第7回
細川貂々さんとツレさんに聞く! 電車と子育て
2019.03.03更新
2月は一瞬で過ぎ去り早くも3月。徐々に暖かくなり、そろそろお出かけしようかな〜と思いはじめる今日このごろです。そんな今の季節にぴったりの記事を、旧ミシマガジンより再掲載いたします。実はこの記事、ミシマガジンが2018年の4月にリニューアルしたため、1週間ちょっとしかあがっていなかった幻の記事。レイアウトも新しくなった新ミシマガジンでお届けいたします!
※本記事は、「旧みんなのミシマガジン」にて、2018年3月20日〜3月21日に掲載されたものです。
『日帰り旅行は電車に乗って 関西編』細川貂々(ミシマ社)
2018年3月17日(土)、細川貂々さんのコミックエッセイ『日帰り旅行は電車に乗って 関西編』が刊行になりました!
貂々さんと、パートナーのツレさん、そして小学生の息子さん・ちーと君と繰り広げる、日帰りで行ける場所への電車旅行。目的地を決めずとも、電車に乗れば見知らぬ街へ連れて行ってくれる。一歩外へ出るとこんなに楽しみが転がってるんだなぁと気づかせてくれます。
旅を通して垣間見える、息子さんの成長も沁みる。あたたかな気持ちになる一冊です!
ミシマガジンでの連載「関西は電車に乗って」をまとめて再構成し、沿線情報や地図なども盛り込んだボリュームたっぷりな本書は、春先に思わずどこかへ出かけたくなる心地よさに満ちています。
「電車って、詳しくないしな〜」という方も無問題。なにしろ貂々さんもツレさんも、まったく電車好きなわけではなかったんです!
それがどうして、電車旅行の本を出すまでに? 電車の話や、子育ての話を、貂々さんとツレさんに伺いました。
前編は、電車の話を中心に伺いました。
(聞き手・構成・写真:新居未希、構成補助:國島知美)
電車はただの「乗る道具」だと思ってた
―― お二人はもともと、電車に乗るのがお好きだったのですか。
細川貂々(以下、貂々)とくに好きじゃなかったよね。
ツレ 子どもの頃のことはいざ知らず、大人になってからは本当に道具として電車に乗るだけでした。朝晩のラッシュアワーにしか乗らなかったので、電車に対して趣味的な目で眺めたことはなかったです。単なる便利な道具、郵便ポストみたいな。ポストにただ手紙を入れるだけで、何々型があるとかこんな改良がされているとか考えないのと同じ。電車というものに対しての愛着は全然なかったですね。
―― ツレさんは、サラリーマン時代に通勤で電車に乗っていたんですよね?
ツレ そうですね。会社員だったとき、電車で通勤してました。その後うつ病になるんですが、病気になった後は、電車恐怖症じゃないですけど、電車に乗れなくなってしまった時期もあって。
貂々 満員電車とか、人の混みようがひどかったからね。
ツレ とにかく混んでいる電車が怖かったり、吊革につかまって移動するのが嫌だったり。どこでも歩いて行きたかったです。車も乗らないですし。
貂々 私は乗り物酔いするタイプなので、電車はあまり好きじゃなかったんですよ。実家(埼玉)にいたとき、たまに打ち合わせなどで電車(高崎線)に乗って東京に行ってたんですけど、毎回酔ってしまって。
ツレ 高崎線はほら、アレだからね......。
貂々 そう、今だからわかるんですけど、もとは貨物専用の線路だったものを使っているのでとにかく揺れるんですよ。1時間以上乗っていないといけなかったので、必ず酔っちゃってました。いい思い出がないんですよね。
息子といると、電車が顔に見えてきた
―― お二人がそんなに電車が好きではなかったなかで、息子さんのちーと君は、何をきっかけに電車が好きになったんですか?
