第16回
周防大島に「宮田さん」を訪ねる。
2020.02.21更新
先日のミシマガジンでもお伝えしましたが、明日より渋谷パルコで開催する、ほぼ日の学校Presents「本屋さん、あつまる。」にミシマ社の本屋さんが出店いたします。(詳細はこちら)。こちらの記事にも書いた通り、今回、会場では周防大島の農産物やはちみつ、ジュースを販売いたします。『ミシマ社の雑誌 ちゃぶ台』が生まれるきっかけとなった周防大島。そのなかでも誰よりも愛をもって日々、畑、そして土と向き合っているのが農家の宮田さんです。今回のイベント会場では「みやた農園」のトマトジュースをご用意してくださる宮田さんが、日々どういう思いで野菜を育てているのかを知っていただければと、2016年にしたインタビューを本日の「復活ミシマガジン」で掲載いたします。
「本屋さん、あつまる。」
たのしい本屋さんが渋谷PARCOにやってきた!
期間 2020年2月22日(土) -2020年2月24日(月)
場所 渋谷パルコ8F・ほぼ日曜日 (アクセス)
時間 10:00〜21:00
入場料 無料
※本記事は、「旧みんなのミシマガジン」にて、2016年5月30日〜5月31日に掲載されたものです。
小豆島、淡路島につぐ、瀬戸内海三番目の大きな島。人口約1万8千人。
本州からは1976年に大橋が通り、車で行き来できるように。宮本常一の故郷としても有名で、最近ではジャムズガーデンが大人気。・・・という入門的情報すら、昨年の春までまったく知りませんでした。
ところが昨秋、ミシマ社初の雑誌『ちゃぶ台』で特集したテーマが「移住」。で、その舞台が周防大島でした。
偶然としかいいようのない出会いが重なり、すっかり「島」に魅了され、結果、雑誌まで創刊(そのあたりの詳細は『ちゃぶ台』をご覧いただければ嬉しいです)。
そのなかで、「土を愛するあまり、土を食べる」という噂まで聞こえてくる農家さん・宮田さんとの出会いについてもレポートしています。
「土本来の力で育てるという農業をしたいんです。」
生きた土。その上に立つ宮田さんの笑顔がいきいきとするのも、実に自然という以外にない。素人である私にも、その土地の美しさは、一目でわかった。(『ちゃぶ台』p102-103)
そのとき持ち帰ったネギの美味しさは、いまも忘れられません。素朴な味のなかに、何層にもわたる滋味が嚙むたび溢れ出てくるのです。手間暇を惜しまない、農家さんの愛情というほかない豊かな味。「命をいただいている」。身体の内側から、自然とそんな声が響いてきたのでした。
ひょんなことから、今年度のミシマガ・ゴールドサポーターの方々に、年に一度、この宮田さんのお野菜をお届けできることになりました(その経緯は、双方の勘違いから始まったのですが、実に滑稽で愉快な話です。いつかそのこともご報告したいですが今は先に進みます)。
今回、そんな愛してやまない宮田さんの野菜が生まれる農地へと赴きました。昨年、私が訪れた農地とは違う畑を見せていただきながら、「伝説の農家さん」(と私たちが一方的に呼ぶ)宮田さんにゆっくりお話をうかがってきました。
周防大島に「宮田さん」を訪ねる。
藪になった放棄地を開墾するところから始めました。
―― 本当にきれいな畑ですよね。
宮田 ありがとうございます。
―― ここも機械を使わずに開墾されたのですか?
