石井ゆかりの闇鍋インタビュー

第1回 畑さん・その3

2014.03.12更新

路地の奥に誘いこむもの。

インタビューのあいだも、
お店にお客さんが途切れることはない。
ミシマ社の新居さんが一度、土曜日に来たときは
いっぱいでは入れなかったと言った。
エレファントファクトリーコーヒーは
ごく奥まった場所にある。
細い細い路地を、ある意味「思い切って」入ってこなければ
見つけることができない。
こんな場所に、どうやってこれだけたくさんのお客さんが
切れ目無くやってくるようになったのだろう。
なにか特別な宣伝でもしたのだろうか。
「お客さんは、地元の人が多いんですか?」
と聞くと、
「いやあ、わかりませんねえ......」
と返ってきた。
「たしかに、お客さんみんなと話すわけじゃないですもんね」
「でも、最初の頃はしゃべってましたね。
最初の3カ月は、本当にひどかったんです、
一日3人とか、いちばん最低の日はお客さん2人でした。
土日で、『今日はいっぱい来てくれてよかった!』みたいな日で
15人とかでしたからね。
こんなひっこんだところやし、
『なんでゼロにならないんだろう?』くらいのものやったですね。」
「店を始めるときは、雑誌の取材なんかはもう、
絶対受けんとこう、きてもことわろう、
そんなカッコワルイことしたらあかん、
とか思ってたんですけど、
3カ月くらいしたら、もうそんなかっこつけたらあかん、
取材したいって言ってくれはったらもう、
喜んで受けますよ! いう感じになりました(笑)
自分のブログで紹介してくれた、恩人みたいな方もいます、
何度も熱心に通ってくれはって、広めてくれた方がいたんです」

ファンができた、ということだ。
お店の魅力もさることながら、
畑さん自身の魅力に惹きつけられた部分も大きいのではないか。
「最初の頃は、畑さんからお客さんに、
積極的に話しかけるような感じだったんですか?」
「そう、はじめの3カ月は、
とにかく、ヒマすぎて、さみしいんです、
この奥まったところの2階で、1日ひとりでいると、
もうね、だんだん、おかしくなってくるんですよ(笑)。
だから人が来るとほんとうに嬉しくて、話してました。
最初の頃に2,3回来てくれた人は、
今でも顔見たらわかると思います。
それだけ、必死やったから」
「お客さんの顔を、じっと見てました?」
「めっちゃ見てましたね、もう、
仲良くなりたかったんです、そのくらいさびしかった(笑)」

「京都の名店」と呼ばれるほど有名なお店にも、
そういう時間があったということだ。
今では、東京・三軒茶屋に
姉妹店「ムーンファクトリーコーヒー」も展開している。
この、東京のお店のことについて
畑さんはこんなことを言った。
「元の仕事の後輩の女の子がいて、
その子は、人と接していると輝いている子なんです。
でも、そのとき、人と接しない仕事をしていたんですね。
それがすごくもったいないと思っていました。
そしたら、その仕事を辞めると言うんで、
じゃあ、店をやってもらおうということになりました」

「人と接していると、輝いている子」。
畑さんは、「人を見る」人なのだ。
どんなふうに人がかっこいいか、
どんなふうに人が輝いているか。
これは「見た目を見ている」というのとは、かけ離れている。
人の姿、人の輝き。
私はそんなふうに「人を見る」ことがあっただろうか、と思った。

畑さんが見ているのは、決して、
相対して向きあった「相手」ではない。
畑さんは外側から、そこにいる人を、
風景のように、絵画のように見ているのだろう。
でも、それは風景や絵のような「モノ」ではなく
明らかに、生きている人間だ。
畑さんはそれを捉えている。
モノとしてではなく、相対してでもなく、
「人」を見る。
そして、そのことに喜びを感じる。
そういう体験、そういう視野があるのか。
私は心から驚いた。

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石井ゆかり(いしい・ゆかり)

ライター。星占いの記事やエッセイなどを執筆、独特の文体で老若男女を問わず人気を集める。著書に『12星座シリーズ』(WAVE出版)、『愛する人に』(幻冬舎)、『月のとびら』(阪急コミュニケーションズ)、『星の交差点』(イースト・プレス)など多数。

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