は安心できるというのは理解できる。

ただ、アナウンサーとして得てきたものは「技術」だ。
目にすることが難しいどころか数値化することさえできない。
資格があるわけでもない。
だからこの仕事を天職だと思えるまでにはまだかなり時間がかかりそうな
気がするし、とてもではないけれどアナウンサーとして自信があるなんて言えない。
でもその一方でアナウンサーとして仕事をすればするほど、
身に着けてきた技術は、どんな仕事にも役立ちそうなものばかりだとしみじみ思うのだ。

せっかく10年という節目を迎えたことだし、これはいい機会だと思って
改めて振り返ってみることにした。

①度胸を持つ
アナウンサーは番組の顔となってスタッフ全員が努力してきたものを
アウトプットする「最後の砦」と言える存在だ。
自分ひとりの失敗はスタッフ皆に迷惑がかかってしまうし、逆もまた真なり。
スタッフの失敗が自分のミスに繋がってしまうことだって、ないわけでもない。
フォローされることも、することも含めてとてもやりがいのあると思っている。
本当はフォローしてもらうのはよくないことなのだけれど、
信頼関係あってこそなので、ある程度はよしとしよう、今は。

そんなわけで、多少のミスや間違いにも動じない神経や度胸を
多少は持ちあわせていること、というのは結構重要な要素だ。
もちろん誰でも最初は慌てふためいてしまうが、
だんだんとその対処法も学べるので、今持ちあわせているか
いないかというのはそれほど心配する必要はないのだけれど。
とはいいつつ、大前提として、ひょっとしてミスがあるかもしれないから
そのフォローのために強靭な精神力を持っていなければいない
というのは本末転倒だということに皆さんはもうお気づきでしょう。

人の前に出て話をする時には、誰よりもその内容を理解し
自信を持って説明できなければ説得力もないし、
耳を傾けようという気もなかなか起きないものなのだ。
だから、度胸はとても重要だ。

②できる限りの準備をする
入社した当初誰からともなく言われた言葉が沁みる。
「100準備しても、本番に出せるのは1しかない」
これは入念な準備の重要性を新人に説いたものだが、恐れを知らない当時は
「そりゃまたオーバーな・・・」と思っていた。
でも、取材で多くのプロの姿勢を目の当たりにするにつれ、
オーバーでもなく、まったく間違った言葉ではないということに気がつく。
その方が俗にいう一流と呼ばれる方であればあるほど、
入念な準備を怠らないし努力に余念がない。
そういった本物をすぐ傍で見ることができるという点で、この仕事は本当に幸せだし、
レベルこそ違えど翻って自分はどうだろうと自省することも可能だ。

③開き直る
以上のふたつさえ実行してしまえば、最後は開き直ることも意外と重要だ。
たとえば生放送であればハプニングはつきものだし、
問題なのはハプニングが起きてしまった時どう対処するかであって、
ハプニングが起きたらどうしようなどと考えていてはとてもではないが、
毎日を乗り切ることができない。
それを心配している方が心臓によくない気がする。
少なくとも私はそう考えるようにしている。


(つづく)

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倉野麻里(くらの・まり)

テレビ東京アナウンサー。理工学部数学科を卒業した後、放送局アナウンサーという一見、数学とは縁のない世界に飛び込む。仕事は十二分に充実しているものの、数学、数字には触れない日々。「モノタリナイカモ…」。離れてみてわかった数学への愛。いや、数学への一方的な愛!!数学への偏愛から見える日常のあれこれを語る。
KYOTO的の人気連載「くらまりの日々是数学」をタイトル改め、本誌で新連載。

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