『THE BOOKS』通信

先々週、おかげさまで、『THE BOOKS』の3刷が決まりました!
8月上旬の発刊以来、こつこつと着実に読者のみなさまのお手元に届いているようで、
ミシマ社一同、とてもうれしく思っております。

お買い上げいただいたみなさま、『THE BOOKS』を展開していただいている
書店員のみなさまに心よりお礼申し上げます。本当にありがとうございます!!

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今回の『THE BOOKS』通信では、神奈川県立荏田高等学校の嘉登(かと)隆先生が『THE BOOKS』を読んで、「沖縄ゆかりの文学作品をPOPにする」という現代文の創作課題を考案されたお話をご紹介いたします。

先日、ミシマ社に嘉登先生、2年生の阿部真奈美さん、伴 亜弥菜さんが遊びに来てくださり、お話を伺いました。『THE BOOKS』をきっかけに、こんな素敵な試みがされていたなんて!
とただただ感激してしまいました。ぜひ、お読みください!

(取材:足立綾子・林萌、文:足立綾子、写真:林萌)

第6回 [番外編]『THE BOOKS』の意外な広がり――神奈川県立荏田高等学校とジュンク堂書店那覇店のコラボで国語の授業!?

2012.10.22更新

『THE BOOKS』を読んで、沖縄文学のPOPをつくる授業をひらめく

高校の国語の授業って、文章をひたすら読解するような座学のイメージがありますが、嘉登先生の授業は一風変わっています。

古今和歌集からイメージした和菓子のスケッチを描いて、実際に和菓子職人さんにつくっていただく授業、芸術論を学ぶために携帯カメラを使った写真の授業をするなど、嘉登先生の授業のお話を伺うと、私もそんな授業を一度受けてみたかったと思います。

そのような独創的な国語の授業をされている嘉登先生とミシマ社との関係は、約3年前からはじまりました。

当時、県立相模原高校に勤務されていた先生が、『街場の教育論』に感動してミシマ社にご連絡いただいたのをきっかけに、出張寺子屋をしに相模原高校に伺ったり、その延長で啓文堂書店相模原店で「県立相模原高校×ミシマ社 コラボフェア」も開催させていただく流れになったり・・・と、それ以来、交流させていただいています。
(相模原高校×ミシマ社×啓文堂書店相模原店についての記事はこちら!)

現在の嘉登先生の勤務先である荏田高校では、2年生のときに現代文の授業で中島敦の『山月記』や夏目漱石の『こころ』など、文学作品漬けの一年間を過ごすそうです。9月に沖縄で修学旅行があり、沖縄にゆかりのある文学作品を授業で取り上げることができないかと考えていた嘉登先生は、『THE BOOKS』を読んでいたときに、あるページで授業の構想がひらめいたといいます。

第6回『THE BOOKS』通信

「すでに買ってある本」「今後読みたい本」「文章力がいいページ・実際に訪ねてみたい本屋さん」と三段階にわけて付箋をたてている嘉登先生の『THE BOOKS』

「戦争ものの定番の作品はいっぱいあるけれど、他になにかないかなと考えていました。『THE BOOKS』のなかで、僕の好きな詩人である茨木のり子さんの『おんなのことば』を紹介する文章がいいなあと思って読んでいたんですね。そこでお名前を見たら、ジュンク堂書店那覇店の方で、窪田さんのコメントでも『地元作家の本も充実している』と書いてあって、これだ! とひらめいたんです。

去年、茨木のり子の詩を朗読の授業で取り上げましたし、『おんなのことば』を出している童話屋の社長の田中和雄さんも講演で荏田高校に来ていただいたこともあり、一本の線でつながった気がしました。」

沖縄ゆかりの文学作品を読み込んで、その本の魅力を一枚のPOPに表現するという授業を考案した嘉登先生は、ジュンク堂書店那覇店の香川紀子さんに選書とPOPの店頭展示のご協力を依頼しました。

ジュンク堂の香川さんは、今まで書評を書く機会はあったものの、読者さんから直接反応が来たのがはじめてで、とても驚いたそうです。香川さんは、今回の依頼をうけて、どのような視点で選書されたのでしょうか。

「嘉登先生から『戦争と平和というテーマではなく、沖縄の文学作品を』というご要望がありました。山之口貘は沖縄出身の詩人として有名ですし、童話屋さんの本も好きだったので、茨木のり子による山之口貘(*1)の評伝『貘さんがゆく』はすぐに決まりました。

