石井ゆかりの闇鍋インタビュー

第4回 雨宮さん・その3

2014.06.11更新

その1その2もどうぞ

「戦い抜く」こと。

「今、神社やお寺をお参りするときには、
こう、手を合わせて、
ふわふわ浮かぶ小さな願望が、ふっ、ふっ、と消えて、
頭の中が静かになるのを待つような感じがあります。
でも、20代のときはそうではなくて、とにかく
『最後まで戦い抜けますように!』
と祈ってました。
なんだか、すごく戦ってたんですね」

「勝てますように、ではなく、
戦い抜けますように、ですか」

「闘い続けられますように、ですね」

「それは、何と戦ってたんでしょうか」

「多分、私の中に2重の圧があったんです、
自分の思う『女らしさ』の理想みたいなものが、
自分には実現できない、ということです。
AV(アダルトビデオ)ライターの仕事をしていたわけですが、
AVの記事の仕事をしていると、
『女AVライター』というだけで、
おっさん向けの雑誌とかで『女扱いされる』んですね。
たとえば、実体験を語るように求められたり。
1人の人間、1人のライターとしてではなく、
色物というか、すごく『女』として扱われてしまう。
1人の人間として扱って欲しい、
というのと、
女らしさの理想のようなものがあって、
さらにそれは、自分にはできない、
という思いがあって、
ときどき、過剰に背中がガッと開いた服を着て
女っぽく見せようとしたりしてました(笑)」

「AVライターになったことも、
まさに、自分を変えたかったからでした。
女性らしさ、っていうものの究極にあるものに思えたんです。
芸能人でもモデルさんでもなく、
男の人にそんなにも求められる女性、というのが、
嫉妬で泣くくらい、うらやましいと思いました。
もともとそういうことに興味があったというわけではなく、
『女性』というものに目を向けたとき、それがあったんです。
裸になってみせることができる、それでお金をもらえる、
というのは、人間としての資質が決定的に違うんじゃないか、とか。」

この「人間としての資質」とは、文脈上あきらかに、
望ましい、貴い、善いものとして語られている。
彼女は、赤羽の駅前で転がれなかったけれど、
転がれなかったことを悔いた。
頭をボウズにした。
ヌーディストビーチに行きたいと考えている。
それはたぶん、空想かもしれないが、
そのように「脱ぎ去る」ことが、
彼女にとっては大問題なのだ。
実際「脱ぎ去っている」人は、存在する。
彼女はそれに羨望か、あるいは疑問を感じたのかもしれない。
彼女は何を「脱ぎ去りたい」のだろう。
それは、ほんとうは、髪や服ではないのではないか。
それは、象徴に過ぎないのではないか。
その象徴のなかに「何かが変わる」予兆が感じられるというのだろうか。

「自分の中にも、確実にそういう、欲望はあるわけです。
そういうものを見ないで生きていくこともできましたが、
そこにフタをすると、自分の人生が大きくゆがむ気がしたんです。
自分の欲望がそこにあって、
それが叶わなくても、なかったことにしたくない、
逃げてはいけない、という気持ちでした」

そういう欲望、とは、
男性から望まれ、欲情され、求められたい、
ということだろう。
しかし
「自分の人生が大きくゆがむ」
とは、どんなイメージなんだろうか。
ゆがめたくない、まっすぐでありたい。
「直したいところがあって......」
とも、彼女は言った。
その「直したいところ」を直すために
AVライターになったのだ、と彼女は言った。
なにがゆがむのだろう。
なにが、まっすぐなのだろう。

「AVライターになって最初のうちは、
すごく緊張していました。
見下してると思われたらどうしよう、とか、
尊敬している、とわざわざ言うのも、何か違うし、
なかなか、フランクに対等に話す、というのはしにくかったです。
なんとなく、過度に持ち上げるみたいになってしまったり。
勿論興味を持って会うんですけど、
嫉妬や、うらやましい、という気持ちを
相手に見抜かれたらどうしよう、という思いがあって、
自分でも、それを隠している感じがするから、
緊張しますし、辛かったですね」

嫉妬、うらやましさ、というのは、
非常に苦しい感情だ。
自分をうらやましがらせるようなものには
できれば、会いたくない。
目に触れるところにそれがあるのは、耐え難い。
嫉妬を感じないでいられるような場所で暮らしていくことも
たぶん、彼女の場合は、できたはずだ。
でも、彼女はその苦しみから目をそらしたら
「人生がゆがんでしまう気がした」と言った。
嫉妬の苦しさより、
人生がゆがむことのほうが苦しかった、
ということなのだろうか。
人生がゆがむ、とは、
いったい、どんなイメージなのだろう。


*つづきの「その4」はこちらから

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石井ゆかり(いしい・ゆかり)

ライター。星占いの記事やエッセイなどを執筆、独特の文体で老若男女を問わず人気を集める。著書に『12星座シリーズ』(WAVE出版)、『愛する人に』(幻冬舎)、『月のとびら』(阪急コミュニケーションズ)、『星の交差点』(イースト・プレス)など多数。

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