石井ゆかりの闇鍋インタビュー

プロローグ・その1

2014.02.10更新

ぶっこまれた企画書。

2013年、6月。
京都三条烏丸、ミシマ社京都オフィスにおじゃました。
数年前にご挨拶だけした三島社長、
そして4月に入ったばかりの新入社員・新居さんと、
打合せをするためである。
偶然、私も2年ほど前から、徒歩5分ほどの近所に住んでいる。

打合せといっても、とくに用事はなかった。
もとい、
ミシマ社の星野さんから送っていただいた企画書の内容について
ここで検討するはずだったのだが、
どうもその話をした記憶がない(星野さんすみません)。
ただ思いついたことをばーばーばーばーと喋って、
大笑いして帰ってきただけだったような気がする。

三島社長はもともと京都出身で、
京都オフィス設立はいわば「帰京」みたいなものである。
京都のど真ん中にオフィスを借りた経緯とか、
京都の不動産事情とか、
四条通の地下を通る謎のトンネルがありますよね、
あれはびっくりしました、と振ると、
京都人としては
「そういうものだとおもっていて、違和感を感じたことはない」
という衝撃の事実を目の当たりにしたりした。
まあ、完全な雑談だ。

ミシマガジンは「贈与」で作られている。
無料で閲覧できるこのWebマガジンを更新し続け、
その内容を月1で紙の雑誌にまとめるのだが、
その経費は、サポーターのカンパや
印刷会社さんのご好意などでまかなわれている。
そういう説明をきいた。
それは、うちのサイト「筋トレ」に似ている、と思っていた。
「で、石井さんもミシマガジンに何か書きませんか」
というハナシになった。
企画書には数千円の謝礼が記載されていたが、
この「贈与」のシステムの話をきいたら、
どんなにわずかでも、もらってしまってはつまらない。
つまり
「いつか、タダで何か書かせてもらうことになるのかもな...」
という「予感」が、この打合せの結論だった。

星野さんの企画は、内容的にちょっとムリだったので
さくっと流れてしまった。
その後、私は単行本の刊行や年運の仕事に忙殺され、
そのことは忘れた。
そして半死半生で迎えた年末、ミシマ社の新居女史からメールが来た。


 先日は弊社京都オフィスに足をお運びくださり、
 ほんとうにありがとうございました!!
 お越しくださったのが6月でしたので、もう半年ほどの
 歳月が経ったかと思うと...月日の流れる早さに驚くばかりです。

まったくです。
御社に伺ったのは先週のような気がします(ひとりごと)。

 本日は、石井さまに折り入ってご相談したい企画があり、
 ご連絡させていただきました。

なんと(ひとりごと)。

添付の依頼書を私は開いた。
すると中は、以下の様な内容だった。


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石井ゆかりさま
ご執筆のおねがい

 いつもお世話になっております。
 先日は弊社オフィスまで足をお運びくださり、ほんとうにありがとうございました。楽しい時間は過ぎるのがあっという間とは、まさにこのことかと今でも思い返してしまうほどです。
 この度は、石井さまに弊社Webマガジン&紙雑誌「みんなのミシマガジン」にご執筆いただきたく、ご依頼書をお送りいたします。
 下記をご高覧いただき、ご検討くださいますようお願い申し上げます。

【掲載誌】ミシマ社発行 Webマガジン&紙雑誌「みんなのミシマガジン」
【URL】http://www.mishimaga.com
【タイトル案】「石井ゆかりの酒がたり(仮)」
【企画内容】
お酒がお好きと噂の石井ゆかりさんが、酒場で語る人生の機微やあれこれ。
 ご執筆方法はご相談させていただきたく存じますが、
(1) 月に1回、どこかの酒場でおいしいお酒を飲みながら収録を行い、そちらを編集部で文字起こししてお渡し。素面に戻った状態で、その原稿に加筆していただく。
(2)必ずお酒を飲んだ状態でご執筆いただき、そして素面に戻ってから、さらに一言いただく。
 上記のいずれかで一度ご検討願えれば幸いです。
【連載ペース】月1回掲載
【文字数】原稿用紙3~5枚(約1000~2000文字)程度を目安にお願いできればと存じますが、あくまで目安で、短くなっても長くなっても大丈夫です。
【謝礼】薄謝で恐縮ですが、1カ月につき○○円、お支払いさせていただきます。

