石井ゆかりの闇鍋インタビュー

第4回 雨宮さん・その1

2014.06.09更新

誰に話を聞くのか現地に着くまで解らない
戦慄のインタビュー企画、第4回目は
五月某日、京都三条のカフェジンタで行われた。
このカフェでお話を聞くのも、
最初の打合せから早3回目である。
3度も通うと何となく、慣れた感じが出てくる(気がする)。
人は「慣れ親しむと好意が強くなっていく」生き物だそうだが
私もだんだんこのお店が好きになってきた。

お店に着くと、ミシマ社の新居女史が先に来ていた。
髪型が変わったかも......
と思ったが、なんとなく言いそびれた。
なぜなら
私自身も、髪型が変わっていたからである。
お互いに「変わりましたね−」と言い合うのもアレだし
気づかれなければそれはそれでアレだし
というわけで
沈黙は金
ということにした。

コーヒーを頼んで雑談していると
新居女子の水色のガラケーが鳴った。
見れば、ミシマ社のステッカーが貼ってある。
愛社精神がにじみ出ている。
本日のインタビュイーが近くまで来たらしく、
彼女は出迎えに店を出ていった。
私の座っている席からは、降りていく階段と通りが見える。
つまり、彼女が出て行ってどちらに行ったのか見えていたわけだ。
彼女は今回のインタビュイーを連れて、
やがて上がってくることになる。
私は窓越しに、ドキドキして待った。
待った。
待った。
......??
近くまで迎えにいったにしては
なんか、おそくないか......
車で来てて、駐車場でも案内してるのかな......
そんな想像を巡らしていたところ
相当しばらくして、新居さんともう1人、
美人な女性が階段を上がってくるのが見えた。

こうしてあらわれた今回のインタビュイーは、
ライター、雨宮まみさんである。
彼女は東京在住だが、
取材のついでに、たまたま来られることになった、
とのことだった。
名刺を頂いたとき、その名前に既視感があって
「あれ? まえに、なんかありませんでしたっけ...」
と私は呟いた。
すると、
「ずっと以前に、アップリンクで鈴木祥子さんのイベントの時に
ご挨拶だけ、したことがあります」
「そうでしたか! うーん......なにかもっとありませんでしたっけ?」
「あ、今度平凡社から出る新刊のオビを
先日、お願いしていたかもしれません」
「あ、あれは、すみませんでした(←お受けできなかった)。
でももうちょっとなんか......cocoloniで何かありませんでしたっけ」
「あ、cocoloniの企画で、占って頂きました、メールで」
ずっとニアミス(?)し続けていたような感じである。
これはこれで
別の意味で「闇鍋」感があって
面白いかもしれない
と思った。
名刺を見つめながら、さらに、
「こじらせ女子」という言葉を作った人ではなかったか...
なにかセキララな感じのコラムを読んだことがある気がする...等、
漠然としたイメージが
ぼんやりと記憶の底からたちのぼった。

彼女の第一印象は、そういうものとはかけ離れている。
いわば「きれいなお姉さん」である。
きちんとした清楚な美人、センスの良い、知的な女性。
そういう雰囲気をまとっている。
少し話しているうち、さらに
いい意味で「優等生」というイメージが浮かんだ。
優等生というのは、相対する先生に対して
非常に積極的で、親和的である。
「はいっ!」と、行儀のよい、いい返事が出る。
そしてその向こう側に、
きよらかなあどけなさを隠している。
そのあどけなさは、たぶん、「素直さ」にも重なる。
ただ、彼女の場合は、そのあどけなさが、
鋳物のような、丈夫で重たい器に入っている感じがする。

しかし、参ったなあ...
と私は思った。
雨宮さんは、その名刺にもあるとおり、
ライターさんである。
人にインタビューしたり、取材したりして記事を書くことの、プロである。
そのプロに対して、ほぼシロウトの私が
まさに「インタビュー」するのだから、
いかにも気が引ける。
どうしよう(滝汗)
と思ったが
無論、どうしようもない。
今いきなりインタビューがうまくなれるウラワザなどはない。
恥ずかしいけれども、やるしかない。


○○を○○でかためたもの。

「実は今朝、新幹線に乗り遅れたんです、
知ってますか石井さん、
新幹線の指定席で、乗り遅れると、どうなるか!」
「え? 席がチャラになるんじゃ...」
「その日一日、自由席ならどれでも乗れるんですよ!」
「知ってます」(新居・石井斉唱)

彼女によれば、いつもはしっかりしているタイプで、
遅刻とか忘れ物とかはほぼ、しない方なのだが
今日に限って、発車時刻を完全に勘違いしていて
乗り遅れたのだという。
また、福岡出身なので、飛行機はよく乗るが、
新幹線はあまり乗らないので不案内なのだった。

しかし
けっこう天然なのかも...

