一冊!取引所「現場からは以上です。」

第10回

カランタ、変化のとき

2021.02.13更新

「一冊!取引所」とは?

書店と出版社をつなぐ、クラウド型受発注プラットフォーム。
株式会社カランタが運営し、ミシマ社は共同開発として関わっているサービスです。

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コロナ禍で加速した「DX」

 皆さんこんにちは。「一冊!取引所」のワタナベです。
 さて皆さま、突然ですが、「DX」という略語を聞いたことはあるでしょうか?
 「DX」は、「デジタルトランスフォーメーション」の略です。ウィキペディアによると、この用語は、 "2004年にスウェーデンのウメオ大学教授のエリック・ストルターマンが提唱した。ストルターマンは「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」と定義" した、とあります。この考え方がDXという概念のはじまりとされています。

 「提唱」だなんて大げさな。なんだか当たり前のことを言っているだけに聞こえます。ですが、DXとは、単に「デジタル化」とか「IT化」、「データ化」、みたいなことだけを指しているのではありません。注目すべきポイントは、「(生活をあらゆる面でより良い方向に)変化させる」と言っていることです。そうです。「変化」です。
 2020年、新型コロナウイルスの拡散により、人との接触が感染リスクとなりました。移動や行動が制限され、いままでと同じような「リアル」なコミュニケーションが取れなくなってしまいました。それでも世の中を止めずに回していくための手段として、広く世の中に「DX」の推進が急速に求められるようになったのです。
 他業界にないような慣習に守られたこの出版業界にも、隔離、時短営業、在宅勤務といったような劇的な環境変化は、否応なく影響を与えています。実際この1年ほどのあいだに、出版界にもITテクノロジーを活用した変化がいろいろと起こったのでした。
 前置きが長くなってしまいました。
 今回は、そういう状況のなか、いま「一冊!取引所」が外部の方々と取り組んでいることを通して、現場で感じることを書いてみます。

出版情報をすべての書店へ!「BooksPRO」

 「BooksPRO」は、書店向けの「書誌情報ポータルサイト」で、2020年3月10日にオープンしました。
 出版情報インフラの整備・改善を目的として設立された「一般社団法人日本出版インフラセンター」内の「出版情報登録センター(JPRO)」が運営しています。
 この「BooksPRO」は、ログインしないと使えず、完全に「職業としての書店員」を対象にしたサイトです。各出版社が同センターに登録した「書誌情報」、とりわけこれから刊行する「近刊情報」を、サイト内で調べることができます。また書籍の販促につながるような各種情報(たとえば「メディア化」や「テレビでの紹介」、「新聞広告」や「重版情報」など)も閲覧することができるのが大きな特徴です。
 これまで各出版社は、そういう情報をFAXやメールなどで「個別に」書店へ案内するしかありませんでした。せっかく売り伸ばしにつながるような情報が、業界内でうまく共有できていなかったのです。
 BooksPROは、そういう状況をITの力で打破しようとしています。ここにくれば「一か所でまとめて」いろいろ調べがつくという、まさに「DX」を体現したような場。「一冊!取引所」も小所帯ながら、目指したい方向はまったく一緒です。
 ちなみにこのBooksPROを支えているデータ周りは、書店員が閲覧するためだけに使われるものではありません。出版流通の根幹にかかわる「書誌」を業界三者(出版社・取次・書店)で共用するという、より大きな目的があり、BooksPROの書誌データベースは、業界共有の「インフラ」なのです。
 実は、「一冊!取引所」に登録されている本の情報も、BooksPROが保有するデータを取り込ませていただいています。同じ本の登録を、バラバラに何回もやらなくていいので、とても楽ちんで助かっています。
 そんなBooksPROのウィークポイントは、「ここから発注ができない」ということ。運営母体が「一般社団法人」ですから「営利を目的としていない」ことが必要です。受発注は明確に「商取引」ですから、アウト。書店員さんは、もしその場で注文したい本を見つけても、発注作業は別の形で行う必要がありました。
 それが来月から、「外部の受発注サイトと連携」できるように変わるのです! 閲覧した本が、外部の受発注サイトから注文可能である場合、そのサイトのバナーがBooksPROに表示されるという作りです。これなら非営利のインフラとしての立ち位置そのままに、書店員さんへの利便性を提供することができます。
 この連携には、小学館、講談社、KADOKAWAといった誰もが知るような大手出版社の運営する受注サイトが参加することが決まりました。では、「一冊!取引所」はどうか。なんと、先方よりお声かけをいただきまして、この連携に混ぜていただけることに! やー、すごくないですか?
 書店員さんの手間が減り、店頭での嬉しい本の出会いがさらに増えていく予感がします。BooksPROさんは、大規模な座組みでやっていらっしゃるのに、1年でこの変化対応。そして、業界の情報インフラを担うという目的そのままに、うちのような小規模所帯のシステムにも同じ熱量で対応してくださる。中の方々の心意気に、私はもう、感銘を受けまくっています。これまでの出版流通を知る玄人として見ても、BooksPROは、画期的で、すごいです。