宮田 ええ。ここも草と灌木、それと葦が。放棄地だったので、葦がぶわーと、10メートルくらいの塊になっとって、それは厳しかったですね。灌木も100本近く伐採しました。
刈ったのは1カ月もかからんくらいで、灌木とか全部刈って燃やして、畑の形にはなったんですけど。そこから、畝立てをするのに時間がかかりました。
スコップで溝を掘って、水を切って、野菜を植える畝に上げていくんです。蒲鉾状の畝に。ですけど、ここはなかなか土が硬くてですね。それからいろんな根っこがですね。
(近くで聞いていた農家の)村上さん 根っこはやばいですね。葦の根っこってすごい深くて、たぶん2メートルくらいの穴になります。たぶん宮田さんは周りを全部手で掘られて、根を切りながらやってらしたんかなと。
宮田 まあ不耕起(収穫後、耕さずに次の種を播く)なので、溝のとこだけはやっぱりスコップでざくざくざくって切れ目を入れて(笑)。
村上 想像しただけで吐きそうですね
宮田 葦の根っこはですね、まだいいんですけど、藤葛ですね。藤葛が一番ねばい、ええ。あとですね、くずのかずら、くずの根っこもそうなんですけど。
意外とサクッといったのが、野バラの根っこですね。あれが硬いんですが、スコップでザクザク切れた。でも、もちろん地上部は触ると痛いので、革手とかせんにゃあいけんのですけど。
藤葛とか、ばーって浅いところに縦横無尽に張ってるんで、ぽこぽこって外れるんですよね。ところがぼこぼこぼこって向こうまでつながっていて、綱引き状態になって......腰が(笑)。なかなか笑える状況だったんですけど。でも、そんな姿も、まあ、周りの人が見てくれちょったんですかね。「よく、やっちゃったなぁ」「昔の風景が戻った」とよく声かけられました。そんな感じで、はい、畑ができて、今年が3年目になります。
地の利を生かして、5反の土地をしっかり回していこうと思っています。
―― 今3カ所でやってらっしゃる?
宮田 はい。家の近くふたつと、ここ。
―― つくるお野菜の種類は毎年変わっていってるんですか?
宮田 えーとですね。あのー、(当初は)変わっていってたんですけど、(いまは)それぞれの地の利を生かして。
ここの畑は家から遠く、車で20分かかるので、週1回の草刈りで済むような、サトイモとか山芋とかそういうものを。で、家の近くと去年来てもらったところは、車で5分くらいなので、毎日収穫せにゃいけんトマトとかキュウリとか。適材適所とあとは、その、家からの距離を考えて。
―― 適材適所というのは?
宮田 土が全然違うんですよ。家の近くが砂、真砂土みたいな。こっちは粘土質です。うーん、ほんとはこっちでつくりたいものもあるんですが。
―― 粘土質の土のほうが畑には適してるんですか。
宮田 なんとなく土が肥えている気がしますけれどね。ただですね、今まで作ってみてですね、今年で4年目になるんですけど、3年作ってみて、家の近くの砂質の畑も、「あ、いいのできるじゃん」、とイメージが変わってきました。海沿いの、ほんと真砂土というか、砂というか、それよりもちょっと草が生えてくる感じになって、「あーなんか良い感じになってきたじゃん」ていうイメージはありますね。サトイモとかネギとかも、(実際に食べてみて)味が乗るんだなって。
―― 肥料とか工夫をされてるんですか?
宮田 私の場合、海藻と海水と竹ですね。周防大島の味です。
猛威を振るう竹も打ち上げられた海藻も(私がとると)「あーきれいになった。嬉しい」って島の方に言われます。
竹は、竹チップにしたり、焼いて竹炭にして撒いています。それから、漁師さんからは、魚のアラ、豆腐屋さんからは、おからをいただいて、それらも、肥料として使っています。この地で採れるもの、地球に還るもの、循環するもので、やりたいので。
海藻は、私の今までやってきた中でですね、肥料っていうよりもミネラル供給装置みたいな感じなんです。海藻って何回か雨にあっても齧るとしょっぱいんですよね。だから、こう、じわじわと溶け出して、ミネラルが溶け出して土に供給してくれるっていうようなものの位置づけですね。
作物はメインが冬場はネギと里芋、あと夏場はキュウリ、それからミニトマト、春がブロッコリーということで、この5品目ぐらいに絞ってはいるんですけど。
―― もっと増やしていく予定とかありますか。
宮田 今はですね、とにかく5反、畑だけで5反あるので、今はとにかくこの5反をしっかり回していこうと。機械でやれば、(もっと増やすなどの選択肢が)あるんでしょうけど、棚田で手作業でっていうことになると、とにかく今は5反、それをしっかり回して行こうっていうことですね。まあ、ここでそれで何とか生計を立てられるのであれば。もっと、ここでこんだけやってカツカツ食っていけるっていうのがですね、お示しできれば、また移住者の方も増えてくれるんじゃないかなあって。農業してくれる人が増えてくれたらいいなって思いますね。
