石井ゆかりの闇鍋インタビュー

第5回 平村さん・その3

2014.07.17更新

その1その2もあわせてどうぞ


好きになることと、いつかは離れてしまうこと。 

「お互いに、相手を全部知ることはできないですよね、
でも、昔、言われてとても嬉しかった一言があるんです。
それは、友達が
『やばい、こんなこと話すつもりなかったんだけど、
相手があなただからつい、話しちゃった!』
と言ったんです。
しゃべっても大丈夫そう、と思われているんだなと思って
とても嬉しかったんです」

秘密を守ってくれるとか、理解力があるとか、
そういうこともあるだろう。
でも、人に「話をさせる」力を持っている人というのは、いる。
こうしてインタビューなどをしていると、
そんな力が、切実に、欲しい。
たとえば、私は普段黒っぽい服を着ることが多いが、
インタビューの時はできるだけ、白っぽい、
明るい色のものを着るようにしている。
モノの本に
「黒い服は相手を警戒させ、白い服は相手の警戒を解く傾向がある」
と読んだからだ。
このとき、平村さんは白いシャツを着ていた。
彼女は白いシャツが大好きだという。

「白いシャツが本当に好きで、
基本、ずっとこれを着ていたいくらいです。
道を歩いていても、白いシャツをさりげなく着こなしている人を見ると
いいな!! って思います。
気に入ったシャツがあると、同じものを10枚くらい欲しくなります。
シャツに限らず、スニーカーとかも、
はきつぶしてもまた同じのを買って、ずっとそれを履くんです」

私もそういうところはあるので、
解るような気がした。
でも、私の場合は、どこかでそのブームのようなものは、終わる。
たぶん、それが「飽きる」ということなのだろうと思う。
彼女の場合は、突然飽きたりしないのだろうか。

「飽きないですね。
ずっと同じものを持ち続けたいんですね、
馴染んでいく感じが、すごく好きなんですね。
化粧品とかも、学生時代からずっと同じのを使っています」

それは、新しいものに手を出すのが怖い、ということなのだろうか。

「こわい、とかではないですね。
一回安心感とか信頼感とかを感じると、
ひたすらそこにどっぷりつかっている、
みたいな感じです」

だが、スニーカーや化粧品は、
おなじタイプのものが手に入らなくなることもある。
廃盤になってしまった場合、
新しいものに行くしかない。
やっぱりそういう場合は、ダメージが大きいのだろうか。

「それが、そうでもないですね。
多少は、ガッカリしますけど、
ああ、そうか、じゃあ、新しいの探そう、
みたいな感じで、わりとすうっと受け入れます」

彼女はここで、少し考えた。

「仕事柄、人とお会いすることが多いわけですが、
一期一会、というのか、
人と会うのは、タイミングにものすごく左右されますよね。
どんな人とも、いつかは別れていくわけです。
私は最初から、そのことをいつも思っているところがあります。
お互い、どんなに理解し合いたいと思っても、
完全にはわからないし、わかってもらうこともできないし、
いつかは離れていくんだろうな、
っていうのが、いつもあるんです。
勿論、別れはすごくさみしいですし、
若いときに失恋したりしたときは、目茶苦茶悲しくて、
もう死んでもいいかも、くらいに落ち込むんですけど、
どこかで、人は別れていくんだ、
そういうものか、と、すんなり受け入れられるところがあります。
別離は色々、経験してきましたし、
友達と死別したりしたこともありますけど、
どこか、別れはあるんだ、というふうに受け入れてしまいます」

「執着は悪だと思っているんです。
『好き』を突き詰めるとか、研究に没頭する人とかは、
いいな、応援したいな、と思うんですが、
誰かと絶対離れたくない、みたいなしがみつく感じは
イヤだと思ってます。
『好き』と『執着』は紙一重のところがあるような」

ずっと同じものを使い続け、愛し続けること。
「いつか別れはある」と常に思いながら
人やものに接していること。
この2つのことは、一見、矛盾しているようにも思える。
でも、よく考えると、そうでもないような気もしてくる。
いつかは別れる、ということが受け入れられなければ
何かをそんなに好きになることが、そもそも、怖いだろう。
たとえば、恋人を次々に変えていくドン・ファンのような人は
あれは、真剣な恋をして傷つくことを、心底恐れているのだ。
好きになればなるほど、別れは辛い。受け入れがたい。
でも、もし、別れを受け入れられるだろう、という自信があれば
誰かを、何かを好きになることは、
そんなに、怖くないかもしれない。
もちろん、彼女の言うように、
辛さや悲しさは厳然とある。
でも、しがみついてしまうことの苦しみからは、
自由でいられる。

彼女は「ヤドカリみたいですね」と笑った。


どこにでも行けるようにしておく。

自分が「いつかは別れていく」ということを受け入れられるのは
親の育て方のためかもしれない、と平村さんは言った。

ご両親は関西の方だが、お仕事の関係で
中学までは東京で暮らし、その後の「青春時代」は関西で暮らした。
ティーンエイジの頃は親御さんの影響もあって洋楽にのめり込み、
最初はビートルズやシカゴなどを聴いていたが、
次第にデスメタルなどハードな方面にも向かうようになった。

