復活!ミシマガジン

第2回

僕たちの世代 光嶋裕介×後藤正文×三島邦弘(2)

2018.09.24更新

 20184月にリニューアル創刊した「みんなのミシマガジン」。システムの関係上、これまでの記事は見られなくなってしまったのですが、「あの連載がどうしても見たい」という声がとても多く、そのリクエストにお応えして一部を復活させよう! というのがこの「復活ミシマガジン」のコーナーです。

 第2回目の今回は・・・2018年10月19日に、日本のロックバンドASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル&ギターを務めるゴッチこと後藤正文さんの新刊『凍った脳みそ』が発売されることを記念して、「旧みんなのミシマガジン」の中から、後藤正文さん、建築家の光嶋裕介さん、ミシマ社代表三島邦弘による鼎談の記事をお届けします。

 新刊の発売が待ちきれない! という方、まずは後藤正文さんの既刊『何度でもオールライトと歌え』(ミシマ社)を何度も読んで、ゴッチの文体をたっぷりと堪能してください!

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『何度でもオールライトと歌え』後藤正文(ミシマ社)

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※本記事は、「旧みんなのミシマガジン」にて、2014年5月19日〜21日に掲載されたものです。

 どうしても話をうかがいたい人がいた。アジアン・カンフー・ジェネレーションの後藤正文氏。自費で発行するフリーペーパーの編集長も務めている。そこに掲載されている言葉の数々に、ほってはおけない熱を感じた。たとえば0号(創刊準備号)の冒頭――。

僕が知らない間に
いや、知らないふりをしている間に なんだか不味いことになっていた
ひどくこんがらがって 自分で自分を縛っているような
そんな社会になってしまった

 まさに同時代に生きる人。そう思った。たとえ同じ時代に生きていても、同時代感覚をすべての人と共有できるわけではない。同じ時代を生きることと、同時代感覚をもつということは別の話だ。その意味で、後藤さんは自分にとって、まさに同時代感覚の持ち主だった。

 今回、「僕たちの世代」という特集のなかで、音楽、建築の世界で活躍中の同世代のお二人と話しあいました。「この時代における音楽、建築、出版そして表現とは?」その役割、意味、展望・希望・・・さまざまな角度から「僕たちの世代」が浮かびあがってきたように思います。場所は、光嶋裕介さんが設計された内田樹先生のご自宅兼道場「凱風館」(兵庫県住吉)。

 当日蓋をあけると、内田先生、釈撤宗先生が「聴衆」というなんとも驚きの環境で開催されたことをひとこと付け加えておきます。大先輩方の前で、私たちはいったい何を話したのでしょう?

(構成・写真:新居未希、構成補助:赤穴千恵)

「設定を下に合わせると、まずいんじゃないかなあと思う」(光嶋)

三島 僕は、一冊の本が単に暇つぶし的に面白かったらどうかってだけじゃなくて、紙の本の表紙に触れただけでなんか変わったとか、自分の身体性が一秒前と違うところにいったとか、そういったことも含めて編集をしたいなと思ってるんです。

光嶋 僕も、身体性や社会、地域、場所といった中で、その場所にしか可能でない建築の可能性を信じて作りたいと思っています。幻想に近いかもしれないけれどね。

後藤 みんなそれぞれ、自分の現場を大切にしていけばいいんですよね。

光嶋 それぞれが、状況に応じてどうしていけばいいかってことも、考えなければならないような気もしますけどね。

後藤 内田樹先生も仰られてますけど、今は考え方の射程が短いんだと思います。ものすごく短い。だから1000年も2000年も残っている建物にわけわからないサインをつけたり、クレームきたからとりあえず看板つけたり、明らかに趣きなんてない。ここから入らないようにコーンをたてたりとか・・・消費と向き合いすぎなんじゃないかなと思うんですよね。

光嶋 どこかで上から目線だけど、消費者側にまで降りてきているというかね。

三島 うんうん。

光嶋 アメリカで暮らしていたとき、家族でグランドキャニオンに行って兄貴が落ちそうになったことがあって。日本だったらグランドキャニオンみたいな危険なところにフェンスをつけるだろうなーとふと思いました。だけど、フェンスをつけた瞬間にそれはまったく違うものになる。日本は責任を負いたくないから、フェンスをつけて、「登ったらあなたの責任ですよ」というふうにしますよね。けど、そうして設定を下に合わせるとまずいんじゃないかなぁ。

三島 出版も、「わかりやすくしすぎない」ほうがいいと思います。今はわからなくともこの本を手にとってくれている方はきっといつかわかるはず。そんなふうに信じて編集したい。

後藤 ほんとそう思います。

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「みんなが消費の対価を求めすぎている」(後藤)

後藤 「The Future Times」を無料で配布しているのも、そういうところの意味があるんです。お金を払うと、みんな文句を言い出しますから。10円でも100円でもお金払って買ったら、「誤字がある」「100円払ったのに」とか、すぐにクレームがくると思います。

光嶋 その消費マインドの価値観を外してるってことなんですね。

後藤 「俺は言いたいことを書くだけだから、対価はいりません」と。そのかわり、売ってほしいとか送ってほしいと言われても、対応しない。「自分で探しに行ってください」って言ってます。もちろん配ってくださる人には「来てくださった方にお願いします」とつながって、そこからやり取りしていますけどね。でもそれって抗わないと、大変なことになる気がするんですよね。

