遊牧夫婦こぼれ話。

第1回 お久しぶりです、と、はじめまして

2014.06.06更新

 こんにちは。近藤雄生です。
 ぼくはノンフィクションなどを書いているライターです。ミシマ社さんからは、『遊牧夫婦』という紀行ノンフィクションシリーズ(『遊牧夫婦』『中国でお尻を手術。』『終わりなき旅の終わり』、全3巻)を出させてもらっています。このシリーズは、2003年~08年までの間、5年半にわたって夫婦で世界各国を旅しながら暮らしてきた自分たちの日々をまとめたもので、このミシマガジンでの連載がベースとなっています。

 連載は2009年7月から2013年6月まで、4年間、計106回に及びました。それを順次書籍化させてもらい、シリーズ最終巻となる『終わりなき旅の終わり さらば、遊牧夫婦』が刊行されたのが、連載終了の2カ月後、2013年8月末のことでした。

 書いている間はずっと、日記や写真を見返して記憶をたどっていたので、ときどき、あの長い旅をもう一度しているような錯覚に陥りました。
 だから、最終巻が刊行されたときには「これでついにあの5年半の旅にも本当に終止符が打たれた、もう二度とこの旅について振り返って何か書くのはやめよう」と思ったものでした。旅を振り返ることはとても楽しい経験だったものの、旅立ちからすでに10年が経ってみて、いつまでもそのことを思い返しているのはなんとなく後ろ向きな気持ちがしたからです。
 これからはもっと、まだ見ぬ未来を意識しながら書いていきたい、と思うようになっていきました。いまなお、基本的には同じように考えています。

 それなのに、今回始めさせてもらうことになった新連載は「遊牧夫婦こぼれ話。」。タイトルからして未練タラタラ、いま書いたこととは完全に矛盾していますよね。
「またあの旅のことをネタにしようというのか、おれは!」
と自分で突っ込みたくなる気持ちを抑えながらいま書き始めているのですが、まずは言い訳もかねて、経緯をひと言。


 ウェブ版に書いたけれど書籍の中に盛り込むことができなかったエピソードが多数あるので、ぼくは前からひそかに、それらを改めて読んでもらう機会があればと思っていました。そして、あるとき「そういうエピソードだけを再びウェブで見られるようにできませんか」と相談したことから、この企画は始まりました。
「はい、ではそうしましょう」と快諾され、過去のページが復活してめでたく終了、といくかと思ったら、そうはいかないのがミシマ社さん。
「昔のものをただ単に見られるようにするだけよりも、いっそのこと、本には載ってない話を新たに書いてもらえませんか?」と逆に依頼を受けてしまったのです。

 「まいったな」。
 最初は正直そう思いました。もう、あの旅については書かないと決めたのに、他の人にもそう言ってきたのに、また口だけ野郎になってしまう......と。でも少し考えているうちに、たしかにそのほうがいいのかもしれないという気持ちになっていきました。

 というのも最近、他の媒体で、隔月で海外をふらふらして紀行文を書くというありがたい連載のお仕事をいただいて、4月に久々に海外に行く機会を得ました。ソウルに行き、安宿に泊まって、いろんな人と出会い、たった1週間とはいえあの5年半を思い出す日々をすごしたことで、やっぱり旅っていいなって改めて感じることができました。

 6月には上海に行くことになり、遊牧夫婦の旅で1年半暮らしたあの町に戻れることにいまとても気持ちが高ぶっています。そうして旅が再び身近になったいま、あの5年半の生活の高揚感を思い出して遊牧夫婦の旅を新たに見つめ直せば、きっと新たな発見もあるんじゃないか、と思うようになったのです。
 だから、あの旅について書くとしても、それは未来を書くことなんだ、と。

 なんて書いてみましたが、はい、完全に言い訳ですね。あの5年間があまりにも濃密だったため、ぼくはなかなか離れられないだけなのかもしれません。または最近、再びあんな旅をしたいと思うようになっているからかもしれません。本当に信じられないような豊かな日々だったから......。

 いずれにしても、この「遊牧夫婦こぼれ話。」では、本の中に収められなかったエピソードや出来事を振り返りながら、でもしっかりと前を向きながら、旅や生き方について、いまだからこそ感じられる何かを書いていければと思っています。
 そして同時に、この連載を通じて遊牧夫婦シリーズに興味を持ってくれる方が少しでも新たなに増えたらうれしいな、とも。

 いつまで続くのかわかりませんが、お付き合いいただければ幸いです!

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

近藤雄生こんどう・ゆうき

東京大学工学部卒業、同大学院修了後、旅をしながら文章を書いていこうと決意 して、2003年、結婚直後に妻とともに日本をたつ。オーストラリアでのイルカボ ランティア(2003-04)に始まり、東南アジア縦断(2004)、中国雲南省で中国語の 勉強(2005)、上海で腰をすえたライター活動(2006-07)、その後、ユーラシアを 横断してヨーロッパ、アフリカへ(2007-08)。旅と定住を年単位で繰り返しなが ら、各国からルポルタージュ・写真を週刊誌・月刊誌に発表。2008年秋に帰国 し、現在は京都市に在住。著書に『遊牧夫婦』『中国でお尻を手術。』『終わり なき旅の終わり』(以上『遊牧夫婦』シリーズ、ミシマ社刊)、『旅に出よう』 (岩波ジュニア新書)。ノンフィクション、サイエンス、エッセイ、紀行文な ど、さまざまな分野の文章を執筆中。京都造形芸術大学・大谷大学 非常勤講師。

http://www.yukikondo.jp/

遊牧夫婦

中国でお尻を手術。

終わりなき旅の終わり

バックナンバー