第15回
人間は一人では生きられない。
2021.07.29更新
ホームページの御相談
皆さんこんにちは。株式会社カランタのワタナベです。梅雨が明けて暑い夏がやってきました。皆さまいかがお過ごしでしょうか。一冊!取引所は、参加出版社が80社を超え、参加書店も800店を突破しました。ありがとうございます。
さて、このところ、「一冊!取引所」の運営業務を通じて出会った出版社の方から、「ホームページの御相談」をいただく機会が増えてきました。ウェブサイトは、会社にとって外に開かれた「顔」となりえる存在です。そのような大切な場をどう構築するかについては、会社の規模ややりたいことによって、お困りごとも様々。先日も、そんな「個別のお悩み」を持った方からの御相談に、ウェブ制作の実務に詳しい知識を持った代表の蓑原からアドバイスをさせていただく、ということがありました。私もその打ち合わせに同席しました。
その方は、いわゆる「ひとり出版社」を立ち上げ、近々、創業第一弾の書籍刊行を控えています。その制作も佳境を迎えるなか、並行してウェブサイトも立ち上げなければならない状況でした。いろいろ調べてはみたものの、あまりにも不明な点が多いとのことで、御相談をいただきました。2回にわたる打ち合わせの結果、ウェブ構築のわからなかった点がイメージを伴った形で理解いただけたようでした。お困りごとが解決できて、こちらも相談に乗れて嬉しかったです。
本にむすうのうつくしさを。
ところで、「わからなかった点がイメージを伴った形で理解」といえば、私もまったく同じ体験をしたのでした。この打ち合わせの機会をいただけたことで、運営担当として、その出版社さんが目指すところがよくわかったのです。先にも書きましたが、ウェブサイトは、会社にとって外に開かれた「顔」となりえる存在。その内容について考えるという行為は、その会社の存在意義を考えることと同一といっていいかもしれません。それ以前もこの方とは、「一冊!取引所」へのご参加を検討いただくにあたり、オンラインで打ち合わせを実施していましたし、SNSへの投稿も拝見していたので、知ったつもりにはなっていました。しかし今回、ウェブサイトのお悩み相談を伺うに至り、その方がどういった思いや考えを大切にして、出版の仕事にひとり立ち向かうことを志したのか、ようやく理解することができた、ような気がしたのです。
以下に、打ち合わせの際にお預かりしたメモから、その思いをご紹介いたします。
■人々舎のスローガン
「本にむすうのうつくしさを。」
■「本」に対する考え方
・本には「世界(多様な存在)」が詰まっている。本は世界とつながる扉
・本を読むこと(ページをめくる行為)は身体に働きかける行為
・自分の感情に向き合う行為。それは自分の主体を取り戻す行為でもある
■「世界」に対する考え方
・世界はむすうの個人(多様な存在)で構成されている。だから人間は一人では生きられない。
・しかし、世界は人間存在には平等であるが、不公平である。個人と関係なく存在している。
・よって、世界は個人を尊重しない。個人の事情とは関係なく世界は回り続ける。
人間は一人では生きられない。
このような想いを掲げてひとり出版社「人々舎」を立ち上げた樋口聡さん。ホームページはただいま準備中ですが、「一冊!取引所」の出版社紹介ページからロゴ画像や刊行第一弾『愛と差別と友情とLGBTQ+』の書籍詳細リンクなどアクセスが可能です。あと、ブログ「出版社立ち上げ(た)日記」も始められて、そこには「なぜ出版社を立ち上げることにしたのか」については、「結論から書きますと、理由はありません。」続けて、「理由はない、というか、こうなってしまった、という方が正しい表現な気がします。」と綴られており、それはそれで共感を覚えていたのですが(しかも、樋口さんは自分とおない年で今年45歳という)。ですが、ここだけ切り取ってしまうと若干アナーキー感があるため、皆さまにはぜひ上記リンク先のブログ記事「人々舎のはじまり」をあわせてお読みいただきたいですけれども、ここで強調しておきたいのは、樋口さんがオンラインの画面越しに人々舎のスローガンを伝えてくれて、説明してくれたときに私が覚えた感動のようなものです。そのとき感じた喜びのようなものを原動力に、メモを見返しながら、いまこの記事を書いています。
ちょっと個人的な話をさせていただくと、このところ、あまりにもうんざりするようなニュース・伝聞が多くて(それが何かはここでは申しませんが)、分断を暗に意図し、そこに無自覚な発言がぶり返され、私はパソコンのようにシャットダウンができるのならしばらくそうしたいくらい、個人的に「敗北感」のようなものがすごかったんです。もう、どうしようもないような感覚です。
しかし、先のメモにもあるような樋口さんの考え方を当てはめるならば。そんな「自分の感情に向き合う行為」としての「本」であり、「自分の主体を取り戻す行為」としての「本」であるならば。その「本」を扱う現場である「書店」と「出版社」をつなぐ「一冊!取引所」には道があるように思えてくる。感覚に付き合いすぎず、敗北感があろうが、その逆に優越感? マウント? みたいな邪を示すような気が現れようが、惑わされることなく「そこにうつくしさはあるのかい?」と、自らが立ち上げるそのふるまいを点検してみたらいい。
「世界はむすうの個人(多様な存在)で構成されている。だから人間は一人では生きられない。」というのは希望でしかないと思います。世界は個人を尊重しないかもしれないが、私は世界を尊重しようと思う。今回、人々舎さんが頼ってくださって、そのことを通じて私は人知れず救われたのでした。本の近くにいるといいことがあるなあ。「一冊!取引所」もがんばります。現場からは以上です。
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※特設サイトの構築を株式会社カランタが担当しています。