ただ、二冊目は選ぶのに難航しました。というのも沖縄の文学作品は、以前は文庫版であったものも現在品切れしていることが多いんです。去年、集英社が刊行開始したアンソロジー・シリーズ「コレクション 戦争と文学」のなかの『オキナワ 終わらぬ戦争』が今年5月に出まして、ページ数も多くて、高校生には難しいかもしれないけれど、小説、詩、戯曲など、いろいろなジャンルの入っている本書をこの機会に触れてほしいと思って選びました。」

(*1)「山之口貘(やまのくち・ばく)」本名 山口重三郎。明治36(1903)年、沖縄那覇市生まれ。生涯、貧乏神をふりはらうことができず、借金にせめたてられながらもいつも王様のようにゆうゆうと生きぬいた愛すべき詩人。

第6回『THE BOOKS』通信

右:『貘さんがゆく』(茨木のり子著、童話屋)
左:『コレクション 戦争と文学20:オキナワ 終わらぬ戦争』(浅田次郎他編、集英社)


言葉を吟味してつくられた、大胆でユニークなデザインのPOP

普段、授業のアシスタントをしている阿部さんと伴さんが、『貘さんがゆく』『オキナワ 終わらぬ戦争』を読み、同級生もおもしろいと感じてくれそうなところを抜粋し、それをもとに嘉登先生が現代文のプリント教材をつくったそうです。

721ページにも及ぶ大書『オキナワ 終わらぬ戦争』から、劇作家・知念正真(*2)の戯曲「人類館」を選んだのは伴さん。「人類館」は、1903年に実際にあった「人類館事件(*3)」をヒントにつくられた戯曲です。

(*2)「知念正真(ちねん・せいしん)」昭和16(1941)年、沖縄県生まれ。コザ高校二年の時、演劇「基地の町から」で、琉球放送主催のコンクールで優勝。昭和53(1978)年、「人類館」で岸田戯曲賞受賞。
(*3)「人類館事件」1903年に大阪天王寺で開催された第五回内国勧業博覧会で、「学術人類館」なる民間パビリオンが場外に設定され、「アイヌ」「台湾生蕃」「朝鮮」などとともに「琉球」女性二名が見世物として展示された。

「この本には差別表現や政治的な表現などが含まれるものが多かったので、教材として取り上げるところを選ぶのが難しかったのですが、『人類館』は深刻な作風のなかにブラックユーモアがあっておもしろかったので、選びました。」

第6回『THE BOOKS』通信

嘉登先生の授業のアシスタントをしている伴亜弥菜さん(左)と阿部真奈美さん(右)


第6回『THE BOOKS』通信

現代文 創作課題「沖縄ゆかりの文学作品をPOPにする」教材プリント


二人組のペアで作品を読み込み、意見交換をしながらPOPをつくるこの授業。
嘉登先生はPOPをつくるにあたって、

・指定したサイズでつくること
・作品の表現を活かすこと
・おもしろい、楽しい、すごいなどのステレオタイプの表現は避けること

この三つの注意事項を生徒さんに伝え、また、自分が本屋さんで本を売る立場になったイメージで丁寧につくることもアドバイスしたそうです。

それでは、生徒さんがつくったPOPの一部をご紹介していきましょう。
まずは、『貘さんがゆく』のPOPから。

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「弾を浴びた島」にある沖縄方言"イクサニ サッタルバスイ(戦争でやられたのか"を大きく書いたキャッチコピーが目を引くPOP。

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第一詩集が出た時に男泣きした山之口貘。そのときのことを「処女詩集」という詩にしています。穴あけパンチでつくった丸をあしらって、デザインのポイントにしています。

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二人の感想がそれぞれ書いてある白い紙をめくると「告別式」という詩の一節が。POPの構造や色使いの完成度が高く、仕掛け屋・林がうなった作品。

次に、「人類館」のPOPです。

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あえて、クレヨンで淡く「殺して」と書いたキャッチコピー。「子供を殺し、親を殺し、残った私を誰か殺して・・・」とフレーズの流れもスムーズで見事です。

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「命」という字に色づけする場合、赤などの暖色系の色がよく使われますが、蛍光ペンを使っているところがユニーク。色使いだけでなく、文字の大きさのメリハリも効いています。

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文中からの引用とキャッチコピーのみでシンプルに構成されていて、すっと目にとまるPOP。黒と赤の色づかいで、黒い日の丸をイメージしてつくったそうです。

