第21回
ナガオカケンメイ×井川直子「つづいているもの」が持つ、"なんか正しい感じ"の正体(2)
2023.05.14更新
5月12日、井川直子さんの『ピッツァ職人』が発売となりました!
「井川直子さんの新しい本が出るんです」とお伝えすると、「井川さんの文章、好きなんです」と仰る書店員さんや編集者さんがたくさんいらっしゃり、嬉しい気持ちになることがしばしばあります。
数多くの飲食店を取材されている井川さんが追いかける、料理人、職人、お店には、共通する何かがあるような気がします。流行っているとか、華やかとか、そういうことではない、静かで熱いもの。それに呼応するように、井川さんの文章にも、派手ではないけれど切実な何かが宿っていく。それが読み手に伝わる。
6年前、ミシマ社から井川さんの著書『昭和の店に惹かれる理由』が発刊となった際、ナガオカケンメイさんとご対談いただきました。そのときに語られたのは、まさに、なぜそのお店に惹かれるのか、どんな人や物に惹かれるのか、というお話でした。おそらくそれは、今回井川さんが『ピッツァ職人』を書かれた理由にもつながっている気がします。
昨日に引き続き、その対談の一部をまとめた記事を、再掲します。『ピッツァ職人』そして『昭和の店に惹かれる理由』。ぜひどちらもお手に取っていただけたらと思います。(前半の記事はこちら)
ナガオカケンメイ×井川直子「つづいているもの」が持つ、"なんか正しい感じ"の正体(1)
※本記事は、「旧みんなのミシマガジン」にて、2017年5月18日に掲載されたものです。
単機能だと、人間の手に負える
ナガオカ その話をデザイン業界にもってくると、やっぱり答えられるなって思って聞いてたんですけど。例えば「不器用」でいうと、ロングライフな家電て、ほぼないんですよ、器用だから。
井川 ああ、はい(笑)。
ナガオカ 最新機能が家電のウリなんですよ。でもロングライフな家電って、だいたいリサイクル屋に行けばあるんですけど、アイロン、扇風機の類ですね。要するにスイッチを入れたら回るだけみたいな、そういう単機能なものの方が最終的にロングライフになっている。うちのお店で売ってるアイロンも、スチーム機能とかないんです。それが一番ロングライフなアイロンなんです。最新機能にすがった瞬間に、次の年には最新機能をウリにした家電がくるんで、古くないのに古くなっちゃうので、そういう意味で不器用なほうがいいなっていう。
井川 ほんとそうですね。さっきたまたま控え室で話していたんですけど、今日出がけにウチのお手洗いのお水が止まらなくなっちゃって、どうしよう遅刻しちゃうって思いながら、奮闘していたんですけど。
ナガオカ 止まったんですか?
井川 止まったんですよ。浮きとかをガチャガチャやってたら止まったんですけど、アナログなものだから止まったんだよねって話をしていて。これが電動制御だと、私の手には負えない。だから単機能でちょっとアナログなものって人間の手に負える気がするんですよね、まだ。私も実は単機能好きなんですけど、それしか用途がないというものがすごく好きで。手に負えるんですよ、一個の機能だと。
ナガオカ そうですよね、だいたい最新の家電は使ったこともない、一生使わないような機能がいっぱい乗っかってて、それをウリに家電屋さんがセールスして、そのセールスを真に受けて買ったけど二つぐらいの機能しか使わないみたいな、そういう世界ですよね。
井川 結局シンプルが。壊れないですしね。
流行にどう乗らないかという工夫
ナガオカ 「逆行」も、やっぱりデザインにも置き換えられて、流行をあてにしないっていうか。流行にいかに乗らないか。流行ってなんでもかんでも津波のようにさらっていくので、そこにどう乗らないかっていう工夫を老舗の人たちはしている。
井川 どう乗らないか。この昭和の店の人たちに関していえば、自分以外はあまり気にしないですね。
ナガオカ そうなんだ(笑)。
井川 まったく気にしないわけではなくて、シンスケさんみたいにベジタリアンの外国人客が増えたら、鰹のお出汁を使わないものも置いたりとか、そういうふうに緩やかに変化はしていくんですけども、たとえば世の中の居酒屋がどうだからとか、世の中の天ぷら屋がどうだからとか、そういう考え方は不思議なぐらいみなさんしてない。
ナガオカ 普通そういう発想しちゃいますよね。
井川 しちゃいますよね、たぶん。
