石井ゆかりの闇鍋インタビュー

第4回 雨宮さん・その2

2014.06.10更新

*その1はこちらから


思い切ったことをすれば、なにかが変わるんじゃないか、という仮説。

「一昨日、髪の毛をツーブロックにしたんです」

一見、普通のボブスタイルにしか見えないのだが
彼女が耳元の髪をかきあげると、
衝撃的な刈り上げが姿を現した。
私は思わず「わーーーー」と声を上げた。

「モテたくてずっと伸ばしてたんですけど
髪の毛伸ばしてもモテないので、
どうせモテないなら、刈り上げてしまえ、と思って...
明け方あれこれ考えていたらもう、いっそボウズにしてしまおうかと思って
友達にそうメールしたら
『大丈夫? しっかりして!』
と返信があり、夜が明けてからボウズは思いとどまりました」

「昔、ボウズにしてたことがあったんです。
21歳くらいのとき、ネパールにいて、
そのときも長くしていたんですが、
こんなに暑いのに髪伸ばしてても
全然モテないじゃん! とふと、思って、
頭を丸めてみたんです。
でも、向こうの人ってあまり気にしないんです、
子どもに『ブッダに似てる!』とか言われて喜ばれたくらいで(笑)。
でも、日本に帰ったら、祖父が危篤になっていたんですが、
坊主頭を見た親に激怒されて、そんな頭じゃお見舞いに行けない!って。
祖母がカツラを買ってきてくれて、それでお見舞いに行きました。
そのあと、お葬式になったんですが、
まだ小さかった従姉妹がこっそり聞いてくるんです、『みせて!』って。
で、ちょっとおいで、ってトイレに一緒にいって
『ほら!』ってカツラを外して見せたら、
『うわあ!!』ってウケました(笑)。
その従姉妹ももう成人したんですが、このあいだ会ったとき
『そのことだけは鮮明に覚えてる』って言われました。
石井さんがさっき『わー!!』って言ったの見て
それを思い出しました(笑)」

しかし、なんでそんなことをしたのだろう。

「こう、思いきったことをしたら、
なにかが変わるんじゃないか、みたいなのがあるんですね、
違う場所に行けば、とか」

「ああ、ネパールも」

「そうですね。
今は...ヌーディストビーチに行ってみたいです、
ぱーっと脱いで、堂々としてたら、変わりそうじゃないですか、
なんか、初対面から下の名前で相手を呼べる! みたいな、
そういう人になれそうで」

ヌーディストビーチ。
坊主頭にするのも、「かぶせてあるものをはぎ取る」みたいなことだ。
なにかはぎとって、むきだしにする、ということと
「変わる」ということが、彼女の中で結びついているらしい。

「むきだしにしたいんですかね」

「むきだしにしたいんですね。
私は、警戒心とか、周りに対して『こう見られたい』とか
そういうことをすごく意識するんです。
友達が2人いて、
そのうちの1人は、そういうこと何も気にしない人で、
もう1人は、気にするけど、飲めば忘れる、みたいな人で、
私は、飲んでもなかなか忘れられないんです。
この3人で、赤羽で飲んだときに、
『赤羽はイイ街だよ!駅前で転がってても、
誰も何も言わないよ!』
って、1人目がごろごろ、駅前で転がり出したんです(笑)
それを見て、もう1人も転がり出して、
2人でごろごろ、転がってるんですが
私は、1人で鞄持って立って見てるんです。
で、家に帰ったあとで
『あの時ころがっておけばよかった!』とか思ってる(笑)」

酔っ払ってゴロゴロ転がることはできないけど、
ボウズ頭にすることはできるのか......。
ボウズでなくとも、この刈り上げはけっこう、破壊力があった。
いや、大変美人なスタイルで、よく似合っているのだが、
彼女の今の「キレイめOLさん」的な雰囲気とは、ギャップがあった。

「休みの日に、北欧のミステリーをよく読むんですけど、
さすが北欧! っていうことがよくあるんです。
主人公の刑事に若い奥さんがいて、
家に帰ると、奥さんが男物のシャツを着て、
壁にペンキを塗ってるんです。
それを見て、刑事は奥さんに、服を脱げ、って言うと、
奥さんもふつうに服を脱いで、
『お風呂でする? 床でする? ベッドでする?』
みたいに言うんです(笑)。
『お風呂にする? それとも、御飯にする?』みたいな
甘ったるいもんじゃないんです(笑)。
事件のキキコミに言った先で出てきた女が、刑事に向かって
『私としたい? したほうがリラックスできて、
話しやすいんだけど』
みたいな、そんなノリなんです。
北欧っていったい......って思いますよね、
北欧に行ったら、何か変わるんじゃないかな......
って、また言ってますね(笑)」

彼女の言う「なにかが変わる気がする」「自分を変えたい」とは
どういうイメージなんだろう。
今自分が不必要にゴテゴテ着せられてしまっているものがあって
それを何とかして脱ぎ去って、本来の自分になりたい、
ということなのだろうか。
それとも。

