石井ゆかりの闇鍋インタビュー

第7回 吉田さん・その3

2014.10.22更新

ぬぐい去れぬ不安。

写真家として活動していくことは、吉田さんにとって
「楽しいし、超こわい」ことだ、という。

「地震と津波の夢しか見ないんです。
それで、ネットで『夢判断』みたいなのを検索すると、
『極度の不安に襲われています』と出てくる(笑)。
言いしれぬ不安感がいつもあります。
10年後にも写真をやっているのだろうか? とか、
もっと良い作品を作れるんだろうか、とか、
食べていけるかとかじゃなく、
作品を作りたいという気持ちでいられるのかどうか、
そして、誰も依頼してくれなかったらどうしよう、とかね、
そういう不安が常にあります」

「今は自分でお金を出してバングラディシュに行って、
ボロボロの宿に泊まって、苦労して撮影するんですが、
いやな思いをすることもたくさんあるわけです。
でも、そういう思いをしても、
どうしても彼等の姿をカメラにおさめたい、
という気持ちがあるから、行けます。
そういう気持ちがもし、将来、なくなったらどうしよう、って
それはとても不安です。
食べていくために写真をやりたくない、
あくまで『作品を作っていきたい』という、
その気持ちや、それを可能にする場、機会がなくなることの怖さは、
本当に大きいです」

この気持ちは、よくわかる。
書けなくなったらどうしよう
もうなにも思いつかないんじゃないか
書いても誰も読んでくれなくなるんじゃないか
この本が売れなかったらもう、仕事が来なくなるんじゃないか
という恐怖は
僭越ながら、私にもおなじみだ。
毎週、筋トレ週報を書くときにも、
その恐怖と向き合わなければならない。
何も出てこなかったらどうしよう。
誰も読んでくれなかったらどうしよう。
これは、逃れようもない恐怖だ。

歴史上、幾多の作家や芸術家が自殺してきたが
その気持ちが、容易に想像できる気がするのだ。
一時的なスランプなのか、
才能や意欲が既に摩滅して消滅してしまったのか、
自分ではわからない。
偉大な芸術家などでなくとも、どんな仕事であっても
自分の中から出てくるアイデアや意欲を元手に仕事をしている人なら
この感じはたぶん、よくわかるはずだ。
「もう何も思い浮かばないかもしれない」
「過去のアウトプットよりいいものが出ないかもしれない」
という恐怖は、私たちを打ちのめす。

体力やスピード感、感受性の鋭さ、記憶力など
年齢とともに失われていくものは多々、ある。
創作活動において、これらもまた、怖ろしい変化だ。
私自身、そうした恐怖に今、晒されて
どうにか道を探そうともがいているところがある。
悪あがきなのかもしれない。
あるいは、もがき続けていれば、
なにか道が見つかるかもしれない。
どっちなのかは、自分では、わからない。


「好きだ」という感じを、出していく。

撮影旅行のときも、怖さはある。
ドキドキしながら、現地の社会に入っていく。
工場とか、現場に行くときは、
事前に、可能な限り念入りにリサーチをして、
どう入っていくか、よーく考える。
どの国でも共通しているのは、
一番エライ人と仲良くなればよい、ということだ。
チベットの鳥葬の撮影に出かけたときも、
僧堂のラマの長と仲良くなって、そこから、
みんなに受け入れてもらえた。

写真を撮るとき、拒否されたりしませんか、
と聞いてみた。

「そうですね、写真を撮られるのを嫌がる人もたしかに、いるわけですが、
基本的に、こちらから『好きだ』という感じを出していくと、
受け入れてもらえる、というところがあると思います。
言葉が通じない分、そういう『感じ』は伝わりやすいです。
表情とか仕草とか、すごく敏感に反応します。
わーっといって、ハグ! みたいになって、
こっちの服がぐちゃぐちゃになったりします(笑)」

「好きだ」という感じを、こちらから出していく。
出来そうで出来ない、すごい技だ。
そういえば、私がわずかに知っているカメラマンも、そんな感じだ。
「結婚へつづく道」の野寺治孝さんも、
「星なしで、ラブレターを。」の新潟の相田諒二さんも、
ピリピリ警戒したりはねつけたりする感じが一切無い。
太陽のようにどーんとしている。
一度だけお目にかかったハービー山口さんは
相手を自然にオープンにさせてしまうような、
不思議な「圧」をお持ちだった気がする。
「禅語」「親鸞」でお世話になった故・井上博道さんには、
残念ながら、一度もお目にかかることができなかったが、
写真を拝見すると、やはり
人の警戒を解き放つような笑顔をしていらっしゃった。