書店さん、オンラインで商談しませんか?「書店向けWeb商談会」

 画期的ですごいと言えば、「書店向けWeb商談会」もすごいです。こんな想いで運営されている商談会です。

書店向けWeb商談会とは
人と人とが距離を取らなければならない今、私たち出版社は、全国の書店員さんにお会いしたくてもなかなかお会いできません。みなさんに、オンラインでもいいのでお会いしたい。いやむしろ、オンラインを使えば「北海道の書店さんが沖縄の出版社と出会う」ことさえも、気軽に、安全にできるようになるのではないか? そう考えた出版社有志の手で、オンライン商談会の機会を設けました。全国の書店員のみなさま、本を扱う小売店のみなさま、どうぞお気軽に参加してみてください。

(公式ホームページより引用)

 「出版社有志の手で」というのがポイントです。去年、緊急事態宣言で休業を余儀なくされた書店が相次ぐなか、出版社は、コロナ禍でどのように営業活動を行えばよいのかという問題に直面しました。各社が個別に試行錯誤するなか、ある出版社の方がSNSに投稿した「ウェブ商談会」のアイデア。それに賛同する出版社有志が、自主的に横でつながり実行委員会を組織。実行委員長のパイインターナショナル・三芳代表を中心にアイデアを出し合いながら、手弁当でウェブ商談の仕組みが構築され、昨年6月にウェブ商談会の「β版」が開催されました。
 このとき大活躍したのが、無料で使える各種ウェブサービスでした。告知サイトは無料ホームページ制作ツールの「Wix.com」で作られ、商談の予約は日程調整ツールの「Calendly」で受け付け、オンライン商談は、Web会議ツールの「Zoom」を活用。そして、実行委員会の情報共有や意見交換には、実際にリアル会合など開けませんから、チャットツールの「Slack」が使われました。さらに書店さんとのコミュニケーションには「LINE」のオープンチャットが組まれつつ、商談のお誘いにはメールを使う。手弁当ですから予算などない。そんななか、こういった無料で使えるものを駆使して、すごいスピード感で出版業界に「オンライン商談」という新たな可能性を生み出しました。何度でも言いますが、手弁当で。手弁当DX。すごいことです。
 ちなみにこのβ版が催された6月というのが、「一冊!取引所」が本稼働したタイミング。私は、この試みに大きく心惹かれ、注目しつつも、自分のサイト運営のことで頭がいっぱいという状況でした。
 その後、実行委員会は、β版の手ごたえを踏まえ、正式に秋開催を決定。公に出展社を募り、出版社から出展料を徴収し(といってもたったの5千円です)、10~11月の2週間、「書店向けWeb商談会 2020 秋」が実施されました。カランタも、「一冊!取引所15分操作レクチャー」という商談を設定し、参加させていただきました。
 この秋開催には、149社が出展し、書店員さんは235人も参加しました。会期中に行われたマンツーマンの商談は779回、商談金額はなんと2,000万円を超えました。日常の商談が「フェス」のようになった瞬間でした。この出来事は、個人的には、2020年の業界トピックとして、もっとも大きな出来事だったのではないか? と思っています。
 私は、実際に参加してみて思いました。「一冊!取引所」が持っている「オンライン受注機能」や「システム内のチャット」、あと、出版社を気にせず本をグルーピングできる「リードリスト機能」がこのWeb商談会で使えたら、とても良いのになあ、と。
 そう思っていたところに、実行委員長の三芳さんからも、「書店さんからの声を受けて出展社どうしで合同フェアを組んだが、そのサイト構築や出品書目のとりまとめが大変でした。そして受注から出庫までを各社がやってくれるかが心配で・・・。カランタさんのほうでうまくできませんか」とのお誘いをいただきました。私が思っていたようなことと同じイメージだったことに驚きつつ、答えは「できます! やりたいです!」と即答でした。
 その後、実行委員会の皆さまへの機能提供のプレゼンテーションを経てこの案は採用され、現在では、私も実行委員会の一員としてこの魅力的な営みに参加させていただいております。
 次回開催は春。4月5~23日の3週間に決まりました。ただいま出展社を募集中。3月からは書店員さんの集客活動もスタートします。ここに「一冊!取引所」は、出展社としてだけでなく、機能を提供するサプライヤーとしても参加する形です。このことが、出展各社および書店員さんたちのDX向上につながるよう、いま毎日、時間を確保して準備をしているところです。

