第13回
思い立ったが吉日
2021.05.17更新
「ひびうた」さんが気になった。
皆さんこんにちは。「一冊!取引所」のワタナベです。 さて、いま私はこのシステムを普及させるにあたり、その発起人かつ弊社カランタの取締役でもあるミシマ社代表・三島さんとタッグを組んで、参加検討中の出版社さんとオンライン会議などを行うこともあるのですが、先日その席上、三島さんと先方出版社の代表の方が、「ブックハウスひびうた」さんの話題で盛り上がっておりました。その様子は、盛り上がるというよりも、双方とも大きく感銘を受けているような風情。
聞けば、「ひびうた」さんは三重県津市でコミュニティハウスを運営されており、障がいの有無にかかわらず、さまざまな生きづらさを抱えた人々が集い、それぞれのペースで過ごせる、みんなのための「居場所」をつくる活動をされていると。で、その流れのなかで書籍の販売を始めるにあたって、わざわざ京都のミシマ社と先の出版社・赤々舎さんを訪問され、本を扱う経緯の説明や、そのために「直取引」をさせてほしいというお願いをわざわざしにきてくださったのだそうです。ふたりの会話を聞くだけで、ひびうたさんの丁寧誠実で真摯なスタンスは、私にも響いてきました。
そういえば、すこし前に、こちらの「ひびうた」さんから「一冊!取引所」へもアカウント申請があったのでした。そうか、京都に来てくださっていたのか、だったらそのとき、私もお会いしたかったな・・・。でもそうか。会いたいなら、私が行けばいいだけじゃないか!
「ひびうた」さんに行ってみた。
時はコロナ禍。そういう感覚が鈍りに鈍っていました。営業の仕事を長くやっていながらこの体たらく・・・。しかし、そう思えたなら、話は早い。ちょうど翌々日が祝日だったのをいいことに、ホームページをチェックし、ブログを読み、検温と体調確認を万全にした上で、三重までクルマを走らせ、衝動的に行ってまいりました。こういうとき、「本屋」はありがたいです。アポなどなくても、本屋はだれでも迎え入れてくれるからです。
ひびうたさんに着くと、その木造日本家屋の1階がなにやら賑やかです。ちょうどその日は、感染管理に気を配りながら、楽器のイベントが催されていました。持ち込まれたいろいろな楽器から、とても自由で楽しい音色が空間に響き渡り、参加されている方々の笑顔、真剣な顔、たくさんの表情がその場に満ちていて、私は大きく心が動かされました。こういう空気の振動を味わえるのは、実際にその場に足を運べたからこそです。
そして目的地。本屋のスペースは、家屋の2階にありました。心地よくも凛とした空気がそこには流れていました。背筋を正して、そこに並べられた本と向き合う私。なにせ、ここには一冊たりとも、「勝手に送られてきた本」がないのです。ひびうたさんが、作り手と直接会って、その呼吸を合わせた結果として、目の前の本たちは、いまここに並んでいる。蔵書されている数は、確かに少ない。でも、だからこそ、すごいものを見たというか、本たちからなにか挨拶でもされているような気さえして、実際、「これは読みたいぞ」と心底思える本を4冊、買うことができました。
幸いにして、ひびうた代表の大東さん、ブックハウス担当の村田さんにもご挨拶でき、少し立ち話もさせていただけたのでした。
それほど長く会話をしたわけではありませんし、滞在時間もせいぜい数十分程度。でも、その時間を通して、私は、「一冊!取引所」の目指す方向性のようなもの、あるいは、この仕事をする上で大切にすべきマインドに気づかされたような気がしました。
「ああ、ひびうたさんに行けてよかったなあ。」だれも聞いてなんかいないのに、帰りの車中でそんな独り言が飛び出すくらい、かけがえのない思い出になりました。たった一度きりの今日の出来事を通じて、私の心の中にも、大切な「居場所」がひとつ増えたような気分でした。
工藤先生からメールが届いた。