―― 日本全国に放棄地がいっぱいある状況をちょっとでもなくしていく流れになってほしいですよね。
日本は、気候条件的には自給率100%に持って行ける国なんです。
宮田 あと、一番の問題はですね、日本はやっぱり自給率が低いですね。今、日本の自給率は、30%台くらいでしょうか。本当は、日本は、気候条件的には自給率100%に持って行ける国なんです。なかなか世界的に見ると少ないと思うんですけど。
―― なるほど、持っていこうと思えば持っていける
宮田 気象条件でいうと、楽勝で持っていけますね
―― やっぱりそうですか
宮田 なんでそれをしないかなって。おそらく農業者は人口のほんの数%ですよね。一番大切なのは食糧自給を上げて、安全な食料を供給する。加えて、食糧保障がないと飢えてしまいますよね。なんかあったときとか。
―― ほんとにそうです
宮田 たぶん今の食糧自給は戦後直後とかより悪いと思う。
―― 実際に飢えていた時代よりもってことですよね。
宮田 そうです。
以前、アフリカに住んでいたことがありますが、アフリカとか行ったら、乾期でなんも草一本生えてなくて、たまたま雨降ったらそれを待ってたように芽吹く。地域によっては、海から海水が上がってきて塩田になってしまったり。少ない雨だけだと、塩類集積になって農地を作れない。そういう地域もいっぱいあるのに。(日本の場合)どこいっても草の対応に夏は困るぐらいです。冬は冬で冬野菜がいっぱいできるし、そんな地域は世界的に見れば少ないですよ。
―― そうですねえ。
宮田 米は米でこんなに、あの、今だんだん放棄地になってますけど、田んぼのある国で、で食糧率は戦後よりも少ないとかありえんやろって(笑)。
―― ありえんですね、ほんとですね。
宮田 ほんとは若い人の職業の選択の一つに農業という、国を、食料を守る農業が(加わってほしい)。「僕は製造業で働きます」「私はサラリーマンになります」といった一つに農業がもっと挙がっていいはずなんです。
内田(樹)先生が言われるように、「経済原理と農業の生産原理と全然組みあわさらない」。軋みが、もうかなりガタがきている(笑)。まあ、そういうのが今の現状なんですよ。打開策がみつからん。
手間暇かけた分を載せて値段をつけるのは、無理だと思います。
―― うかがっていて、思ったのですが、野菜のお値段ってどうつけるのかなって。たとえば、実際に手間暇かけた分を載せていく形で値段をつけるのっていうのは......
宮田 無理だと思います。
自分の労力を、労働力をすべて値段に換算したら、ネギ1本が500円とか(笑)。
―― そ、そうですよね。
宮田 有機農業を志しても辞めちゃう人が多いっていうのは、もうこれくらいの値段にしかならんのやったら、というのもあるでしょうね。
―― そっかぁ。
宮田 だから、市場原理とこの生産原理って......なんか難しいですね。
休みの日も、次の作業のことで頭がいっぱいです
―― 今、宮田さんの1日ってどんな感じで動いてらっしゃるんですか。
宮田 えーとですね。だいたい6時過ぎぐらいから水やりして、最近はもうずっとここに付きっ切りやったんで、車で20分かけてここに来て、えーっと、弁当を持ってくるときもあるし、家に帰って、で、必ず12時から2時までは休みます。はい。そこから後は、もう暗くなるまでですね。だいたい今は7時過ぎくらいですかね。
―― それはハードですね。
宮田 いや、でも、去年はほんと休み取らなかったんですけど、やっぱちょっと体にきてしまって。
―― そうだったんですか......。
宮田 普通お盆過ぎにはだんだん涼しくなって体が楽になるはずが楽にならないんですよ。で、医者行ってみても、「こんな綺麗な臓器とか血管、頭の血管見たことありません」と(笑)。数値もめちゃくちゃいいですねと言われて。でも、夏バテなんですかねー、心労かもしれませんね(笑)。
で、週1回休むようにしました。
―― 休みの日はどうされてますか。
宮田 あの、休みの日は、もうゆっくりです。家でゆっくり。でも気持ちはすごく、次の農作業のことでいっぱいです(笑)。
―― つい(笑)。そらそうですよね。
宮田 私が夏バテしてたのを家内も見てるので、「休まないと、いけんよ!」って。甘えてちょっと休むようにはしたんですけど。
休憩とかもキチッキチッと取った方がいいということだったので、なるべく午前中に1回、午後から1回という風には30分くらいは休みを取るようにはしてます。なかなか難しいときもあるんですけどね。そのとき、ミシマガジンを読ませてもらったり。
―― 嬉しいです!