今回彼女が思い切った髪型にしたのは、
新刊『女の子よ銃を取れ』(平凡社)にまつわるイベントのためだった。
『女の子よ銃を取れ』のテーマは、女の子と見た目の関係にある。

「見た目に関する本なので、
見る人が納得するような服を着たほうがいいな、と思って、
友達の友達のデザイナーさんの服で、
ちょっといつもは気ないような、
ヨウジヤマモトみたいな、すとんとした服を調達したんです。
いつもは靴も、ヒールを履いてるけど、
そうじゃない靴を履いて、アバンギャルドな感じにしようと思って。
なら、髪型もそういうふうにしよう、ということで、
こうしてみたんです。
でも、よく考えると、いつもの自分の着てる感じとは違ってて
なんか『自分がある人』っぽいコスプレ、みたいになったような...(笑)
いや、べつに、どれも『自分』でいいんですけどね」

「キレイになりたい、と思うことは、
女なら当たり前、っていうことになっていますよね、
女性誌とかでは、当然、そうもっていきます。
でも、本当にそうなのか? と思うんですね、
私はその圧力が、苦しかったんです。
キレイなひとのほうが偉いし、
本当は魅力って1種類じゃないはずなのに、
若く、細く! っていうのは、どうしても差がつきます。
それが、みんな息苦しいんじゃないかと思ったんです。
オビのコピーは『きれいになりたいと言えないあなたへ』っていうんです」

「私の別の連載を担当してくれている編集者さんもそうなんですけど、
普段、すごくスッキリしたスーツを着ていて、
アクセサリーを全然つけないんです。
それで、『金属アレルギーなんですか?』って聞いてみたら、
『私がアクセサリーなんかをつけたら、
アイツがアクセサリーなんかつけてるよ! って、
笑われるんじゃないかと思う』って言うんです。
そういうふうに、
『私はこれはやってはいけない』
と思ってることって、多いと思うんです。
『私なんかがみじかいスカートはいちゃいけない』とか
『私なんかが奢ってもらっちゃいけない』とか。
自分もすごくそういうのがあって、
私はそれを、登山のように、
一つずつ乗り越えてきたようなところがあります」

登山のように一つずつ、乗り越えてきた。
それは、「こんなこと、いけない」という「いけない」のハードルを
敢えてまるっとやってみることで、超えてきた、
ということなのだろう。
「奢ってもらっちゃいけない」と思っているなら、
あえて奢ってもらってみる。
「女っぽくしてはいけない」と思っているなら、
あえてムリヤリ、女っぽくしてみる。
ほとんどそれがコスプレみたいなノリであっても。

私は、どうだっただろう。
私も、「やっちゃいけない」は夥しくあった。
それはどこから来る心情なんだろう。
たとえば。
私は自分を女らしい女だなどと思ってはいません、
身の程はちゃんとわきまえています、
男性がたはそこにいる、
たくさんのキレイな可愛らしい女の子たちの方をお向きください、
こっちにはなにもありませんので見なくてよろしい、
あなた方の欲しいようなものは、こっちにはひとつもありません。
あなた方に対して何も期待していないし、要求もしません。
「やっちゃいけない」とは、つまり
そういうことなんだろうか。

世に、美容整形を非難する人がたくさんいる。
整形は作為であり、偽りであり、悪であると言う。
「自然のまま」が正義で、善だと言う。
美しい人たちは美容のコツを聞かれて、
「何も特別なことはしていません」と答えると、尊敬される。
「高価な化粧品や道具をおしみなく使い、エステに通い、
とても苦労してこの姿を保っています」というのは、
アピールにはならないだろう。
「作られた美しさ」は「ウソ」であり、「悪」なのだ。
「真の、善良な美しさ」は、
自己の美に無頓着であらねばならないことになっている。
イノセンスと「本物の美」は、
「美」を期待する人々の中で、セットなのだ。

「愛されたい」という欲望と、
化粧や整形のような、欲望を満たすための合目的的な行動は、
おそらく「悪」の一つとされている。
「悪」は、無残に否定される。
花は美しいが、花の美には何の作為もない。
愛する人に愛を告白するのに、造花の花束を用いないのは
そういう直観もあるのかもしれない。

「やっちゃいけない」というルールは
「作為しない」という結果に繋がる。
欲望や、渇望や、「このように見られたい」ということから
自分は自由である、ということだ。
しかし、ルールというのは、意識であり、
厳然たる一つの作為だ。
「やっちゃいけない」という臆病な、消極的作為は
本当に私たちを守っているだろうか。

*続きは明日、更新します

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石井ゆかり(いしい・ゆかり)

ライター。星占いの記事やエッセイなどを執筆、独特の文体で老若男女を問わず人気を集める。著書に『12星座シリーズ』(WAVE出版)、『愛する人に』(幻冬舎)、『月のとびら』(阪急コミュニケーションズ)、『星の交差点』(イースト・プレス)など多数。

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