石井ゆかりの闇鍋インタビュー

第4回 雨宮さん・その4

2014.06.12更新

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彼女は非常にきれいな姿をしていた。
ファッション誌から抜けだしてきたようだと思った。
といってもそれは全然不自然ではなく、
あくまでしなやかになじみ、こなれていた。
私はその世界から全力で遠ざかって、今に至る。
彼女は目の前にいて、こうして話しているけれど、
お互いのすむ世界は、限りなく遠く隔たっている。

彼女は、ファッション誌の言う「キレイ」の価値観に対し
圧力を感じ、疑問を抱き、
同じようにそれに押しつぶされそうになっている「女の子」たちに
「立ち上がって戦え」と言うために
『女の子よ銃を取れ』を書いたのだろうか。
でも、彼女は、とてもきれいな姿をしている。
どんな男性でも、彼女を見て、美人だと言うだろう。

私は、ファッション誌の「キレイ」の世界から自分を切り離した。
自分を「キレイ」にしようとはしなかった。
彼女は、あの世界に反感を感じていながら、敢えて
あの世界そのものの中に飛び込んで、そこで
戦いを挑んだのだろうか。
「できないからやらないんじゃない、
このとおり、ちゃんとできるけれども、でも、おかしい」
と主張したいのだろうか。
私には、わからなかった。

でも、彼女にとっては、
ファッション誌のようではない格好をすることより、
ファッション誌の中にあるような格好をすることのほうが
リアルな戦いだったのだ。
たしかに、切り離して逃げてしまうよりも
その「中」に、反感を持ったまま飛び込むほうが、ずっと苦しい。
私のように「外」に出ることが逃げなら、
彼女のように「中」にとびこんでこそ、「戦い」だろう。

私は、戦わなかった。
彼女はどうして戦ったのだろう。
私はどうして、戦わなかったのだろう。
私が戦わなかったのは、
持って生まれた容姿のスペックに寄るところが大きい気がするが、
それでも、肥っていても、目鼻立ちが整わなくとも、
美しいファッションや化粧品を好む人はいる。
「好き嫌いや、性格のせいでしょ」
と言ってしまえばそれまでだ。
でも、彼女の抱える「戦い」というテーマは
ごく身近にあるもののようにも思われる。
もしかしたら私たちのすべてが、人生のどこかで、
戦うか、戦わないか、
その中に入るか、入らないかを
意識するとしないにかかわらず
選択しているのかもしれない。
あるいは、出たり入ったりするとか、
戦って諦めたり、
ずっと眠ったままだったのにある時突然戦い始めたり、
そういうことも、あるのかもしれない。

愛され、欲情され、求められたい、というギラギラした欲望は、
「理想の女性」の清らかでイノセントなイメージとはかけ離れていて
一般には「醜い、悪いもの」とされている。
しかしそれは、果たしてそんなにも「悪」なのか。
本当は、悪でもなく、醜くもないのではないか。
純粋で力強く、いっそ美しいと言えるほどのものではないのか。
なのに、不当におとしめられ、傷つけられているのではないか。
もしかすると、彼女はその欲望の限りない純粋さを
あかあかと主張したいのかもしれない、と私は想像した。
彼女の「戦い」とは、ひょっとして、
そういうことなのではなかろうか。

あくまで大人の美しい女性である彼女が感じさせる、
妙にあどけない、無邪気な印象は、
どんなにキワドイ話をしても、
ちっともスレたり汚れたりすることがないように見えた。
それがひょっとすると、私などには見抜けない
ごく高度な演技なのかもしれないが、
私には少なくとも、そうは見えなかった。
彼女がなにか特別な力に守られているから清らかでいられる、
というよりは、
そもそも、私たちの誰もが隠し持っている無尽蔵なほどの欲望が、
本来、とてもきよらかなものだから、そう見えるのかもしれない。
もちろん、これは私の勝手な想像で、
全然、的外れなのかもしれない。

「答え」の所在。


今までインタビューをしてきて、
私は毎回のように、
何かしら引っかかる言葉に出会って、
たいていは、その場でその言葉について
「それは、どんなイメージなんでしょうか」と
もう一度尋ねることができた。

でも、今回はちょっと違っていた。
インタビューが終わってしまってから
私は、あれもこれも聞くのを忘れた、と思った。
「何かを変えたい」ことや
「人生がゆがむ」ことや
「戦う」こと。
引っかかっていたはずなのに、するっと通り抜けて
うまく聞けずに終わってしまった。

書きながら、
「これもわからない、これもよくわからない。
もう一回会って、このことを聞きたいなあ」
と思った。
でも、同時に、
彼女に再度聞いても、
やっぱり、私に解るような答えは
返っては来ないかもしれない、とも思った。
なぜそう思えるのかは、わからない。
彼女はなんでも、ごく明るく積極的に答えてくれた。
答えるのを拒否するとか、そういうことは、
いっさいなかった。
しかしそれでも、どうも、
「答え」が得られる気がしなかった。

その理由がなんなのかはわからないが
彼女の著作や、仕事の中に
その「答え」はもうめいっぱいに込められていて
彼女はこれからも、戦いをつづけ、
それを書きつづけていくのだろう、と思った。

彼女が、戦いを書いているのだとすれば
私はいったい、何を書いているんだろう?

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石井ゆかり(いしい・ゆかり)

ライター。星占いの記事やエッセイなどを執筆、独特の文体で老若男女を問わず人気を集める。著書に『12星座シリーズ』(WAVE出版)、『愛する人に』(幻冬舎)、『月のとびら』(阪急コミュニケーションズ)、『星の交差点』(イースト・プレス)など多数。

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