石井ゆかりの闇鍋インタビュー

第6回 赤井さん・その3

2014.08.20更新

その1その2もあわせてどうぞ

自分のリズム。

青春と言えば、なんといっても、恋愛であろう。
赤井さんに恋愛の話題を振ってみると、
意外な言葉が返ってきた。

「お母さんとお姉ちゃんには、
あんたは絶対結婚できない、って言われてるんです。
お姉ちゃんはモテるからできるけど、
あんたはむりだね、って」

実際、彼女はとても可愛らしいのである。
私も女子高生の頃こんなふうだったらなあ
と思うような子なのである。
なのになぜ、モテない、なんて言われるのだろう。

「たぶん、人とつきあうことに、
あんまり興味がないからだと思います。
友だちのなかには、
『何時から何時まではLINEの時間』みたいに決めてる子もいます。
私はそれは絶対ムリです。
休日を寝て過ごすのとかもったいない、っていう友だちもいますけど
私は休日寝て過ごしてても平気だったりとか。
ムリして自分から予定入れる、とかはしないです」

この「予定」は、
「友だちと遊びに行く予定」ということなのだろう。
彼女はとても「自分を持っている」人なのだな、と思った。
友人間のコミュニケーションに飲み込まれるような若者たち、
というイメージの記事や、
それが原因と思われる事件の報道を、よく目にする。
そういう「今の若い人」のイメージとは、
彼女は、だいぶ違ったところがあるようだ。
もとより、
大人が十把一絡げにする「今の若い者」のイメージも
相当いい加減なものなんだろう。

大学生のお姉さんとは、よく買い物に行ったりする。
「仲がいいの?」
と聞くと、
「わかりません、多分、仲がいいほうなんじゃないかと思います、
他の家の姉妹がどうなのかわからないから、何とも言えないけど、
でも、人から『仲いいね』と言われます。
友だちみたいな感じかなあ」
と返ってきた。
彼女の答えには、理性の眼差しが行き届いている感じがする。
物事の捉え方がとても冷静で、知的に澄んでいる。

「お姉ちゃんは、やっぱり、
妹のことを面倒見ないと、みたいな感じで、
甘えさせてくれるというか、そういう感じがあります。
それが、心地いいんです。
だから、学校でも、先輩と話すほうがラクだったりします。
後輩だと、こっちから話題を作ってあげないと、みたいに、
気を遣ってしまいます」

妹というものがそんな感じ方をするんだ! ということに
軽い衝撃を受けた。
かくいう私は、三人姉妹の一番上である。
もちろん、どこの家の妹もおなじ、ということはないだろう。
ただ、彼女に言われて確かに
高校時代など、後輩と話す方がラクだったのを思い出した。
ここにいる新居女史とも、もしかすると
妹に接するみたいな気分で仕事しているのではあるまいか......
と思ったら
かなりそうかも
という気がしてきた。まずい(何が)。

立場によって、見えるものは違う。
人間関係の作り方も、そんなふうにできていくんだなあ
ということに気づかされた。
お姉ちゃんだからちゃんとしないと、ということは
小さい頃から常に無意識に思っていたところがあった。
では、妹は、というと
そこには、気がついていなかったかもしれない。


一番心に残っていること。

最後に
「今までの人生の中で、
一番記憶に残っているというか、
印象が強い思い出、みたいなものは、ありますか」
と聞いてみた。

すると、
「中学の部活です」
と、即答だった。

「中学のときはバスケ部で、練習はきつかったけど、
達成感があったんです。
中学のバスケ部に入ってくる子は、
小学校のときにミニバスやってた子が多いんです、
でも私がいたチームは、ミニバスからの子が一人だけでした。
だから最初は弱かったんですが、
チームワークがすごく良くて、
だんだん強くなって、
前に勝てなかった相手にやっと勝てた! みたいな、
そういう経験がすごく、残ってます」

彼女のポジションというか、
どんな立ち位置だったのか、を聞いてみると、
ディフェンスが好きでした、という。

「どちらかといえばセンターが強いチームで、
フォワードが中心だったので、
私はディフェンスに回るようになりました。
試合の相手チームの情報を、
先生が事前に教えてくれるんですが、
『何番が強い』とか教えてもらって、
その選手を止めたときの達成感とかが、大きかった」

一番心に残っていることはなんですか?
これまでのインタビューでも何度か、おなじ質問をした。
しかし、この質問にバキッと応えた人は、たぶん、いない。
うーん、なんだろう、おもいつかないなあ、
という感じで終わってしまうことがほとんどだ。
大人になっている分、いろんな経験をしてきているはずなのに、
と不思議に思えるが、
逆に、たくさんの経験があるからこそ、
どれかひとつを選べない、ということなのかもしれない。

赤井さんはしかし、即答だった。
それも「一瞬の衝撃」のようなできごとではなくて
中学校3年間という長い時間をかけた経験のひとまとまり、
その達成感や充実感だ、
と彼女は言った。
私は、衝撃を感じた。
背伸びでも自慢でもない、
いわゆる「中二病」などとは無縁な、
爽やかな彼女の知性が、まぶしいような気がした。

そして、
私の人生の中で、そうした達成感を感じたことがあったろうか、と思ったし
それを「一番心に残ること」と言えるだろうか、とも思った。


もし自分が、高校3年の夏に
「今までで一番心に残ったことは何ですか?」
と聞かれたら、どう答えただろう。

それをつらつらと考えて、ふとおもいうかんだのは
小学校1年のときに、
妹を迎えに保育園に行ったときのことだだった。
当時、両親は別居していて、母子家庭だった。
真冬の雪道を、なぜかそりを引いて保育園まで歩いて行き、
そりに妹を乗せて、それを引っ張って歩いて、
誰もいない家に帰って、
大きな石油ストーブに、マッチを擦って
おっかなびっくり火をつけた。
あの時の感情はよく「思い出せないし
なんでその光景を一番に思い出したのか解らないのだが
たぶん、とても怖かったのだと思う。
でも同時に、大人になったような気もして
それが、誇らしかったのだと思う。
そのとき感じたであろう
「自分にもこんなことができるのだ」という感情が
いまだに、心の奥深くに残っているのかもしれない。
達成感や、充実感。
たしかにそれは、若い心には
本当に大きな経験なのかもしれない、と思った。



*9月はお休みをいただき、次回の更新は10月になります。お楽しみに!

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石井ゆかり(いしい・ゆかり)

ライター。星占いの記事やエッセイなどを執筆、独特の文体で老若男女を問わず人気を集める。著書に『12星座シリーズ』(WAVE出版)、『愛する人に』(幻冬舎)、『月のとびら』(阪急コミュニケーションズ)、『星の交差点』(イースト・プレス)など多数。

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