ちょっと思った。

宝塚の取材がてらに、京都観光をしてきた、
という雨宮さんは、
「京都の戦利品をお見せしましょうか」
といって、手にしていた紙袋を開いた。
中から、四角い透明な物体が2つ、出てきた。

「『ウサギノネドコ』っていうお店ご存じですか?
アクリルで、花とかタンポポの綿毛とかを固めて、
それを売ってるんです。
すごくいっぱいあって、なかなか選べないんですよね」

手のひらにのるほどのアクリルキューブの中に、
なるほど、乾燥したアザミのような花が入っている。
これはいったい、何に使うのだろう。
ペーパーウェイトだろうか。
「どんなガジェットでもペーパーウェイトにはなる」と
誰かが言っていた。

これは、このお店のことを知っていて行かれたんですか?
と聞いてみた。

「虫が好きな友達がいて、私は虫は嫌いなんですけど、
マレに接点があるんですね。
私が蛍を見にいったとか、貝殻を見にいったとか、そういう話で。
彼女はもっとガチな、
バケツ持って『採集!』みたいな感じなので、
かなり違うんですけど、その彼女に
『今度京都に行くんです』
と言ったら、メールが来て
『雨宮さんは漂着物に興味を持たれていたようですが、
京都ならここがお勧めです』
と紹介されたんです」

漂着物......。
新居さんと私はその言葉をオウム返しに噛みしめた。

雨宮さんは、この2つのキューブを選ぶのに、
とても迷ったという。
私自身は、物を選ぶとき、あまり迷わない。
ぱっと見て、ぱっと決めて、ぱっと買ってしまう。
あれこれ検討するのが苦痛なのだ。

「雨宮さんは、物を選ぶとき、迷いますか。
たとえばこう、棚があったとき、
並んでるものを全部見ますか」

「そうですね......一応、全部見ますね、
はしから、ざーっと見ていって、
けっこうすぐ『これだ!』となるんですけど、
多分もうそこで決まってるんですけど、
でも、あとで悔いがないように、
全部見て、迷います」

あとで、悔いがないように。

帰ったあとで「もっといいのがあったかも」とか
「他のあれにしておけばよかった」とか
そういう思いをするということなのだろう。
確かに、そういうことはあるかもしれない。
彼女がそう言ったのは、べつに妙ではない。
でも、私は何でそう思わないのだろう、と思ったら
彼女はどうしてそう思えるのだろう、とも思えた。
なぜ、迷わないのか。
なぜ、迷うのか。

彼女の、もう一つの「京都の戦利品」は
「レースを固めて作った指輪」だった。
何かを何かで固めたものを買いに来たみたいですね
と彼女は言った。
たしかに。
京都に住んでいるが、そんなものが売られているとは
知らなかった。
脆くてふわふわしたものを、
しっかり固めてしまいたい。
それってどういう心情なのだろう。
ふうっと吹き飛ばすようにできている、
もろくほぐれるタンポポのわたげを
なんで、固いアクリルの中に、永遠に閉じ込めたいんだろう。
柔らかな布のレースを、どうして、
かちかちに固めたいと思ったのだろう。
どうしてそんなことを思いついたのだろう。
風の吹かない世界に。

否、もしかすると
物を固めたのではなく、
風の吹く世界では失われてしまうから、
風のほうを、「固めて」しまったんだろうか。


*全4回掲載、続きの「その2」はこちらからどうぞ

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石井ゆかり(いしい・ゆかり)

ライター。星占いの記事やエッセイなどを執筆、独特の文体で老若男女を問わず人気を集める。著書に『12星座シリーズ』(WAVE出版)、『愛する人に』(幻冬舎)、『月のとびら』(阪急コミュニケーションズ)、『星の交差点』(イースト・プレス)など多数。

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