「曲を聴いていて、これは何が言いたいんだろう?と思って、
歌詞が気になるわけです。
歌詞カードを手に入れて、辞書を見ながら訳すようになりました。
訳してみると、切なかったり、エロかったり(笑)、
デスメタルになると地獄とかヘブンとかそんな感じになって
面白いんです、それをひたすら訳すんです。
何でこんなこと言ってるんだろう? ってのめり込みました。
高校の時に、マイケル・ジャクソンが東京にきたので、
学校をサボって、一人で夜行バスに乗って、
東京ドームに行きました。
そういうことを、親が許してくれたんです。
自分がやりたいことは自分で決めなさい、という方針だったんですね」

そんなこともあって、高校卒業後は大学の英文科に進み、
英語を使って仕事をしたいと思うようになった。
あるメーカーの海外営業部に採用となり、
アジアの取引先の窓口を受け持った。

「やっていることは、今と大して変わらないところもあるんです、
取引先のニーズを吸い上げて、それをとりまとめて、
社内に上げたり、関係各所と調整したりして
またフィードバックし、といったようなことですね。
今の人事のお仕事にも、それに近いものなんです、
ある目的があって、それに関係するいろんな人に話を持っていって、
声を集めてきて、またフィードバックして、といったような。
そういうポジションが、自分に合ってるのかも、と思います」

いろいろな人が、いろいろな立場で、
いろんなことを感じ、考え、欲している。
立場によって見える景色も価値観も違っている。
それらにフラットに、興味を持って触れて、
それをまた、違う景色の中に持ってゆく。
どれも、相当大変なことであるはずだが、
平村さんはごく楽しそうに、それを語った。

そういえば、神話にはそうしたポジションの神様がけっこういる。
メッセンジャー的な神様・ヘルメスがそうだし、
ヴィーナスの使者的なクピードもいる。
天使という存在がそもそも、
天地のあわいにあって、双方をつなぐ役割を果たす。
天にも地にも完全に属することのない、翼を持った者たち
は、両方の都合を勘案してくれる、ごく親切な存在だ。
これらの存在は、善と悪の間にも置かれている。
たとえば、ヘルメスはメッセンジャーであり、
知恵の神様であり、ビジネスの神様である、と同時に
泥棒の神様ともされている。
天使にも「明けの明星」に擬えられる堕天使・ルシファーがいる。
こうした「どっちにも行ける存在」がなければ、物語が動かない。


平村さんに、
「これからやってみたいこと」「未来の夢」
みたいなものはありますか?
と聞いてみた。
すると、こんな答えが返ってきた。

「そうですね、やってみたいこと、というのは
特にないんですが、
決まったルートのようなものにはまりたくないな、
とは思います。
『このままいくとこうなるだろうなー」っていう、
予測できるルートにはまり込みたくないんです。
公私ともに、そういうルートを、
いつでも、ぽいっ! って、飛び出していけるようでありたいんです。
『あなたはずっとこのポジションね』というふうに
決められてしまうのがイヤ、ということもあります。
だから『未来には、今とはぜんぜん違うことしているのかも...』
って思っていたいんです。
いつでも、そういうふうに、「今だ!」と思ったら
ぽいって飛び出せる自分にしておきたいんです」

いつでも、ぽいっと飛び出せるような自分に、しておきたい。
これは、とてもおもしろかった。
私たちは一般に、
若い頃はとても自由で、どこにでも行けそうな気がするけど
年を取れば取るほど、新しいことが怖くなるし、
現状を変えることが辛くなっていく。
もちろん、幾つになってもそんなことはなくて、
新しいことに取り組み、変化に飛び込むことに
何の抵抗もなく生きていく人たちもいる。
が、それは、多数派ではないように思われる。

「いつでもぽいっと飛び出せる自分にしておく」ことは、
多分、それほど簡単なことではない。
それは、何かを好きになるときに
「これとも、いつかは別れてしまうかもしれないんだ」と
覚悟を決めながら一歩踏み出すことに似ている。
何かを好きになったり、ある世界に入ったりするときには
そういう勇気が必ず、必要になる。
身を守ろうとする衝動から、
つねに自分を自由でいさせること。
平村さんは、どうも、
それをもっとも大事な価値観としているんじゃないかという気がした。
だとすれば、この人は、
ものすごく勇敢な人なのではないか、思った。

勇敢さというのは、決して
痛みや恐怖を感じないということではない。
勇敢な人とは、
痛みや恐怖を深く味わった上でそれでもなお、
それらに縛られることなく生きようと試みる人のことだ、と
私は思っている。

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石井ゆかり(いしい・ゆかり)

ライター。星占いの記事やエッセイなどを執筆、独特の文体で老若男女を問わず人気を集める。著書に『12星座シリーズ』(WAVE出版)、『愛する人に』(幻冬舎)、『月のとびら』(阪急コミュニケーションズ)、『星の交差点』(イースト・プレス)など多数。

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