ツレ 電車に初めて乗せたのは、生まれて半年ぐらい経ったときかな。友達の結婚式があるから東京に行かなきゃいけなくなって。急に長い時間を乗るのは辛かろうと、短い距離で予行演習することにしたんです。で、乗せてみたら、とにかく周りを見回したりして喜んだ。それがスタートですね。
そのときはいろんなことに興味を持ち始めていたので、「電車が好きなんだな」というぐらいの認識でしたけど、しゃべりはじめたら電車の音マネをするようになったり。あと、保育園が駅の前にあったんですけど、保育園に行くたびに電車に乗りたがって。時にはサボって総武線に乗せたりしてました。
貂々 そうだったんだ。初めて知った(笑)。
電車関係の物を見せるとぐずってても泣き止むので、それで本見せたりテレビ見せたりしてたんですよね。
ツレ 息子が「これは何々系」とか言っているのを聞いて、僕自身、初めて「車両に違いがあるんだ」というのに気がついたんです。
ちょうどそのとき、息子が「ぶらり途中下車の旅」を見て京浜急行を好きになって。ちょっと懐かしかったんですよ、子どもの頃に乗ってたんで。連れて行ったら、自分も京急が好きで、たまに乗せてもらうとしがみついて乗っていたような子だったことを思い出しました。すこし子どもの気持ちがわかったというか。
貂々 私も、「何々系」って電車にも番号が付いているということをちーと君に教えてもらったのが意識したはじめです。どこが違うんだって聞いたら、ライトだとかいろいろ教えてくれて。よく見たら「アッ、ほんとだ」って。それでだんだん違いを意識するようになりました。そしたら、自分が何にも考えずに乗っていた電車は、こんなにもそれぞれ個性があるんだっていうのがすごく面白くなってしまったんですよね。
ツレ 顔に見えてくるんだよね。それまで電車は電車だとしか見ていなかったのが、息子と一緒に見ると、顔がついているんですよ。
貂々 そう、なんか生き物っぽく見えて、かわいいとか思ったりして。
ツレ 怖い顔のもいるよね。
貂々 うん、虫みたいな顔だとか。そういうふうに、違いがわかってくるとどんどん面白くなっていきました。
阪神電車への想いを語る息子さん・ちーと君。かわゆい
ハマりすぎて、息子をゲームで釣ることも
―― でもこれまでのお話を聞いてから本を読むと、やっぱりだんだんちーと君が電車離れしてきているような......。
子鉄(鉄道好きの子ども)だったちーと君も小学3年生になり、衝撃の発言が...
ツレ 小学校入ってからですかね。「妖怪ウォッチ」を観るようになってから......。
貂々 でもそれでも、1年生のときは「青春18切符の旅」とか一緒にやってたよね。2年生のときも(※ちーと君はいま4年生)。
ツレ でもだんだん動機が不純になってきたよ。電車でやる用にゲームを買ってほしいと言うわけですよ。子どもは、東京まで新幹線で往復1万5千円。でも18切符で行けば5千円しない。1万円浮くやろ、それを半分こしたらどうや、って言うと、「5千円もらえるのか。ゲームが買える、行く!」って。
―― ゲームで釣ってるじゃないですか(笑)。はじめはちーと君が電車好きだったけれど、その影響でツレさんが本気になったと。
ツレ そう、実働部隊ですからね、こっちは。実際に計画をたててお金を払ってっていう決定権はすべてこちらにあるから、詳しくないといけないので、つい。
貂々 ツレが、「50歳の誕生日プレゼントは、一人で18切符の旅をさせてくれ」っていうことだったので、行かせましたよ(笑)。
ツレ 行ってきました。
―― 相当ハマられてますね(笑)。
手が届かないと思ってた夢が、叶った!
―― 『日帰り旅行は電車に乗って』では、本当にいろんな電車に乗っていますよね。たくさん乗ってみていかがでしたか?
