すみちゃんのめひこ日記

第9回 村はたのしい

2016.11.07更新

 村はたのしいです。
 ふだんはメキシコシティに住んでいますが、ときどき地方へ行くと、日常生活では出会えない出来事に次々と襲われて、どうしようもなく面白いのです。

 友人を訪ねて、オアハカ州のサンタ・クルス・パパルトラという村に行きました。
 オアハカ州はメキシコの南部に位置します。気候は温暖で、海側に行けば美しいビーチが有名です。また、モンテ・アルバンやミトラをはじめとする大きな遺跡がたくさんあります。Mixtecos(ミステコ)、Zapotecos(サポテコ)、Triquis(トリキ)、Mixes(ミシェ)といった民族グループをはじめとし、先住民人口が多く、そのことによって多様なオアハカが織りなされています。市場に行けば色鮮やかな民族衣装や民芸品を前に目移りし、食べ物は特にチーズとチョコレートが絶品です。ほんとうにおいしい。

 サンタ・クルス・パパルトラは、州都オアハカから30kmほど離れたところにある小さな村です。「小さな」というのは私の感覚から出た言葉ですが、この「村の規模」というものを厳密に示そうとすると、これがけっこう難しいのです。なぜなら・・・。

 村のたのしいところ・その1  人口が分からない
 パパルトラに何年も住んでいる友人に人口を尋ねても、「ハハハ、分からないねぇ」と返されます。国の人口調査の資料を調べれば一発なんじゃないの?という考えは当然湧きますが、「メキシコの国勢調査なんて(笑)。選挙の票を増やすために、架空の村を勝手につくっちゃうような国だよ」ということで、簡単に人口を知る道はありません。こういうデータに関しては、村の病院などに訊くとだいたい正確な数がわかる、と人類学者の友人があとで教えてくれました。

 ・・・ということで、医者の知り合いができなかったので、パパルトラの正確な人口が分かりません。
 村の作りは、メインストリート沿いに教会、広場などがあり、そこを中心として、商店や民家が約1km四方にわたり広がっています。村のはずれではトウモロコシ畑が絶景を作っていて、さらにそのまわりには、サボテンなどたくさんの植物が生えるなだらかな丘がつづきます。農地の横を歩いていれば、作業をしているおじさんがマチェーテ(刃渡り30cmくらいの山刀。農作業や草木の刈り取りに使われる。農民のシンボルマーク的な意味も持つ)を振り上げて挨拶してくるので、なかなかこわいです。


トウモロコシ畑。道を奥に進むと、丘に着く。このとき着ている民族衣装は、チアパス州のシナカンタンという村のもの。残念ながらオアハカのものではない。


丘。下は、朝日がのぼっているところ。

 こういう景色は、村の中心から20分くらい歩いたところでもう見られます。日本とは全く様相の異なる植生に囲まれて清らかな空気を吸い込んでいると、安心感とキゾチシズムが混ざったような、いままでに味わったことのない気持ちよさが、身体に充満します。
 そうやってぼーっとしていると、いまは遠くにみえているパパルトラの村から、「あの音」がかすかに届くのです。
 「おはようございます~~、セニョーラ・エルナンデスの~~タマル~~、10ペソ~~・・・」。

 村のたのしいところ・その2  自主メディアがなんだかすごい
 村を歩いているときに突然爆音が鳴り響いたのでびっくりしていると、「はじまった、村内放送だ・・・」と、友人が疲れ切った顔で呟きます。パパルトラには住民が有志で運営する村内放送システムがあるのです。つまり音声は村中に鳴り響いていますが、これは公共のものではなくて、あくまでも「○○さんちが自宅の屋根にアンテナをつけて勝手に流している放送」です。現在この村では2家族が競い合うように放送を流していて、あっちからケーキ屋の宣伝が流れたかと思えば、こっちからはドン・マヌエル(仮名)の誕生日を祝う曲が負けじと大音量で流れてくる、といったようなカオスが一日に何度も到来します。Aさんちが新しいスピーカーを買えば、Bさんちもスピーカーを2個に増やさなければいけません。競争は激しいのです。そうやって現在、各「放送局」はスピーカーを3個ずつ屋根に積んでいます。そんなに要るのかは分からないのに。

 大音量放送合戦のおかげで、友人のお隣の奥さんはノイローゼになったとかいう噂までありますが、この村内放送、内容もなかなかです。
 「セニョーラ・エルナンデスのタマル、10ペソ~~。自宅にて~~」(※タマル=トウモロコシの粉から作った生地でいろいろな具を包んで、ちまきのように蒸した料理。)
 「鶏肉販売中~~。あの角で~~」
 ・・・お気付きのとおり、場所の情報がかなり雑なのです。
これが成り立つということは、すなわちリスナー全員が「セニョーラ・エルナンデスの自宅」や「あの角」という場所を分かっているということです。私のような初心者は、「"あの角"?どこ?」と、用事が無くてもその暗号を突き止めたい欲望に駆り立てられます。

 こういう放送もあります。
「本日はセニョール・ハビエル・ゴンサレスの誕生日です。お祝いに、弟のロシオ・ゴンサレスから曲をプレゼントします」。そうして放送局Aから曲が流れたかと思えば、同時に放送局Bから、別の人の誕生日を祝う曲がはじまったりします。お祝いなんだから、ゆずりあって一曲ずつ流そうよ、というつっこみは届きません。が、それはそれとして、同じ人宛てに、弟から、孫から、妻から、と色んな人からの曲が流れるのを聞いていると、この村の文化、家族の関係などが想像されて、こちらもとても心温まります。

 私は直接聴く幸運に恵まれなかったのですが、友人によれば、「セニョール・マルティネス、もう待ち合わせ場所で30分待っています。はやく来てください」とかいう超個人的な内容や、夜中に酔っ払いが「帰ったら俺のロバがいなくなってるーーー!盗まれたーー!」と叫ぶ放送もあったとか。
ということで、この村内放送、音量と競争の問題は深刻ですが、かなりバラエティに富んだ活用のされ方をしていて、なかなか素晴らしいメディアです。

 実はこのとき、友人の結婚式でこの村を訪れていた私は、「これはお祝いとして村内放送を利用するしかない」という思い付きで、加山雄三の「お嫁においで」を歌ってしまい、おかげで「日本から歌手が来ている」というウワサを村じゅうに流すことになりました・・・。Aさんちのリビングで自主放送機器を前にマイクを握って歌ったわけですが、奥さんは「お祝いだから、使用料は取らないわよ」とにこやかに対応してくれました。ありがとうございました。

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

角智春(すみ・ちはる)

1995年生まれ。島根県出身。耳の垂れた犬が好き。盆と正月には愛犬のビーグルと出雲大社周辺を散歩する。東京外国語大学でスペイン語を専攻。ゼミでは人類学&現代思想を真面目に勉強し、指導教員に「スミさんには、“自由とは何か”を考えはじめて200年、みたいな趣きがある」と言わしめた。

バックナンバー