石井ゆかりの闇鍋インタビュー

第1回 畑さん・その2

2014.03.11更新

男が一人でいて、かっこいい場所。

エレファントファクトリーコーヒーを畑さんが起ち上げたのは
2007年の9月だった。
それまでは東京・自由が丘の雑貨屋さんで、7年ほど働いていた。

畑さんにはもともと「店をやりたい」という気持ちがあり、
最初に「いちばん新鮮だ」と思えたのが、雑貨屋だったので、
その道に進んだという。
「新鮮」という表現が、とても印象的だった。
「いちばん新鮮だと思えるほうにいく」
という選択を、
畑さんはごく当たり前のことのように語った。

しかし、そこで働いているうちに、
徐々に気持ちが変化していった。

「こういう時代だということもあると思うんですが、
自分自身、だんだん物欲もうすくなってくるのに、
それでも、お客さんにものを買ってもらおうとする仕事が
だんだん辛くなってきたんです」

そこで、
「物を販売する」こと以外で、自分がいちばん好きなことは何か?
と自問したとき、
コーヒーだ、と思い当たった。

「料理は難しいですし、いい加減なものは出したくないですしね、
その点、コーヒーなら、自分も好きで飲んでいるし、
いいものが出せると思いました」

しかし。
さらに、畑さんは考えた。

「おいしいだけでいいんかな?」

珈琲が美味しい店。
でも、それだけではない気がする。
畑さんは、自分が「コーヒーが好き」だという件について
いろいろ考えてみた。
すると、あることにいきついた。

「自分でコーヒーを飲みに行くときって、
コーヒー自体がおいしいというのもそうなんですけど、
コーヒーを飲んでいる、その景色全体が好きなんですね。
コーヒーを飲んでる『人』が好きなんです。
だいたい、男が一人で行ってかっこいいところって、
喫茶店くらいしかないでしょう。
バー、だと、あまりにかっこつけててカッコワルイというか。
喫茶店は、なんてことのないおじいちゃんが、
コーヒー飲みに来てるだけで、かっこいいんです。
男が一人で行ってかっこいい場所って、喫茶店だけなんですよ」

「かっこいい」か。
「かっこいい」とはなんだろう。
畑さんは続けた。

「雑貨屋にいるときは、ずーっと、
『かわいい』ものを扱っていたわけです。
女性が『かわいい!』と言うものが『いい』という、
そういう価値観の中にいて、仕事をしていたんです。
社会的にも、今は男性まで
『これかわいいなあ』と言うようになって、
それがどうにも、いややったんです」

たしかに、雑貨屋さんには「かわいいもの」がならんでいる。
「かわいい」は、ほめ言葉の代表選手だ。
しかし。
「かっこいい」と「かわいい」。
この2つはどう違うんだろう。
畑さんにその「違い」を聞くと、
うーん、と考えながら、畑さんはこう応えた。

「かっこいいというのは、
男性的というか、大人な感じですかね。
たとえば、店に、すごくおしゃれな服着た男の子がきても、
それにみとれる、ということはないですけど、
なんということもないおじいちゃんとかが来て、
こう、煙草吸ってる姿を見ると、かっこいいと思うんです、
そういう姿をみると、
店やっててよかったなと思うんです」

店に来たお客さんのかっこよさに見とれて、
それで、「店やっててよかったな」と思う。
この言葉に、私は驚きを感じた。
人にサービスを提供する仕事をする人は、
たいていは
「お客さんに喜んでいただけると、うれしい」
と感じるのではないだろうか。
しかし畑さんは、お客さんの「かっこよさに見とれる」という。
「かっこいい人をみつけることが、よろこび」であるという。
これは、どういうことなんだろう。

相手を喜ばせたい、というのは
相手の「中」にまで、入っていくことだ。
でも、相手の「かっこよさ」にみとれて、
それを喜びと感じる、ということは
相手に対して、まったくコミットしていない。
そこには、一切の依存関係がない。
お互いがべつべつでありながら、
しかし、あくまでそこに両者が出会わなければ
喜びも、何も生まれないのだ。

これはいったい、どういうことだろう?

「『かっこいい』の裏側には
『憧れ』があるんじゃないですかね。
『かわいい』には、『憧れ』はないでしょう?」

畑さんはそうも言った。
たしかに「かわいい」には、
遠いものを見上げるような「憧れ」は含まれていない感じがする。
「かわいい」よりも「かっこいい」のほうが、
遠くにある。
手を伸ばしてもとどきそうもないところに、それがある。
だから、あこがれる。かっこいいなと思う。
そこにもやはり、ふしぎな距離がある。
「かわいい」は、自分の手元にある。
「かっこいい」は、距離を置いた、少し先にある。
コミットできないのだ。

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石井ゆかり(いしい・ゆかり)

ライター。星占いの記事やエッセイなどを執筆、独特の文体で老若男女を問わず人気を集める。著書に『12星座シリーズ』(WAVE出版)、『愛する人に』(幻冬舎)、『月のとびら』(阪急コミュニケーションズ)、『星の交差点』(イースト・プレス)など多数。

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