変化は、元気。そしてトランキーロ

 ということで、私たちカランタの「一冊!取引所」は、まだ始まって1年も経っていないサービスですが、参加いただいている出版社や書店さんと連携するだけでなく、こういった外部のシステムや取り組みとも連携させていただく流れができつつあります。1年前には想像もできない事態で、とても嬉しいことなのですが、ご指名いただいたからには、当然のごとく期待に応えねばなりません。結果を残さねばと、プレッシャーも感じています。でもこれは、むしろ元気の源になるようなプレッシャーです。ありがたいことです。
 世の中の変化は速く、想像もできないような未来が広がっていると感じます。既存のサービスも変化対応しているし、新手のサービスもどんどん出てくる。だから、私たちも常に変化や挑戦を続けないと、必要とされなくなってしまうという危機感は常に感じています。別に焦って生き急いでいるわけではないです。でも、情報を扱うITの仕事とは、「それが当たり前」なのだろうと思うに至りました。変化変化、です。
 今回ご紹介したような出版界での取り組みを、外部の皆さまとご一緒させていただくなかで、規模の大小や立場の別を超え、元気に変化対応に挑む方々が多くいることを、私は改めて思い知りました。
 そして、日頃より「一冊!取引所」を使ってくださる方々というのもまた、その事実ひとつとっただけでも「進取の気風」に満ちあふれているというか、どの方も前向きな雰囲気を持っていて、素敵なのです。普通にメールのやり取りをするだけでも、その行間から一方的に元気をいただいています。(このことは、一冊!取引所YouTubeチャンネルのライブ配信アーカイブを見ていただけたら、きっと伝わるだろうと思います。)
 いま、この仕事を通して、「(生活をあらゆる面でより良い方向に)変化させる」べく、それぞれの立場で活発に動く方々と協業できることに大きな喜びを感じています。DXよ、ありがとう。
 私はどうにも仕事がうまくないため、毎日、時間に追われ気味なのですが、プロレスラー・内藤哲也選手の「トランキーロ! あっせんなよ!」という決め台詞を胸に秘めつつ。落ち着いて、よく観察して、よく考えつつも、風を感じながらササっとアクションを起こす。そう、試合を変化させるのだ。私が変化だ。私も時代も、良い方向に変化させるのだ。そう思うだけで元気が湧いてくるのであります。
 出版DX、やったるで。現場からは以上です。

一冊!取引所 運営チーム

一冊!取引所 運営チーム
(いっさつとりひきじょ うんえいちーむ)

株式会社カランタが運営する、出版社と書店をつなぐクラウド型受発注サービス「一冊!取引所」。

運営・開発チームの生の声をお届けします。主にカランタの営業・ワタナベが執筆しています。

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