雨宿りの木

第29回

ユマニチュードの5原則と生活労働憲章

2023.11.29更新

 こんにちは。

 前回は、自分たちの施設が「良いケアの場である」ことをどうしたら客観的に評価できるかについて、フランスの施設の運営者とそこで働くスタッフが考えた結果生まれた、「ユマニチュード認証施設」についてご紹介しました。

 ユマニチュードを導入し、認証を目指す施設は、5つの原則の実現をゴールに定めてさまざまな活動に取り組みます。この原則は、前回もご紹介いたしましたが、

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の5つです。

 この5つの原則を常に行うことは、実際のところ容易ではありません。「強制ケアをしない」ことは「ケアを放棄する(あきらめる)」ことではありません。強制しなくても、相手が受け入れてくれるケアを実施することは、私たちが技術を身につければ、可能です。技術だけでなく、その施設を経営する組織や働き方のシステムを作ることも同様に大切です。

 私は初めてユマニチュードを学んだとき、良いケアをするためには現場のスタッフが技術を身につければ実現できると思いました。でも、実際は違いました。どんなに現場のスタッフが個人プレーで頑張っても、施設が変わることはなく、良いケアの場は誕生しないことを、日本のさまざまな施設で経験しました。

 施設にユマニチュードを導入するにあたっては、個人のケア技術を上げると同時に、その技量が十分に発揮できる組織と働き方のシステムを作り上げることが不可欠です。それだけでなく、施設にいる患者さん・利用者の方々と、職員、経営者の三者がそれぞれを大切に尊重することを約束し、その約束を守っていかなければならないことをユマニチュード認証では求め、これを「ユマニチュード生活労働憲章」として定めています。

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 患者さんや入居者の方々が大切にされることはもちろん大前提です。それと同時に、職員も同様に患者さんや入居者の方々から、そして経営者からも尊重される存在です。三者が対等な立場で互いを尊重し合うことは、私たちが市民として生活するにあたって大切なことです。最初にこの憲章を読んだ時には、何かおおげさだな...と感じたのですが、実際のところ、毎日のケアを行うにあたってこの基本に立ち返ることがいかに大切か、ということを痛感します。三者全てが尊重される状況になって初めて、私たちは自分が今いるところを「自分が安心できる場所」として捉えることが可能になります。

 たとえば、最近指摘されることがふえてきた「顧客によるハラスメント」(カスタマー・ハラスメント)は、顧客(この場合は患者さんや利用者の方々)が職員に対して過剰なサービスを求めることで起こりますが、その場合、職員は顧客から大切にされていませんし、経営者がその状況を放置する場合には、職員は経営者からも大切にされていません。つまり、生活労働憲章に反した状況になるわけです。ユマニチュードでは、顧客と職員は同様に大切にされるべき存在と考えます。もちろんそのケアの場を運営する経営者も同じです。

 ユマニチュード認証の取り組みは、まず最初にこの生活労働憲章に三者が署名するところから始まります。現在、日本で認証に取り組んでいる病院や介護施設の数は30です。ここから新しいケアのスタンダードが誕生することを心から願っています。認証制度についてご興味を寄せてくださる方がいらっしゃいましたら、日本ユマニチュード学会のwebsite をご覧になってください。

本田美和子

本田美和子
(ほんだ・みわこ)

国立病院機構東京医療センター総合内科医長/医療経営情報・高齢者ケア研究室長。1993年筑波大学医学専門学群卒業。内科医。国立東京第二病院にて初期研修後、亀田総合病院等を経て米国トマス・ジェファソン大学内科、コーネル大学老年医学科でトレーニングを受ける。その後、国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センターを経て2011年より現職、高齢者・認知症患者のケアに関する研究に従事。2011年より『ユマニチュード』の研究・日本への浸透を担い、2019年7月一般社団法人日本ユマニチュード学会を設立、代表理事に就任。

※一般社団法人日本ユマニチュード学会は、フランス生まれのケア技法『ユマニチュード』の普及・浸透・学術研究と会員間の相互交流を通じ、誰もが自律できる社会の実現を目指して様々な活動を行っています。会員としてご一緒に活動いただける方、会の趣旨に賛同してのご寄附など、随時募集しております。詳しくは、ウェブサイトをご覧ください。

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