 何卒よろしくお願い申し上げます。

                     株式会社ミシマ社 三島邦弘、新居未希

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一読して、私は
「ぶっ」
と吹いた。

きたなミシマ社...。

しかし、そのときは深く考える余裕がなかった。
秋からの多忙さで、精神と脳みそが焼き切れそうになっていたのである。
正月にゆっくり考えよう、と思い、
「年が明けたら返事をします」と返信した。


妖怪・企画書がえし

そして2014年、年明け。
件の企画書を再読した。
きれいにまとまった、わかりやすい企画書である。
過不足がない。
しいて難を言えば丸数字(機種依存文字。OSによっては文字化けするので、相手の環境が解らない場合は使わない方が無難)を使ってることくらいである。


しかし、酒を飲んで喋るなんて、
そんな危険なことができるはずもない。
私は思案して、上記フォーマットをコピペし、
以下のような「企画書返し」をした。


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ミシマ社
三島社長 新居様

明けましておめでとうございます、本年もよろしくお願いいたします。
昨年末に企画書を拝見いたし、のけぞりました。
大変面白く思いましたが、酒を飲むと何をするか解らないという当方の仕様上、公序良俗の点からいって、問題があると思いました。

で、お正月から色々考えたのですが、以下のようなものではいかがでしょうか。

【タイトル案】「石井ゆかりの闇鍋インタビュー」
【企画内容】
石井ゆかりが御社近辺で、「誰か」にインタビューをし、記事にまとめます。
(1)インタビュイーは、ミシマ社様に適当に決めて頂く
(2)インタビュイーは偉い人や有名な人ではなくてもよい、というかむしろそうではないほうがよい(例・御社のインターンの方)(全員御社の方でも可能)。
(3)インタビュイーは毎回変えなくともよい。石井は、誰が来るか事前に知らされない。
(4)通常のインタビューと違い、インタビュイーの話と石井ゆかりの考えとが半々くらいになるかも。場合によっては私の話ばっかりになる可能性も。その件はインタビュイーにご了解いただく。
 参考 http://d.hatena.ne.jp/iyukari/20100306/p3(ここまで長くはしません。)

【連載ペース】月1回程度掲載(繁忙期は難しいかもしれません)
【文字数】原稿用紙3~5枚でおさまるかどうか・・・
【謝礼】不要ですが、インタビュー時のお茶代と喫茶店手配をお願いします。

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インタビューする側、
つまり「話を聞く側」は「インタビュアー」である。
逆に、インタビューされる側は「インタビュイー」である。
普通、インタビューと言えば、
インタビュアーはあらかじめ、
インタビュイーのことをできる限り調べておく。
しかし、本企画では、それは逆である。
何が出てくるかやってみるまでわからない。
ゆえに「闇鍋」とした。

「闇鍋」とは、何が入っているか解らない鍋のことである。
みんなで集まって、部屋を暗くして、
こたつの上にガスコンロと鍋を置き、
鍋の中に色々なものを入れて火にかける。
普通の「鍋」ならば、
水炊きなら水炊き、おでんならおでんと、
中に何が入っているか解っているから、おいしくいただける。
しかし、「闇鍋」は違う。
真っ暗闇で食べるため、
箸で掴んだものがなんなのか、口に入れるまでわからない。
「食べもの」ではないもの(!)を入れるケースすらある。
もっとも凶悪な日本料理(?)である。

こんな企画、通るのかな...
毎月インタビューに応じてくれる人を探すのも大変だろうしな...
と、あまり期待せずに待っていたら、
新居さんからの返信は


 大変面白い企画をありがとうございます。
 拝見し、とってもわくわくいたしました!
 「闇鍋インタビュー」というタイトルも妖しげで素敵でいいですね。
 ぜひこちらの方向でお願いできれば幸いです。


満額回答。
さすがミシマ社。

というわけで、それから1週間ほどして、「軽い打合せ」が行われた。

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石井ゆかり(いしい・ゆかり)

ライター。星占いの記事やエッセイなどを執筆、独特の文体で老若男女を問わず人気を集める。著書に『12星座シリーズ』(WAVE出版)、『愛する人に』(幻冬舎)、『月のとびら』(阪急コミュニケーションズ)、『星の交差点』(イースト・プレス)など多数。

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