貂々 関東から引っ越してきて、関西の地理がまだよくわかっていなかったんですけど、それがわかるようになったのが大きいです。何がどこにあるか、奈良はどの辺だとか琵琶湖はどこにあるとかが、電車に乗っていくことでみんなわかるようになったので。
―― 私も地理に関して、実感を持って「これはここなんだ」っていうのがわかるようになったのが嬉しかったです。
貂々 神戸電鉄の三木駅で火事があったじゃないですか(2018年3月4日)。ああ、あの辺にあった駅が! ってすぐにわかった。
―― そう、なんか他人事じゃなくなる感じがします。
貂々 東京にいたときは、関西の電車って手が届かないというか、縁がないなって思っていたんです。でもプラレールの本とか見ていると、私鉄はカラフルだし、どう見ても関西の電車のほうが面白そうだった。東京の子どもたちはみんな憧れているんですよ。私たちもいいなあと言っていて。関西に来てみんな乗れたので、満足というか、夢がかなったねという感じでした。
ツレ 本当に関西の私鉄はカラフルなんですよね。アルミニウムじゃなくてきちんと塗ってあるきれいな私鉄で、子どもにも優しくて乗りやすい。思い描いていた通りでしたね。
ツレさんセレクトの電車もいろいろ登場!
子どもは親の行動を怖いくらいよく見てる
―― この本は電車でおでかけという面だけでなく、息子さん・ちーと君の成長も見どころです。ツレさんがご病気になられた後、ちーと君が生まれて。はじめからツレさんが専業主夫だったんですよね?
ツレ はい、僕がメインでちーと君のお世話などをしています。
―― ちーと君はすごく伸び伸びしていて、自然体な男の子ですよね。お二人の間で子育てに関して決めていることや、意識していることがあれば教えてください。
ツレ やっぱりね、僕らと似ていて、似た性格を持ってるんです。たとえば僕ら二人とも、時間のプレッシャーにすごく弱い。締切とか。待ち合わせも、必ず前もって着くぐらいの時間じゃないと安心できないんです。焦るとうまくいかない。そこがあまりにも僕らと同じで。そういう意味ではのんびりしてなくて、すごく気にしちゃう。時刻表見ながらすごく時間を気にするんで、電車には向いているんですけど(笑)。
目覚まし時計を一個渡したら、自分で自由自在に時間をセットするようになりまして。今すごい早起きしてるんですよ。
貂々 この間なんか、朝4時半に起きてポケモンの映画を観てたんです。
ツレ 学校で言われる、「夜更かししてテレビを観るのは悪いことだ」っていうのと、「早起きは良いことだ」っていうのがくっついちゃって、「早起きしてテレビを観るのはいいんだ」となったらしい。そういう、時間に関しての変なプレッシャーがありますね。とくに教えたわけでもないのに。でも見てるのかな、親の行動を。
貂々 そう、すごく見てるんですよ。それですごく記憶しているから怖いんですけど。
ツレ あと、今はゲームに夢中。学校からは「1時間しかさせないでください」って言われるんですけど、僕もゲームが好きだったのでやりたい気持ちもわかる。だから、息子には学校では1時間まで言われてるってことだけ伝えて、あとは自分で考えてやらせるようにしてますね。
貂々 でもちゃんと自分で考えてやっているよね。
ツレ 今の時代、僕らにはわからない誘惑がいっぱいあると思う。でも、それらを自分でコントロールできるようになるといいなと思って見ています。たまに失敗もするけどそのたびに改善して、親の世代にはわからない機械との付き合い方を見つけてくれるといいなと。
貂々 あ、でもネットにはまだつなげていないね。
ツレ 子ども用のSNSみたいなのがあって、一時期それにつないでいたんです。そしたらもう、人に言われたことをものすごく気にするようになっちゃって。「友達が(SNSで)待ってるから」と言いだしたり。あと、無料のゲームを「タダだから」って何個もダウンロードするんですけど、やっぱり一部は課金があるじゃないですか。プリペイドカードもあっという間に使ってしまう。だから、ネット接続はなしにしました。まだ早かったかな。
悪い大人が仕掛けてくる罠に対して、どのように自分をコントロールするかっていうのは大事ですよね。でも逃げてるだけじゃだめで、大人になってからでもそういう罠ってあるじゃないですか。それに対抗できる力をつけなきゃいけないと思います。
苦手な部分を克服しろとはなかなか言えない