実際にPOPをつくってみて、感じたことを阿部さん、伴さんに伺いました。

阿部さんは『貘さんがゆく』のPOPづくりで、貘さんの詩の深さや重みを伝えることを大切にしたかったと語ります。

「貘さんの詩は、どれもストレートに気持ちが書き表されたものが多くて、読みやすいんですけど、原稿用紙を200枚、300枚も使って推敲を重ねていたことを知って、貘さんの詩のなかに隠されている深さや重みを伝えたいと思いました。簡単につくられたものではないことを伝えるために、詩の中からPOPに使う言葉を選ぶ難しさがありました。」

一方、伴さんは「人類館」のPOPづくりで、沖縄でPOPが展示されることを意識しながらつくったといいます。

「本土で飾るのと沖縄で飾るのとでは、POPを見た人の捉え方が違ってくると思ったので、言葉選びには慎重になりました。今回、この作品を読んで、沖縄の戦争の奥にあるものについて知ることがはじめの一歩だと思いますし、自分が知らないことを実感させられました。」

第6回『THE BOOKS』通信

伴さんがつくった「人類館」のPOP


ジュンク堂書店那覇店にて120点以上のPOPを展示

今回、荏田高校の2年生の3クラス、117名がつくったPOPは、120点以上にのぼります。
現在、ジュンク堂書店那覇店2階のエスカレーター横のスペースにて、POPと本を展示している風景は、本当に壮観です!

第6回『THE BOOKS』通信

第6回『THE BOOKS』通信

生徒さんがつくったPOPをみて、ジュンク堂の香川さんは「とても一生懸命につくったのが、POPから感じられました。色紙を使って、デザインが凝ったPOPも多く、本の魅力をキャッチコピーひとことで表しているのが印象的です。書店員のつくるPOPとは、一味違ったものができましたね」と語ってくださいました。

第6回『THE BOOKS』通信

阿部さんと伴さんが修学旅行の自由時間を利用してジュンク堂書店那覇店を訪れた際に、なんと! 沖縄タイムスの取材も受けることに。10月3日付の沖縄タイムスの記事を読んだ方がこの展示を目当てに来店されることもあるそうです。力作揃いのPOPの数々を店頭にてどうぞご覧ください!

嘉登先生、『THE BOOKS』に、このような素敵な広がりの可能性があることを教えていただき、ありがとうございました!!

第6回『THE BOOKS』通信

*神奈川県立荏田高等学校の生徒作成のPOP展示(10月30日まで開催)

ジュンク堂書店那覇店2F
〒900-0013 那覇市牧志1丁目19-29
電話 098-860-7175
営業時間 10:00~22:00


【お知らせ】

10月30日(火)にジュンク堂書店那覇店で、
本記事で紹介した山之口貘さんの娘・山之口泉さんのトークショーが開催されます。
ぜひご参加ください!

第6回『THE BOOKS』通信

左:『新版 父・山之口獏』(山之口泉、思潮社)
右:「詩とファンタジー 2012年秋雅号 No.20」(やなせたかし監修、かまくら春秋社)


*かまくら春秋社刊 「詩とファンタジー」第20号記念号発売記念トークショー
「父・山之口貘を語る。」

■開催日時:2012年10月30日(火)18時00分 ~
■場所:ジュンク堂書店1F正面入口 特設会場 ※参加無料
■ゲスト:山之口貘さんの娘 山之口泉さん

やなせたかしさんが責任監修している雑誌「詩とファンタジー」の
記念すべき第20号は"沖縄特集号"。
本誌にエッセイを寄稿した、山之口貘さんの娘・泉さんの特別トークショーを開催します!

・整理券は必要ありません。ご参加無料です。
・席に限りがございます。満席の場合はお立見になります。

お問い合わせ先:ジュンク堂書店那覇店 電話:098-860-7175

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ミシマ社 編(みしましゃ)

『THE BOOKS 365人の本屋さんがどうしても届けたい「この一冊」』

ミシマ社と本書について……

ミシマ社は、「原点回帰の出版社」として2006年10月に創業。現在メンバーは7名。全員全チーム(編集・営業・仕掛け屋)の仕事をするというスタイルで、東京・自由が丘、京都府城陽市の二拠点で、「一冊入魂」の出版活動を展開中。取次店などを介さない「直取引」という営業スタイルで「一冊」を全国の書店に卸している。

本企画は、ウェブ雑誌「平日開店ミシマガジン」の「今日の一冊」にご協力いただいた書店員さんを中心に、新たに「どうしても届けたい一冊」を選書してもらい、手書きのキャッチコピーと紹介文をそえて構成した。本書に登場する書店のMAPを巻末に掲載。


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