ナガオカ たとえばおみやげの開発とかするときには、だいたいどっかの県の成功事例を見ながらおみやげをつくろうとするから、だんだん似てきちゃうんだけど、そういうことしない。
井川 しないですね。
ナガオカ 難しいですよね、要するに社会の情報をシャットアウトして、自分と向き合いながらなにか作っていくって。
井川 そうですね。たぶんでも、たとえばフランス料理を食べに行ったりですとか、そういうこともされたりするので、情報をシャットアウトしているっていうよりは、情報は入ってくるけれども、でもあてにしないっていうことじゃないですか(笑)。
ナガオカ あはは、そうですね(笑)。
お父さんより、おじいさんの影響のほうが強い
ナガオカ やっぱりちゃんと、きっちりしている人たちに取材を繰り返すことによって、自分もなんとなく背筋が伸びたりしますよね。
井川 ほんとにそうですね。心構えが変わってきました。人への向き合い方ですとか、まず顔を見に行く、挨拶をする、というところからとか。本当に、忙しい毎日を皆さん送っていると思うんですけど、つい、メールで電話で、ということも多いんですよね、取材依頼でも。だけれども、基本的に足を運んで、頭を下げる、という。
ナガオカ 足を運ぶ、頭を下げる、手紙を書く。
井川 いまコーヒースタンドが人気ありますけれども、この前会った、海外でコーヒーを学んできた人は、Tシャツを着て、スニーカー履いて、コーヒーを作っているような若い男の子なんですが、本当にスタンスが昭和で、仕事を一緒にしたい人は、まず会いに行く。アメリカでも......そこがちょっと、昭和とは違うスケール感なんですけど(笑)。アメリカでも会いに行くし、日本全国どこでも、まず、身銭切って、電車に乗って行く。で、挨拶からはじめるって、同じことをおっしゃっていました。
ナガオカ なんですかね、その人たちは何を見て、何をして、そうなっていったんですかね。
井川 お父さんより、おじいさんの影響のほうが強いというか。いつの時代も、一世代上より、二世代上のほうが、なんか共感できるものがあるのかなって。別に全然、学問に基づいているわけではないですけど、私の勘としてなんとなくあって。なんかこう、一周めぐって、お父さんたちが取りこぼしてきたものを、でもおじいちゃんがまだ持っているものを、拾っていこうとしているんじゃないかなって、すごく感じます。
ナガオカ それはなんか、テストに出てもいいような話ですよね。実際そうですよね、企業もやっぱり、ぎりぎり創業者が生きてらっしゃるときに、創業者にひっぱたかれた人たちの姿勢ってやっぱり違うし。
井川 そうですね。すごく感じます。
編集部からのお知らせ
【MSLive!】5/24(水)井川直子×中村拓巳×河野智之 「ピッツァ職人という生き方」~『ピッツァ職人』刊行記念~
あのナポリへ、高校に行かずに飛び込んだ、日本人青年がいた――
5月19日に発刊となる『ピッツァ職人』は、そんな青年、現在、吉祥寺にあるピッツェリアGGでピッツァを焼く中村拓巳さんの存在を、著者の井川さんが知り、衝撃を受けたことがきっかけで生まれました。
衝撃の出会いから12年。中村さんがピッツァ職人として歩んだ道のり、その過程で意気投合したピッツェリアGGのオーナーである河野智之さんをはじめ、日本のピッツァ文化を生み出してきたたくさんの職人の方々の生き様が、迫力の筆致で綴られた一冊が完成しました。
本の完成を記念して、今この時代にピッツァ職人として生きるということ、その喜びと困難、感じている可能性などについて、中村さんと河野さんに直接お話いただくイベントを企画しました。聞き手はもちろん、井川さんです。
当日は、ピッツェリアGGのお店から生配信。中村さんと河野さんが、実際にピッツァ作りの実演もしてくださいます!
ピッツァが好きな方はもちろん、職人の生き方に興味がある方、飲食に限らず何らかのお店をやっている方、何をやりたいのかわからず立ち止まっている方…みなさま、ぜひ奮ってご参加ください!3人への質問も大募集です!
<出演>
井川直子(『ピッツァ職人』著者・文筆業)
中村拓巳(ピッツァ職人・〈ピッツェリアGG〉)
河野智之(ピッツァ職人・〈ピッツェリアGG〉オーナー)
<開催日時> 5月24日(水)19時~
※イベント翌週に、申込者全員にアーカイブ動画をお送りします。
※アーカイブ動画は2023年7月30日まで、何度でもご視聴いただけます。
<参加費>1,650円(税込)