貂々 私が気をつけているのは、褒めることですね。本人が「今日は失敗したんだ」って言っても褒めてあげるように気をつけています。
ツレ そうだね。褒めるというか、素直に関心したり感動したら、それを言葉にして伝えないとダメだっていうのは思います。
息子は、スポーツは出来ないって自分で決めているみたいなんですよ。実際できないんですけど、でも運動神経が悪いということでもなくて。反対に得意と思っていることもあるんです、たぶん。苦手な部分を克服しろとはなかなか言えないのが僕らの、ね。僕自身うつ病になったり、てんさんにも苦手なことは今もある。「好きなことばかりやってるとダメ人間になっちゃうよ!」って言ったあとに、あ、パパはダメ人間だ......って自分で落ち込むんです(笑)。
貂々 子どもに習いごとをやらせるときに、泳げたほうがいいとか、スポーツをやると体力が付くからいいとか、そろばんやらせたほうが脳が活性化するとか......いろいろ理由があると思うんですけど、うちは「やってみる?」って聞いて「いや」って言ったらやらせないです。
ツレ そう、好きなことをやってほしいから、嫌だと思ったらやめさせちゃう。不得意なことを克服するっていう感覚はあまりなくて。不得意なことを無理にやっても、みんなの中でみじめな感じになるだけだからなーという気持ちがあります。
貂々 自分が好きで、それでもやりたいって言うんならいいんです。けど、周りがやっているし泳げるほうがいいから、とかだとちょっとね。
ツレ 何か得意なことが隠れているかもしれないから、いろんなことをやらせるっていう考え方もあると思う。でもそれは難しいところだなあ。縁がなかったことはもともと得意ではなかったと考えてもいいだろうし。
貂々 なんでもできるのがいいってわけではないですからね。
ツレ そう、不得意なことを克服する時間っていうのは、なんか一番大切なことではない気がするんですよね。好きなことを伸ばしたら10も20もいくのに、不得意なことを克服して-1を0にしたって、なんか勿体ない気がするんです。
父親にツッコミを入れられるように
―― これから、いまはまだ小学4年生のちーと君が大きくなって、きっと反抗期を迎えるようになりますよね。
ツレ そう、でも大事なことですよね。親が誘っても旅行に行かなくなる時期ってあるじゃないですか。はじめは無理やり連れて行くんですけど、それでも「嫌だ」って反抗して、家族で旅行に行かなくなる時期。それ、いつぐらいだった?
貂々 うちはそんなに。女の子はけっこう行くよ。
ツレ そうか、行くんだ。僕は小学校5年生のときから反抗しだして、6年生のときには行かなくなったな。行っても、旅行中すごくつまらなそうな顔をしたり。
貂々 いやな子どもだなあ(笑)。
ツレ でもちーと君もすでにそんな感じだったじゃない。だからこの本でいろんな電車に乗りながらも、一緒に旅行に行けなくなる時期が小学生のうちに来るかもしれないなって思ってました。
でもうちは最後の切り札で、「仕事だから行くよ」って言うと行くんです。ただ、まだ今のところは仕事っていうと抵抗しないけど、それもそのうち通用しなくなるよね。ハハの仕事はハハの仕事なんだから、自分は関係ないってね。
貂々 それはそれでいいんだよ。ちーと君に、どんなふうに育ってほしいですか。
ツレ 「オースティンパワーズ」に出てくるスコットだね! 彼は父親に「お前は中途半端なワルだ」とか言われているんですけど、でも負けずに父親に対して突っ込んでいるんです。
貂々 そう、偉そうにいろいろ言うわけですよ。そんなふうに、パパに対してツッコミを入れられるようになるといいなって。「そういうお前はなんなんだ」って。
ツレ そうだねぇ、スコット君みたいに、父親がいろいろ言っててもそこにちゃちゃを入れてほしいな。
貂々 今は「パパは頭がいいから僕にはかなわない」という感じなんですけど、そんなことないんだよって見抜いてほしいです。
取材で資料用に撮影した写真を、一部特別公開!
みんな大好き「生駒ケーブル」のブル号。猫のミケ号もいます。
右のほうにいるのが息子さんのちーと君。
取材中はよくうどんを食べました。なぜなら、ちーと君の好物だから...。
これは絹延橋にある「うどん研究所」さんのなめこおろしうどん。
阪堺電車はレトロな路面電車なんですが、まさかの最新版に遭遇。トラムみたい。