いろんな日本各地のそこの味が出てくると、おもしろいと思うんです
―― そんな宮田さんの野菜はどこで買える、というか手に入るわけですか。
宮田 今は主には山口県内の流通販売業者に出荷していて県内のスーパーで売られています。流通販売業者以外だと「島のむらマルシェ」、「ジャムズガーデン」それと「道の駅」とかですね。
―― 最後の値付けは小売りがするわけですか。
宮田 スーパー以外は自分の希望する値段がつけられるけれど、スーパーでは決められません。自分の価格と合わない場合でも「じゃあ取引しません」と言えないんです。野菜の場合は、それをしていったら、(出荷時期が短いので)間に合わない。旬が過ぎてしまう。
結局、ものや時期によっては、時給に換算すると100円200円になってしまって(笑)。私にかぎらず、最初はみなさんすごい苦労されちょってですね。自分の希望する、自分のやってることと市場の値段のギャップにですね。
流通販売のほうもいろいろ頑張っちょるのですが、これは「経済原理と農業の生産原理との軋み」で今はしょうがないと思うんですが、なんとかなればと、もがいています。
―― でも基本は小売りの方の買い取りではあるわけですよね。
宮田 いや、全量買い上げのところもあるし、売れた分だけっていうところも。
―― 売れた分だけってきついですねえ。
宮田 手塩にかけた野菜が、自分で価格を決めることができないで、その上、売れ残った場合はやっぱり辛いです。ええ。しかし、流通販売業者の方も頑張っちょってし、うちのほうももっと努力していこうと思います。
たとえば、うちの畑の様子や野菜の出来る過程を発信したり、畑に実際に来てもらうとか、マルシェなどで試食してもらうとか、その他にも、周防大島自体がこんな豊かな風土だということとかも含めて、ちゃんと伝えていくとか。私たちも頑張っていこうと思います。
そうして、いろんな日本各地のそこの味が出てくると良いというか、おもしろいと思うんですよね。山には山の味があるやろうし、(ここのように)海風がしょっちゅう来る畑もある。海風に乗って塩分は運ばれ、ミネラルが来る畑っちゅうんでしょうか。一番いいのはやっぱり身土不二っちゅうことで自分が生きているところのものを、自分が寒いときは寒いって野菜も感じてる。自分が暑いときは暑いって野菜も感じているもの、それを食べるのが一番体に優しいと思います。体に一番力をくれる。それが基本と思うのですが、それをその地域の味として売っていければ。同じキュウリひとつにとっても、いろいろな産地の気候風土の特色の味がするとかおもしろいと思います。とにかくこの島で生活できるだけの売れるものがあればいいなあと。そういう方法があればいいなぁと思いますね。
―― 本当にそうですね。
宮田 先日、『ちゃぶ台』を読んだという、高校生たちが来て。
その子が、「僕たちのゼミでは、農業と市場経済のこととかを今研究したり、討議してる」と言うので。それで私は、「ぜひ良い案があったら教えてください」って深々と頭下げました。藁をも掴むこの気持ち(笑)。
―― 案外、そういうところから新しいものが生まれるかもしれないですね!
宮田 いろんな方の意見で、こう、ポンと前に進んでいくのかなと思いますね。
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