三島 ほんとそうだと思います。

光嶋 今の社会のそういう部分というか・・・。

後藤 ちょっとしたクレーマーに対応しすぎなんじゃないかと思います。『裸足のゲン』が図書館で閉架になっていくのも、ほんとに数人の人が何回も電話したんだと思うんです。それで閉架になるっておかしいですよ。事なかれ主義というか。

三島 あらかじめ芽をつんでおく。

光嶋 そういう構造が働いちゃうんですね。

後藤 みんな、責任をとりたくないんでしょうね。逆に、責任をとれる人がいる現場はおもしろいものができている気もします。でもやっぱり、みんなが消費の対価を求めすぎているような気がするんです。

三島 うんうん。

後藤 内田先生と釈先生のおっしゃる「贈与」と「お布施」って、ここ何年か思っていた違和感を表してくれた言葉なんですよね。「あ、渡していけばいいんだな」と。自分が場をつくろうとするのも、そういったことに関連していて。おもしろくないんだったら自分がおもしろくしよう、と。自分が動くことで仕事になるということは、すごいことだと思うんです。

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「自分に渡すバトンがあるかと問われると、ちょっとドキっとしちゃう」(後藤)

後藤 僕はOasisの「Live forever」に感動して、永遠に自分の作品が残ることに憧れてバンドを始めたんです。けど、最近はどうでもよくなっている感じがします。それは売れたからだって若いミュージシャンに言われたら、そうかもしれないねとしか答えられないけれど・・・でもそんな野心はなくなった気がしますね。「どうせ死ぬじゃん、死んでからほめられてもなぁ」って(笑)。まぁ、死んでから褒められるのをわかってほしいって願望もありますけどね。

光嶋 自分の葬式で、弔辞とか聞きたいですよね(笑)。

後藤 そうそう(笑)。どうしてもやっぱり、いつかは自分の身体も朽ち果ててなくなると考えると、自分の名前を残すことよりも、どうやって次の世代に渡していくかってことに目がいくというか。

光嶋 どうやって、そして何を渡すか、ですよね。

後藤 最近は、受け取ることにも敏感にならなきゃいけないと思っているんです。自分に渡すバトンがあるかと問われると、ちょっとドキっとしちゃうっていうか・・・。

三島 うんうん。

後藤 僕は渡す気満々だけど、何も持っていない可能性もある。「贈与」や「お布施」の考え方は素晴らしいけれど、そこだけを近視眼的に見ると、「あなた何も渡すもの持ってないですよ」って言われちゃうとショックだな。だからそこは意識的にしていないといけないですね。

光嶋 この前映画監督の西川美和さんとトークイベントでお話ししたんですが、西川監督は広島の原爆を体験した叔父の手記をもとに『その日東京駅五時二十五分発』という小説を書かれたそうなんです。叔父とはまた違った形で、光を当てることができた。それって素晴らしいですよね。受け取るということは特別なシグナルに自分のセンサーが反応しなければいけないし、受け取ったものを違った形で渡せる能力も必要だなと感じました。

三島 音楽も建築もそうですが、出版・編集はとくにそうかなと最近思いますね。

後藤 編集って行為はすごく大事だと思います。

光嶋 ものづくりに携わるかぎりは、なにか受け継いでいく方法に意識的でありたいですよね。

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「わからないながらも、手探りで進む」(三島)

後藤 僕らがやっていることは、結局全部編集なんじゃないかなという気もしているんです。いろいろなことを自分で咀嚼して、編集して、アウトプットしている。

光嶋 それができるのは、時間の横軸に対する意識があるかどうかだとも思うんですよね。僕の場合、衣食住に寄り添いながら、何か作り続けることによってたどり着ける境地があると信じてやっていきたいとは思ってます。建築のことを文学やアート、映画を通してたくさんのチャンネルから考えたいんです。

後藤 たしかにそうですね、自分探しというよりは、己を磨かないといけないなというのはある。自分とは何かを、考えている暇はあまりないんですよね。勉強してアウトプットするときに、初めて技術がでてくる。

光嶋 そうそう、その場所に行ったときにどれだけ反応できるか、単体ではありえないと思うんです。

後藤 勉強と技術は相関関係にあるので、どちらもおろそかにできない。それと同じで、受け取ることと渡すことは、どちらも意識しないと成り立たない気がします。

三島 うんうん。単純明快ではないものがそこにはありますよね。

光嶋 単純明快じゃないってことは、常に受け手と渡し手の間のコミュニケーションのなかのディスコミュニケーションがあるってことですよね。10渡して10受けとるってことはなくて、どこかで通じてない部分がある。

後藤 わからないことはいいことだと思います。みんなわかりあえたら、こういう話の場がなくなりますからね。わからないから話したり考えたり、いい誤解とか膨らんでいくものもあるから。

三島 そうですね。わからないながらも手探りで進んでいかなければいけないですよね。

(終)

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編集部からのお知らせ

後藤正文さんの新刊『凍った脳みそ』を発刊します

後藤正文さんによる「みんなのミシマガジン」の大人気連載、「凍った脳みそ」がついに一冊の本になります。発売日は2018年10月19日。どうぞお楽しみに!

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