遊牧夫婦

第36回 ――書籍版『遊牧夫婦』のあとがきにかえて――

2010.07.21更新

『遊牧夫婦』が本になって書店さんに並び出して10日ほどが経ちました。
東京、京都で書店さん回りをして、ミシマ社仕掛け屋チームの方たちが作ってくださったかわいく心のこもったパネルやポップとともに並んでいる本書を見るとやはりうれしいです。そして同時に、胸が高鳴る緊張感もあります。

書店を通りがかるたびに思わず入って、並んでいるのを眺め、誰か手にとってくれないかなあ~、などと密かに様子を窺ったり、仕事の合間にちょくちょくAmazonの順位をチェックしてしまったり。そして、ふと文章のディテールを思い出しては、あれでよかったのか、こう書いた方がよかったんじゃないかとかあれこれ考えてしまう、そんな日々が続いています。

自分としては、それだけ思いを込めて書き上げたつもりです。
その書籍版、本の性格を考えた結果、あとがきはつけないことに決めました。でももちろん、だからといってあとがき的に書きたいことがないわけではありません。
というわけで、ウェブと連動して出来上がった書籍版のあとがきにかわるものを、ウェブ上にて書かせていただきたいと思います。
書籍を読んでくださったみなさま、連載を読んでくださっているみなさま、そしてたまたまご覧いただいているみなさまへ。


このミシマガに「遊牧夫婦」の連載を始めさせてもらったのが去年の7月のことだったので、連載開始からちょうど一年で書籍化を果たすことができたことになります。
2008年、「遊牧」の旅を終えて日本に帰ってきたとき、もともと自分は紀行文を書くことはあまり考えていませんでした。これまで雑誌に書いてきた硬派なルポ的なもので何か大きなテーマを取材して、本を書くことができればと思っていました。

しかし、帰国後いろいろと編集者の方々に会っていくうちに、自分たちの5年間のことを話すと面白がってくださる人が思いのほか多いことに驚かされました。やはりこの旅のことを書くべきなのではないか、これこそがいま自分にとって最高のテーマなのではないか、と少しずつ思うようになりました。

そしてその中で、すぐにそれを企画として進行することを決めてくださったのが、ミシマ社の三島さんと大越さんでした。初めてお会いしてお話したとき、まさに意気投合したというか、1、2時間の楽しい会話の後に、書籍化を前提に連載を始めることが概ね決まっていたのです。
そうしてうれしい気持ちを抱えて京都に戻って、執筆をはじめました。
膨大な日記を読み直し、写真を見直し、モトコと話して記憶を辿りながら書いていくうちに、いろんなことを思い出し、このエピソードも、あのエピソードも、というように話は膨らんでいきました。

紀行文を書くのであれば、「これまでこういうものは全くなかった」と感じてもらえるものにしたい、既存の旅ものをなぞるようなものにはしたくない、という思いが強くありました。そして、「旅を暮らしにする」をテーマに、生活としての旅を書けば、何か新たなものになるのではないかと考えました。夫婦、仕事、変化、出会い、生き様。旅を背景に、そのような人の物語を書いていこう、と。

また、ウェブ連載という形で書くことによって、一回一回をそれなりにまとまった一つの話にしようという意識も働きました。それがある意味、脱線の果てにあるいろんな物語をつないでいく、というような『遊牧夫婦』の形を作り上げたような気がしています。そして、連載しながら、読者の方々から感想をいただけたことも、作品の方向性を考える上でとても参考になりました。

そのように毎回を書いていくうちにどんどん内容が膨らんでいき、気付いたら最初の1年分だけで原稿用紙300枚を超える分量になり自分でも驚いていたところ、三島さんから、「ここまでで一冊にしましょう」といっていただけました。
そしてそれから、一冊の本としてベストな形を目指すべく、三島さんに的確なアドバイスをいただきながら、作品のスピード感やエネルギーを最大限にできるようにエピソードを増やしつつ贅肉をそぎ落とす作業を5カ月ほど続けました。
その結果、いま自分ができることのすべてを出した、という気持ちで完成した本を手にすることができました。
その思いが本当に独りよがりのものではないのか、読者のみなさまにご判断いただければと思っています。ご感想をいただければうれしいです。