そうやってまた日常に戻ってきて、目の前の仕事に没頭しておりましたある日、ピローンと音が鳴って、一通のメールが届きました。件名に「工藤です」とあります。「わー」と嬉しくなりました。ミシマガ読者にはおなじみ、『46歳で父になった社会学者』の著者、龍谷大学の工藤保則先生です。ミシマ社時代にお世話になった工藤先生との交流がいまもあることにありがたみを感じながらメールを開くと、文中、「津市のひびうたさんのブログで渡辺さんのお名前を発見しました。」と書かれているではありませんか。
さっそく、ひびうたさんのホームページを見に行きました。すると、訪問した翌日にブログが更新されていたことに気づきました。
「夜明けのうた」と題されたそのエントリーを読むと、
そんな折、元ミシマ社・現カランタの営業部長を務める渡辺佑一さんがわざわざ京都からブックハウスひびうたに来てくださいました。
渡辺さんは一冊!取引所という出版社と書店と読者を結ぶシステムを開発されています。
「ブログを読んでシステムの前に誰のためにという思いが大切ということに改めて気づかされました」とおっしゃっていただき、あぁ、いま挑戦している姿に何かを感じてもらっている!と消えかけていた情熱に火が灯りました。
と書いてありました。確かに、私の名前が。
訪問前、代表の大東さんが、障がい者用グループホームの立ち上げに奔走しながらも、実現のためのタイムリミットや、物件との巡りあわせに苦労を重ねている状況にあることは、ブログの過去記事を読んで知っていました。
ただ、こう、私としては、大東さんのことを応援してます! とかそういう気持ちで言葉をかけた感覚は全くなくって、なんというか、大東さんのブログを読んで、私が実際に「ひびうた」さんを訪ねて、自分の仕事と照らし合わせながら感じた「自分の個人的な気づき、思い」を、むしろ一方的に吐露しただだけで。そんな吐露を笑顔で受け止めてくださり、お忙しいところスミマセンといった感じだったのですが、なんと「消えかけていた情熱に火が灯りました。」とか、そんな風に聞いてくださっていたとは・・・。
私も、このエントリーを読めたことで、また大切な何かに気づかされたのです。そして、工藤先生、ありがとうございます。メールをくださり、とてもとても嬉しかったです。
目の前の一人から、居場所をつくる
「目の前の一人から、居場所をつくる」。これは、ひびうたさんが事業に取り組むにあたって掲げているテーマです。そのことばを私なりに受け止めつつ、では、「一冊!取引所」という場は、はたしてどういう場でありたいか・・・、てなことを思うわけですが、考えるほどに、ここは「単なるシステム」ではなく、「血の通ったシステム」であらねばならないと思うに至ります。ユーザーとともに作り上げる「自分たちのシステム」を標榜する「一冊!取引所」ですから、なおのこと。
そして、これから「居場所をつくる」ことを志す人たちに対して、しっかり「実務の面で貢献できるようなシステム」でもありたいと、改めて思いました。実際にご利用いただくひびうたさんのような方々に喜んでいただけるようなシステム。
あるいは「本」というパッケージそのものがすでにそうだと思うのですが、「本こそが、誰かの居場所そのものになりえる存在だ」ということにも気づきました。だから、ひびうたさんは「ブックハウスひびうた」を始めたのだろうし、そこを始めるにあたって、目の前の一人から、一人ずつ、一社ずつ、ドアをノックしていったという。
つまり大事なのは、その「誰か」というやつを、ふわっとした「誰か」として想定せず、「目の前の一人」から考えていく。そういうスタンス。運営や普及を担う私にとっては、忙しいときほど、これは忘れずにいたいスタンスです。
ということで、今回、思い立つままに行動してみたら、「当たり前だけどとても大切なこと」に改めて気づくことができました。とにかく、嬉しく楽しく、素敵なできごとで、気持ちもフレッシュになりましたよ。
「思い立ったが吉日」とはよく言ったもので。現場からは以上です。
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