石井ゆかりの闇鍋インタビュー

第2回 篠原さん・その4

2014.04.11更新

「客観」のまなざし。

私はこのインタビューのあいだ中、
ずっと、違和感を感じ続けていた。
なぜ自分が違和感を感じているのか、すぐに気がついた。
気がついて、自分を恥じた。

篠原さんはずっと、言わば、
「道の見つからない」状態にあったように思えた。
今のインタフェースからは想像もできないが、
不安定な青春時代を歩み、
妻子を抱えながら、仕事に意欲が湧かず、
精神的に調子を崩し、社会的な結果を出せずに来た。
ハタから見ていたら心配でたまらないだろうプロセスを聞いて、
私は、感情移入しようとした。
自分が篠原さんだったら、辛くて仕方が無いだろう。
自分が側で見ている奥さんだったら、
どんな気がしただろう。

しかし、
篠原さんは「逃げていた」という表現を2度ほど使ったものの、
ほとんど「イイ」とも「悪い」とも、
「評価」を下さなかったのだ。
罪悪感も表現されなかったし、
「それも必要な道だった」というような納得もなかった。
「辛かった」という感情表現もさほど出てこなかった。
「落ちていた」「元気がなかった」「やる気が起きなかった」などは、
客観的に「そうだった」ということで、
「それを自分でどう評価しているか」ということではない。

篠原さんは「起こった出来事」については語ったけれども
「それがどういう意味を持っていたのか」
「それはどう評価されるべきなのか」
という点について、
一切、語らなかったのだ。

私は「なにかあるはずだ」と思っていた。
自分を責めてしまったとか、
焦りと不安で胸がつぶれそうだったとか、
なにかそういった、色味のある心情がそこにあるはずだ、
と考えた。
そういう、善悪や「望ましい・望ましくない」など、
自分で自分をジャッジするような「なにか」を
私は聞き出せずにいるのだと思っていた。

でも、そもそもなぜそういう、
「意味づけや評価があるはずだ」
と私は思っているのだろう?

それに気がついて、私は心が冷たくなるような気がした。

罪悪感や自己否定、辿ってきた道の正当化などは
私の心の中にだけ、あったのだ。
それは、私が作った幻影だ。
篠原さんの言葉の中には
イイとか悪いとか、誰かのせいにするとか、
そういった「意味づけ」が、一切出てこなかった。
そこには、透明な客観だけがあった。
篠原さんの物語の中では、
誰も、何も、責められていなかった。
ただ、悪戯をみつかった子どものように
篠原さんはにやっと笑ったりするだけだった。

それに気がついて、
私は、自分自身を、とても薄汚い人間のように感じた。

裁いたり罰したり、ということを
私たちは自分に対しても、他人に対しても、
ごく簡単にやってしまう。
自分を裁く人ほど、他人を裁く、ということもあるように思う。
それは、自分で自分を受け入れることが難しいからだ。
正しい人間や他人に対して役に立つ人間、
社会的に力を持つ人間だけが受け入れられる。
そうでなければ、受け入れられない。
そんな目に見えない枠組みの中で生きている人は
自他を簡単に裁いたり罰したりする。

篠原さんは、話の中で
自分も他人も、裁いたり罰したりすることを
一切、しなかった。
それは、思えば、ものすごく難しいことではなかろうか。
たとえ、心の中にはそれが渦巻いていて
単に、それを言葉にしなかっただけ、だったとしても
果たして、これほど苦悩に満ちた道のりに対して
言葉だけでもそのようにすることができるだろうか。

なぜ篠原さんがそれをせずにいられるのか、
私には解らない。
でも、篠原さんがそうしないことで
私は篠原さんがたどってきた、
暗い曇り空のような、深い山道のような道行きを
ほとんど、遠慮することなく聞くことができた。

私はかつて「禅語」「親鸞」という、
2冊の、仏教に関係する本を書いたことがある。
そのとき、
人間がどんなにものごとを「裁く」ものか、
そして、そんな根拠がどんなにどこにもないか、
そのことを考えた。
それでも、私の中にも
自他を裁くことが当然だ
という前提がある、ということを発見し、
自分を恥じる気持ちがした。

合気道は禅に通じるところがあるという。
篠原さんの透明な「客観」が、
そこからきているのか、
それとも、元々彼が持っているものなのか、
それはわからないけれど、
その澄明がとても、まぶしく思われたのだった。

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

石井ゆかり(いしい・ゆかり)

ライター。星占いの記事やエッセイなどを執筆、独特の文体で老若男女を問わず人気を集める。著書に『12星座シリーズ』(WAVE出版)、『愛する人に』(幻冬舎)、『月のとびら』(阪急コミュニケーションズ)、『星の交差点』(イースト・プレス)など多数。

バックナンバー