5年間の最初の1年が一冊に、というかなりボリュームのある作品になりましたが、振り返ってみると、やはりたしかにそれだけ濃密な旅だったと思います。旅によって自分がどう変わったか、具体的にどこがどうというのはうまく言いにくいものの、しかし現在の自分の行動や考え方一つひとつに、この5年間の経験が色濃く反映していることは間違いないとよく感じます。そしてぼくとモトコの関係においても、この5年を共有できたことはいろんな意味でとても貴重だったように思います。

1年目だけを一冊としたために、もちろん旅としては途中で終わりとなっていますが、これはこれで一冊のノンフィクションとして楽しんでもらえるものを、ということを意識しながら書き上げました。
ただ、「旅が暮らしになる時代になった」という実感は、5年間の「遊牧」ライフ全体を通じて得たものなので、その点についてはやはりこの一冊だけで伝えきれたようには思っていません。だから、物語自体はまだまだ続き、それはいまも「ミシマガジン」にて、進行中です。今回の本に盛り込めなかった事柄も、どんどんその連載の中に盛り込んで行こうと思っていますので、これからも楽しんでいただければうれしいです!

書籍版を完成させるに当たって、多くの方々にお世話になりました。
まず、この方なしでは本書の誕生を語ることができないという人物は、なんといっても、関西をリードする編集集団140Bの中島淳さん。2009年4月、まだ知り合って間もない自分にいろいろと仕事を与えてくださった上に、「近藤さん、是非ミシマ社の三島さんに会いなさい」とご紹介くださったのが中島さんでした。中島さんがそうおっしゃってくださらなければ、いま『遊牧夫婦』が書店に並んでいることはありえなかったし、ぼくにはミシマ社との出会いもまだなかったかもしれません。中島さん、本当にありがとうございました!

そうして、幸運にもミシマ社との関係が動き出してから、ミシマ社のみなさまには、本当に、ほのぼのbut 熱血応援、ほのぼのbut 熱血編集、ほのぼのbut 熱血営業、ほのぼのbut 熱血仕掛けと、ほっこり感&熱さみなぎる最高のご尽力をいただきました。
三島さんを中心としたそのチームワークと人間力の素晴らしさが、余すところなく注ぎ込まれた結果、『遊牧夫婦』は完成しました。ミシマ社のみなさまに、心より感謝申し上げます。そしてその仕上げとなるブックデザインをご担当くださり、そのイメージを見事に具現化してくださった寄藤文平さん、篠塚基伸さん、本当にありがとうございました。

また、連載時から応援くださっていた多くの方々の励まし、また友人や家族の支えは、とても大きな力となりました。そしてまた、もちろん感謝しているもっとも身近な人物には、ここに書くのもなんだかなという感じなので、直接感謝を伝えることにします。
本当にみなさま、ありがとうございました!

そしてそして、本書を読んでくださったみなさま、心より感謝いたします!

・・・と、やはりあとがきを書いたら、なんだか完全に終わりのような雰囲気になってしまいましたが、『遊牧夫婦』の物語はまだまだ続きます。まずはウェブで、そしてうまく行けば、新たな書籍が遠くない未来に形になるはずです。
今後とも、このミシマガとともに、どうぞよろしくお願い致します!

2010年7月20日 近藤雄生

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近藤雄生(こんどう・ゆうき)

1976年東京生まれ。ライター。大学院修了後、旅をしながら文章を書いて暮らそうと決意し、2003年に妻とともに日本を経つ。

オーストラリアでのイルカボランティア(2003-04)に始まり、東南アジア縦断(2004)、中国雲南省で中国語の勉強(2005)、上海で腰をすえたライター活動(2006-07)、その後、ユーラシアを横断してヨーロッパ、アフリカへ(2007-08)。

旅と定住を年単位で繰り返しながら、各国からルポルタージュ・写真を週刊誌・月刊誌(「週刊金曜日」「読売ウィークリー」「中央公論」「世界」など)に発表し続け、あれよあれよという間に5年半。

疲れきって08年10月についに帰国したものの、旅は生活になると確信。現在、京都から、書籍、雑誌、講座などでいろいろと発信中。

著書に『遊牧夫婦』『中国でお尻を手術。』(ともにミシマ社)がある。

YUKI KONDO

遊牧夫婦


中国でお尻を手術。


終わりなき旅の終わり

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