石井ゆかりの闇鍋インタビュー

第1回 畑さん・その1

2014.03.10更新

最初からドッキリを仕掛けられるの巻。

「インタビュイーのことを一切知らずにインタビューする」闇鍋インタビュー。
インタビュアーは私、石井ゆかりで、
インタビュイーは、ミシマ社さんが見つけて下さる
「当日が初対面、予備知識ゼロ」の相手ということになっている。


記念すべき第一回は、京都市中京区にあるカフェ、
「エレファントファクトリーコーヒー」で
という指令が、ミシマ社の新居さんから届いた。

 *********

当日、当然の如く私は緊張していた。
しかし
「ああ、あのとき緊張しててほんとよかったよ!」
みたいなことは、かつて一度も経験したことがない。
経験的に「緊張」は、なにもいいものを生まないのだ。
現地までは歩いて30分位なのだが
その間、私は緊張を避けるために
あえて「まったく関係ないこと」を考えることにした。
どうせ相手のことが何も解らないのだから
あれこれ考えたって意味はないのである。
しかし、何を考えようか。
そうだ、緊張していない人のことを思い浮かべれば
緊張は解けるのではないか!
この仮説に従い
私は、日ごろ愛好しているテレビ番組、
BS朝日の「歴史発見 城下町へ行こう」に出演している
ピエール瀧さんの姿を必死に思い浮かべ続けながら歩き、
そのまま、現地入りした。
彼が、たしか大竹まことさんに「君は、緊張しないの?」と聞かれて
「ぜんっぜん、しないっすね!」
「なんで緊張しないの?」
「たぶん、なんっにも期待してないからでしょうね! 自分にも他人にも」
と、笑いながら言っていた(ような気がする)のを思い出した。
そうだ、期待するから緊張するのだ。自分や他人に。


お店の前に着くと、ちょうど戸口から
きれいな和服の女性が降りてきた。
京都には、和服を着て観光できるというサービスがあり、
和服姿で歩いている人々をよく見かけるのだが
一見して、彼女はそういう「にわか」ではなかった。
彼女とすれちがいに、私はお店の入り口に続く階段を上がった。
和服の女性を送り出したお店の方が、
そのまま、私を迎え入れて下さった。
背の高い、ボウズ頭の、穏やかな男性だった。
ミシマ社さんの名前で予約が入っていると思う、
と伝えると、
ああ! はい、どうぞどうぞ
という感じで奥に通していただいた。
ミシマ社
の名前を出したときの反応に、不思議な濃さが感じられて
ミシマ社さんはいつもここを使ってるのかな......
と、何となく想像した。

店内には長い、壁に向かうカウンターがあり
数人のお客さんが静かにコーヒーを飲んでいる。
通された四人がけのテーブルの上には
なぜか、椅子の前にぺたりと4冊の本がおかれていた。
「ここに座ったやつはこれを読め」
ということなのかなと思ったら、
お店の方は、それをぱっぱっと片付けてしまった。
あとで考えたら
それは「予約」の意味だったのだと思い至った。
見ればテーブルの脇にも、
本がうずたかく積まれている。
このお店は、「本」なんだな......
と思い、なんとなく安心した。

しばらくして、ミシマ社の新居さんがやってきた。
三島社長はお腹を壊して、
「今日はこられないんです」とのことだった。
たしかこの間もお腹が痛い話をしていた。
ミシマ社はお腹いたい系のアレ(?)があるのかな
と思った。
先ほどのお店の方が注文を聞きにきたので
二人ともブレンドをお願いした。
しばらくして出てきたコーヒーは、
酸味の少ない、私の好きなタイプの味で
とても美味しかった。

コーヒーを飲みつつ
私はハラハラしながらインタビュイーが来るのを待った。
ドアが開く音と気配を耳で待ち受けた。
お見合いというのを私はしたことがないが
きっとこんな気持ちなのかもしれない。
ハラハラドキドキ
ハラハラドキドキ
ハラハ......
...
なかなか来ないので
新居さんと雑談をしつつも不安になってきたが
新居さんは、時計を見るとか、早く来ないかなとか
そういうそぶりを見せない。
彼女は本当に落ち着いているよな...
でも、誰が来るか、彼女は解っているんだから
落ち着いてて当たり前か......
しかし、ちょっとくらいは
「まだかなあ」みたいなアクションがあってもいいんのでは......
と思い始めたそのとき
「失礼しまーす」
と言って私の目の前に現れたのは
先ほど私を迎え入れ、コーヒーを出してくれた
あの、ボウズ頭の男性だったのである!

このお店の人かい!!

新居さんはこのときまさに
「ドッキリ成功」な顔をしていた。
まさか、そんなことを仕組まれるとは......
おそるべしミシマ社(大袈裟)
「いつばれるかと思ってひやひやしましたよ!」
と新居さんは言った。
どうやって見破れというのだ。
しかし、あの、最初にお店にいれていただいたときの、
応答の不思議な「濃さ」は、そういうことだったのか。
考えてみればいろいろ納得がいって
毒気を抜かれた。

「あーびっくりした!」
という私の間抜けな歎息から
栄えあるインタビューが始まった。
しかし、もう既にこのお店の方ということが解っているので
自然に、話はそこから始まった。
ボウズ頭の男性はこのお店のマスターで、
「畑さん」という。
畑さんは、黒目の大きな、あたたかな表情のひとだ。
「感じのいい人」という表現があるが
「感じがいい」って、こういうことだろうなと思った。
顔も、京都言葉の話し方も、そこにいる雰囲気も、
畑さんは「感じのいい」人なのだ。
愛想がいいとかそういうことではない。
自然な重みと軽みがある。
「我」があって、かつ、閉じていない。
そういえば、このお店もそんな感じがする。

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石井ゆかり(いしい・ゆかり)

ライター。星占いの記事やエッセイなどを執筆、独特の文体で老若男女を問わず人気を集める。著書に『12星座シリーズ』(WAVE出版)、『愛する人に』(幻冬舎)、『月のとびら』(阪急コミュニケーションズ)、『星の交差点』(イースト・プレス)など多数。

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