どうしてそういうことができるのか、私にはわからない。
戦略なのか、「素」なのか。
「そういうふうにしても大丈夫」とわかっているからなのか。
ハービーさんに、
「相手に拒否されたら、やはり、嫌な気持ちになるんですか」
と聞いたら
「当然、傷つきますよ」
と教えてくれた。
こちらから好意の雰囲気を出して行った上で、
相手からそれを拒否されたら
たぶん、誰だって辛いはずなのだ。
こちらから「好きだよ」という感じを出していくのは、
リスクのある、怖いことであるはずだ。
でも、カメラマンはそれを超えていく。
吉田さんみたいに、海を越えて遠く、
働く人々に会いに行く。
それができる人が、写真家になれるということなのかな
と思った。

「好きだ」という感じを、こちらから出していく。
写真を撮る場でなくても、
生きる上で、いつでもそういうことができれば
人生はとても、大きく強いものになるんじゃないか、
と私は思った。
拒否される恐怖を超えて、リスクを取って、
そういうことができる人は
大きな人生を歩んでいるんじゃないか、と思った。
吉田さんは、特に大柄な人ではない。
でも、なんとなく「大きい人」と思える。
この人は、大きい。
たとえるなら、みんなで回し飲みするための、
ごつごつした丈夫な焼き物の酒器のような、「器」的な大きさだ。

「一緒にごはんをたべるのも大事です。
同じ釜のメシを食う、というか、
「ウマイ!」と言って食べると、心を開いてもらえる感じがします。
口に入れて、これはヤバイ、となることもありますが、
ムリして食べます(笑)。
チベットに行ったときは、鳥葬のあと、
すぐそばで宴会をやるんですが、
匂いが、鼻に残るんです。
視覚的なものじゃなくて、鼻に匂いがついてしまう。
そこで、ヤクのミルクの入ったバター茶をもらう。
その獣の匂いがまた、鳥葬の匂いに混じって、
あの味は、ちょっと、忘れられないですね」


どうすれば戦えるか。

世の中には、写真家になりたい人がたくさんいる。
懸命にその道に向かって行って、努力して
結果、写真家になれなかった人も、大勢いるだろう。
吉田さんはしかし、写真家になった。
才能があったとか、
努力が実ったとか、
運が良かったとか、
出会いに恵まれたとか、
いろんな見方ができると思うし、
そのすべてだろう。
奥さんの存在も本当に(ほんとうに!!)すごい。

でも、私から見ると、
お話の中に一貫して、
一つのことがキラキラと輝いて見えた。
吉田さんはいつも、一つの大事な観点を
見失わずに来ていたのだ。
それは、私自身、
いつも模索し、苦悩していることでもある。
それは、
「これをやっている人はいっぱいいる、
その中で自分は、どうしたら生きのびられるだろう」
ということだ。
同じことをやっていても、生きのびられない。
「場」「機会」がもらえない。
自分よりキャリアや才能のある人はたくさんいる。
「今の自分」から一足飛びに、
「別の自分」になることはできない。
現在地はあくまで「ここ」で、
スタートラインは常に「今現在の自分」だ。
リソースは限られている。

世の中を戦場に喩えるならば、
今現在の自分として、
どうしたら、戦えるのか。
吉田さんが、随所でそれを必死に考えてきたことが
私にはヒリヒリと伝わってきた。
生まれ持った才能や恵まれた環境で
すーっとラクに進める人もいるのかもしれない。
でも、多分誰だって
人と自分を比較して落ち込んだり、
この先どうなるかわからない恐怖に苛まれたりするものだと思う。
時には、自分が何をしたいのかわからなかったり
したいことができなかったりすることだってある。
頑張ればうまく行く、というわけではない。
今の自分があって、自分を取り巻いている社会がある。
そこで、どうしたら生き抜いていけるのか。
どの方法なら、戦えるのか。
勝てないまでも、せめて負けずにいられるのか。

その方法は、誰にも教えてもらえない。
客観的な「正解」もない。
吉田さんが強い不安を感じるのは、
その本質をいつも掴んで、離さずにいるからなんだろう
と、私は思った。

インタビューのあと、家に帰ってから、
Webサイトで吉田さんの作品を見た。
オープンで力強い光と色彩の中に
「え? すみません、聞こえなかったのですが
おもしろそうなので、もう少し詳しく話して下さいませんか」
と、こちらから問いかけたくなるような、
そういう気持ちで二度見したくなるような、
熱いノイズがこもった写真だ、と思った。


編集部よりおしらせ

 今回、この「闇鍋インタビュー」にご登場くださった、吉田亮人さんの写真展が12月に東京で行われます。
 ご興味を持たれた方は、ぜひ足を運んでみてください!

吉田亮人写真展「Brick Yard」
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日時:2014年12月6日(土)〜12月15日(月) 無休・入場無料
   10:30〜19:00
場所:コニカミノルタギャラリーB 
WEB:http://www.konicaminolta.jp/plaza/
期間中在廊予定。


   

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石井ゆかり(いしい・ゆかり)

ライター。星占いの記事やエッセイなどを執筆、独特の文体で老若男女を問わず人気を集める。著書に『12星座シリーズ』(WAVE出版)、『愛する人に』(幻冬舎)、『月のとびら』(阪急コミュニケーションズ)、『星の交差点』(イースト・プレス)など多数。

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